令嬢、家出する⑨
「そのまんまの意味よ……切りかかったら急に、目の前が光りだしたの。たぶん光属性の魔力を使った魔力の放出ね。訓練をしていない人間にはそうそう使えるものじゃないから、あいつがそれをできるなんて思いもしなかったわ。油断していた私は、思わず目を閉じてしまったの。そしたらその瞬間、何かが顔に飛んできたわ。すごい威力だったわ……感覚的には、そうね。重い鉄球を真正面から叩き込まれたって感じかしら。当たり前だけど、一発で意識が飛んだわ。吹っ飛ばされた後、グレア様が私に回復魔法をかけてくれなかったら、もしかしたら死んでたかもって感じるくらい、恐ろしい一撃だったわ……」
その時のことを思い出しているのか、ベルダの顔は少し青くなっていた。たぶん、私も同じような感じだろう。人は見かけによらない。私と同じような箱入り娘だと思っていたアンジェリカ様が、ベルダが怖がるほどの力を持っているなんて思いもしなかった。あの細腕で一体、どんな手品を使えばそんなことができるのか。
「……アンジェリカ様は、丸腰だったのでしょう?あなた、光の中で何をぶつけられたの?」
「それは私が知りたいわよ!意識を取り戻したらあの女、『手加減できなかった。けどこれではっきりしたわ。それじゃ』って言って速攻で帰っていったもの……。それも腹立つことに、いつもみたいに堂々とじゃなく、本当に申し訳なさそうに小さな声でぼそぼそと言ったのよ……。もう私のプライドはズタズタよ。グレア様も私のことを可哀そうなものでも見るような目で見てきたわ……。一日後にはあいつの言うことも一理あるかもしれない、みたいなことを言われて屋敷を追い出されたし……わーん!うぅ、どうして、こんなことになるのよぉ!」
ばたんと、力尽きたように泣き崩れ、布団に再度くるまりだすベルダ。大変な目にあってきたのはわかったが、ここで話を終わらせてもらっては困る。私が知りたいのは、なんで兄上の家を追い出されたかじゃなくて、なんで街の真ん中で倒れていたかなのだ。
「そのあとは、どうなりましたの。屋敷を追い出されても、あなたには冒険者ギルドという稼ぎどころがありますわ。そこでお金を稼いで宿をとれば、しばらく暮らせたはずでは?」
「あぅ…………そ、それも聞く?聞くのね。ふ、ふふふふふ……わ、笑わないでね?わ、笑ったら、わ、私、本当にしぬかもしれないから」
もうすでに死にそうですけれど、と思いつつ、無言でうなずく。突然やってきた主人の婚約者に職場を追い出される以上の悲劇があるとは思いたくないが、ベルダの声音がさっきよりもか細くなっている。覚悟して聞かないと。
「…………屋敷ををでたとき、私すごく死にそうそうでね……あ、精神的てきにってことね。ごめんなさい、ややこしくて」
「べ、ベルダ?そんな小さなことで謝らなくていいのですわよ?」
「……うん。とにかく死にそうでね……ちょうどこのへんの路地裏でね……なにもかもいやになってすわりこんでたの……。でも……このあたりが危険だって私しってたから……ほんのすこしの休憩のつもりですわっただけなのよ……。ふ、ふふ、ふふふっ……で、でもね?お、おかしいの……き、きづいたら朝になっていてね……わ、わたしの、にもつ、ぜんぶ、夜盗にとられちゃったの……」
「あっ……そ、そうでしたの」
「う、うん。ば、ばかだよね。で、でもね、これはまだましなの」
「冗談でしょう!?もう今の時点で既にいたたまれない状況ですわよ!?」
「そ、そのあと、唯一つ離さずにもっていたライセンスを頼りにギルドに行ったの……なにもかも失ったけど、それなら最初からやり直せばいいって気持ちで……けどギルドに入った途端……ひっぱたかれて……おいだされた……」
「ど、どうして?」
「グレア様……最近街におりていた時に、冒険者の娘さんにも手をだしたみたいなの……その娘さんのお父さんは街でも人気者だったから、そのお父さんがグレア様を嫌うのと同時に、街のみんなもグレア様を嫌いになったみたいで……だから冒険者のみんな……グレア様の専属騎士なのに手を出すのを咎めなかった私も同罪だと思っているみたいで……誰も話を聞いてくれないの……」
「クソ兄上に代わって謝罪いたしますわ!本当にすみませんでしたわ!」
気づけば床に手をついて頭を下げていた。私の家族のせいで、一人の女性がいじめを受けていたなんて、申し訳ないにもほどがある。謝って済む問題じゃないし、なんなら兄上にも土下座をさせないといけない話なのだが、謝罪の品をだす金もないうえに本家に顔が出せない以上、私にはここで頭を下げる以外できることがない。
「必ず、必ずこの街を出る前に、あなたにお詫びをすると約束しますわ……」
「あ、頭をあげてよ……もとはと言えば私が弱くてドジなのが悪いんだから……ギルドを追い出されたあとは、宿も飯もとれなくて、道を延々と歩いていたわ……それで、気を抜いた瞬間に倒れちゃったの。そこの、男の人はラースっていうのね。その人に助けてもらわなかったら、たぶん馬車にひかれていたかも……なーんて、それは冗談よ!さ、さすがに、そ、そんな状況になったら、誰か助けてくれたはずだものね!?そうよね!?」
若干涙と震えが交じった悲しい声に、私は大きく頷いた。
「ええ、絶対にそうですわよ……もし人が許しても、私が許しませんわよそんなこと!うぅ、ベルダ!今からあったかいものを作ってきますから、その間はベッドでゆっくり眠っておくのですわ!」
「あ、ありがとう。あ、で、でもお代は」
「いりませんわ!あなたは何も考えず、ここでゆっくり眠りなさい!ラースさん!?」
「……はっ。す、すみません。あまりにも衝撃的な話についていけず、途中から放心しておりました……どうしたのですかリサ様」
「恥を忍んで頼みますわ。台所と料理の材料を貸してくださいな。必ず、礼は返しますわ」
「も、もちろんです!礼なんていりません、好きなだけ使ってください!」
「ありがとうですわ!」
部屋をでて、一階へと降りていく。自分の身のことも考えないといけないが、まずは身内の恥をそぐことから始めよう。アンナがここに来る前に、ベルダをいつもと同じくらいに、元気にするのですわ!
面白いと思ったら評価していただけると幸いです!




