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令嬢、旅に出る④

「神様のせいか知らないけど、あそこの連中はちょっと暴力的なのよ。よそ者に対する当たりもきついって聞くし」

「私も行くのは反対ですわ。見たこともない神様を信じる人たちとは、仲良くなれる気がしませんもの」

「あら。アレス神のこと、リサは信じていないの?前に一回だけ、南方に大型のモンスターが現れたときにあの国の戦士と組んだことがあったけど、実際かなり強いかったわよ。人間がするとは思えない無茶苦茶な動きを当たり前のようにしてたから、神様から力を貰っているってのも、馬鹿にできた話じゃないって思ったけどね」

「別に信じていないわけじゃありませんわ。ただ単に、実在不在がはっきりしていないことを妄信する、その在り方が好きになれないというだけですわ」

 アレス神国の人間は全員、神様から『戦意』を与えられている、と聞いたことがある。それはアレス神の力の一つで、ただその場にいるだけで周囲の人間の力を増幅させ、好戦的にするというもの、らしい。

 だが、実際にそんな力が存在するのかは、実際のところわかっていない。アレス神国の人間が、自分たちの国には神がいると言い、実際に戦神アレスの民らしく好戦的な人間がアレス神国には多いため、そういう力もあるのだろうと、周囲の国も納得しているだけだ。

 要するに、アレス神が本当にいるのかは、アレス神国の民でさえ知らないのだ。知っているとすれば、アレス神の言葉を民へと伝えるとされる神官たちくらいだ。だが神官たちは神託の時以外、アレス神が住むとされる神殿から出てこないし、神殿への立ち入りは一般人には禁止されている。だからアレス神国に住み、神殿への出入りが唯一許されている神官になる以外の方法では、アレス神の実在を知る手立てはないそうだ。

 噂で聞いた話では、民たちにも聞けば間違いなくいると言われるのだが、実際に見たことはあるのかと聞くと、自分たちのような下賤なものに神が姿を見せるわけないだろうと言われ、話を切られてしまうらしい。

「戒律も厳しいし、犯罪者に対する刑罰がほとんど死刑かそれに限りなく近い拷問だって言うんだから、後ろめたいことがある私たちがいける場所じゃないわ。冒険者は勇者として優遇されるっても聞くけど」

「自国の民限定の話でしょう。アレス神の血を持ってない者は、基本敵としてしか見られないと聞きましたわ」

「ふーん。そんなに怖い場所なんだね、そこ」

「噂での話だけどね。実際に行った人間が少ないから、昔聞いた話をみんな話してるだけ。もしかしたら、今は少しマシになってるかもしれないけど……」

「可能性は低いですわね。アレス神がいてもいなくても、不老不死の神がいると民が思い込んでいる限りは、在り方を変えることなんてできないはずですから」 

 物語で語られる神様というのは、基本理不尽なものだ。人間(わたしたち)の都合などお構いなしに力を振るい、地を壊し人を殺す恐ろしい存在。

 かと思えば、人間が困っているときに力を貸したり、自分たちの力をわけてくれたりする、慈悲深い存在でもある。

 彼らの機嫌次第で、私たちの生活はがらりと変わる。勝手に生活や戒律を変えたりして、神様の機嫌を悪くすれば災いが起こるだろう。伝承で語られる通りの力がもし振るわれるとしたら、国自体が滅ぶかもしれない。そう一瞬でも考えてしまえば、軽率に行動などできるはずがないのだ。

 民全員が神様から恩恵を得ることができる代わりに、神様を常に恐れなくてはならない国。選ぶ自由が常に制限されている国が、アレス神国と言えるだろう。自由が欲しい私にとっては、行先としては論外な国だ。

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