令嬢、旅に出る②
「む、むり!今更あんたの仲間になるとか、絶対むり!
「そんな……」
意外にも、ベルダからの返答は猛否定だった。わだかまりもここ数日で解けたことだし、誘えばあっさり承諾してくれるものだと思っていたが、現実はそううまくはいかないらしい。
「だめ?」
「だめ!というか、あ、あんたはそれでいいの!?私、あんたにだいぶ酷いことしてきたじゃない!私のこと、嫌いなんじゃないの!?」
「ふっふっふっ。そこは気にしなくて大丈夫ですわ。あなたからの嫌がらせなんて、兄上からの嫌がらせに比べればくすぐり程度の物ですわ。気にもしていません。許しますわ」
「うぐ。で、でも……私が許容できないしー……」
困ったように唸りだすベルダ。まあ、ベルダからすれば今までずっと険悪だった相手が急に仲間になろうと誘ってきているのですから、戸惑いますわよね。
とはいえ、誘いを拒絶するのではなく、迷うということは、嫌ではないと考えられますわ。なら。
「というか、あなた行くところがないのでしょう?」
「あう」
「これから先どうしますの?ずっとここに住むわけにもいかないでしょう」
「あうう」
「かといって、金も職も仲間も家もない状態で生きていけるほど、この国は優しくありませんわ。数日過ぎたら、また倒れるまで追い込まれるでしょう」
「あううう」
「行く当ても、これから先の展望もない。なら、将来の見通しがつくまでは、それなりに路銀を持っている私についてくるのが一番ではなくて?今までの禍根を気にしている時間はないのでは?」
徹底的に選択肢を絞れば、必ず食いつきますわ。ほぼ脅しに近いやり方ですが、やむをえません。
ええ、誘うという形はとりましたが、ベルダには必ずついてきてもらいます。それが私たち双方にとって、間違いなく良い未来に繋がるはずですもの。
「うううう!あ、あんたって、びっくりするくらい性格悪いわね!?そんなこと言われたら、断りようがないじゃない!?」
「断られたくないので当然でしょう。それで、どうしますの?この街で石を投げられて暮らすか、一人寂しくあてもなく旅に出るか、私と一緒に遠くへ行くか」
「くうううう」
ベルダはまだ踏ん切りがつかないようで、首を左右に振りながら唸っている。後もう一押し押せれば、頷いてくれそうなのですけれど、これ以上強要すると最悪ふさぎ込んでしまいそうで怖いですわね。
何かいい方法はないだろうか、と考えていると、がちゃりと後ろからドアが開く音が聞こえてきた。ノックもなしに誰だろうと思い振り返ると、そこには意外な人が立っていた。
「おひさーお嬢。元気してた?」
「あ、アンナ!?」
アンナがパンパンになったカバンを背負って、こちらにひらひらと手を振って立っていたのだ。予定では明後日来ることになっていたはずなのに!
「本当はちゃんとあの手紙の通りに来る予定だったんだけど、なんか、お嬢がいない屋敷って居心地が悪くてさー。気分が悪くなってきたから、さっき辞めますって言って辞めてきた。服とかお金とかと一緒に、こっそりためこんでおいたお菓子とかももってきたから、あとで食べよ」
「辞めてきた、って!?私まだあなたには何も話していませんわよね!?」
手紙には大事な話があるから一度この家まで来てほしいとしか書かなかった。だからアンナは私が何をしようとしているか、自身に何を頼もうとしているか、まったく知らないはずだ。そんな状態で仕事も寝床も捨てて私に会いにくるとか、意味がわからない。
「あなた、明日からどこで過ごすつもりなの……?」
「ん、ここで寝ちゃダメなの。貸し切りなんでしょ、この家」
「んなわけあるかですわー!?私がそんなお金もってるわけないでしょう!?」
「えー、でも大家さんからはどうぞ上がってくださいってさっき言われたよ?」
「その人が持ち主ですの!というか、ラースさんが冒険者なのはあなた知っているはずでしょう!?」
「え。知り合い、だったけあの人」
「こ、このぽんこつ駄メイド、まだ数年も経っていないでしょう!?本当に忘れていましたの!?」
「人を覚えるのって苦手なんだよね……あ、でも食べたご飯の中身なら、十日前の分まで覚えてるよ」
「聞いてないですわよ食いしん坊!」
驚くくらい何も考えていなかった。どうしよう。この子を連れて行くのが少し、不安になってきた。怪しい人についていったりしそうで怖い。
「ところでお嬢。後ろに見覚えがある人がいるんだけど、どうしたの。拷問中?」
「物騒なこと言わないでくださいな。子供もいるのですわよこの家。ここにきてからいろいろあって、ここで看病していたの。ね、ベルダ」
「……今はさっさと返事しろって、脅迫されてるけどね……」
「やっぱり拷問だ」
「誤解ですわ!?きょ、強制はしていませんし!」
「口で言ってないだけでしょ……そうだ!あんた!あんたはどうなの!主人に嫌がらせをしていたやつが、急に仲間になったりしたら嫌でしょう!?」
「え、急に何?何の話?」
顔にはてなマークが浮かんでいるアンナに、ベルダが解雇されたことと、私がベルダを仲間にしようとしていることをざっくりと説明した。話し終えると、アンナはなるほどーと言いながら、大きく頷いた。
「別にいいよ」
「なんでよー!?もっと迷いなさいよー!」
バタバタと暴れるベルダ。たぶん、もっとアンナが迷うものと思っていたのだろう。アンナが迷っている間に言い訳を考えようとしていたのかもしれないが、当てが外れたようだ。
「私としても、もう少し迷ってほしかったですわね……」
少ししょんぼりしてしまう。即答したということは、今までのことを全く気にしていないということだ。そしてそれは、嫌がらせを受けた私のことも気にしていないということになってしまうはずだ。そう考えると、心がモヤっとしてしまう。
「嫌がらせを受けてたお嬢が微塵も気にしてないんだから、あたしがその事で怒ったりしても困るだけでしょ?」
「ああ、そういう……いえでも、ちょっとためらうくらいなら全然いいのですわよ?」
「うーん。鋭意、努力します」
「よろしい」
「たぶん明日には忘れてる」
「せめて三日ぐらい粘りなさい」
私とアンナが喋っている間にも、ベルダはああでもないこうでもないと唸っていたが、やがて腹が決まったのか、ふぅと一つため息をついた。
「まああんたの言うことが正しいわよね……実際、一人でぼんやり生きていくよりはあんたらといたほうが楽しそうだし……ああもうー!行く!行くわよ行きます行けばいいんでしょー!もうどうにでもなれよー!」
「グッド!そう言ってくれると信じていましたわー!」
パン、と強引に手を合わせてハイタッチ。ベルダが仲間になって、アンナもここに来たことだし、さっそく作戦会議ですわ!
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