令嬢、家出する⑦
「え、二人はお知り合いなんですか!?」
「……ええ。あまりうれしくないことに、ですわ」
まさか、こんなに早く私が死んでいないことがばれるなんて。それも兄上の専属騎士のベルダになんて、最悪が過ぎる。くっくっくっ、とベッドの上で笑っている姿がすごく腹立たしい。
「いやいや、これはおかしいな。お前はあの屋敷から決して出てはいけないとグレア様から聞いていたのだが……こーんな屋敷から離れた裏路地で会うなんてな。おかしい話だな?なぁ、リサ・フォーベルト。これはいったいどういう、」
「うざったいしゃべり方はやめなさい、ベルダ。ラースさんがいるからかもしれませんが、今更そのキャラで話されてもうっとうしいだけですわ」
ビキッ、と音がしたような気がする。ベルダの動きががぐんととまり、額から汗が流れだした。
「……な、なんのことよ、だ!?私はいつも通りに」
「8歳のころでしたっけ?子供の私に、真剣使って負けましたわよね」
「きゃう!?」
グルンと回転し、ベルダは枕に顔をうずめだした。この話でいじるのはもう三度目なのだが、いまだに恥ずかしいらしい。
「そのあとも負けっぱなしではいられないと、私の家に何度もやってきましたけれど、毎回不意を突かれて連戦連敗。最終的に信頼されていた兄上からも見下される始末。冒険者のくせに、恥ずかしくありませんの?」
「やめて!?!?本当にやめて!?一生懸命忘れてたのに思い出させないで!?あーーーーー!あーーーーー!あ、あんなにかっこつけたのに、っていやー!?恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいしにたいわしにたいわしにたいわー!!!」
奇声を発しながらごろごろとベッドを右へ左へと転がるベルダ。反応がいいのでついいじめたくなってしまうが、とりあえず今日はこの辺にしておこう。そんなことより、私には考えなければならない大事なことがあるのだ。
そう、ベルダをどう説得するかだ。当たり前だが、このままベルダを治療して兄上のもとに返したら、間違いなく家に引きずり戻される。黙ってもらえるよう、なんとか説得しなければならない。
「というか、なんでそんなにボロボロなんですの?」
「うっ!?」
ビグンと、体が跳ねてベルダの動きが再び止まる。なんか、魔力仕掛けのおもちゃみたいですわねこの子。
「それなんですが、この、ベルダさんと言うんですか?彼女、道の真ん中で倒れていたんです。私が見たときには手持ちの荷物も何も持っていない状態で、食事もとれず弱っていたところを、物取りに襲われたのかと思っていたのですが」
「それはないですわよ。ベルダは頭は悪いですけれど、腕っぷしと剣筋は中々のものですもの。大の大男が3人でかかっても、この子には勝てませんわ」
「そ、そんなにお強いのですか!?で、ではなぜ」
それは私にもわからない。ベルダはいつの間にか、顔だけではなくシーツの中に体を隠し、完全防御態勢に入っていた。話す気はないということだろうか。どうやら、私たちには話したくない、なんらかの事情があるみたいだ。
にたりと、自分の口角が上がっているのがわかる。ベルダには悪いけれど、そんな弱みを見逃すわけにはいかない。ベルダは兄上に少しでも自分のことをよく見てほしいと思っている。つまり失敗を知られるのを怖がっている。
私がベルダのミスを兄上に話すのを、彼女は決して望まない。ここで弱みを握れば、それを使ってベルダを黙らせることも可能なはずだ。私の未来のために何としてでも聞きださせてもらう。
「ベールダ。どうしましたの、そんなダンゴムシみたいに丸くなって。もしかして、私のことが嫌いになって、顔も見たくなくなってしまったの?」
「……お前は嫌いだけど、それは関係ない」
「まあ……やっぱり、あなたは私のことが嫌いなんですのね……私はあなたのことが好きなのに……ショックですわ」
「……え」
目だけをぴゃこりと、シーツから外に出すのを確認し、私は顔を覆いながら話し続けた。
「私、あなたのことは恨んではいても、嫌いになったことは一度もないんですのよ。だって、あなたが剣を振る姿はとても美しいですもの。思わず見とれてしまうほどの素早い一太刀。剣の稽古をするときは、いつもあなたの剣筋をイメージしながらしていましたの。私の中ではあなたは、剣の師匠なんですのよ」
「し、師匠!?」
「ええ。師匠として尊敬していましたわ」
これは本当だ。ベルダの剣は本人の性格と違って曲がったり変わったりせず、常に鋭くて素早くて、なによりまっすぐなのだ。勝つために相手の急所を徹底的に狙う(いわば何でもする)私のやり方とは全く別の、型にこだわった誠実な剣からは多くのことを学ばせてもらった。
「だから、あなたの助けになりたいのですわ。そのためにはまず、あなたが倒れていた理由を知りたいの」
「うっ」
「プライドが高いあなただから、聞かれたくないのはわかっていますわ。けれど、まずあなたがどんな状態なのか知るためにも、まず何があったのか、話を聞かせてほしいのですわ。お兄様には可能な限り黙っておきますから」
ベルダはしばらく、うーうーと唸りながらもぞもぞとシーツの中でうごめいていたが、観念したのか最後には顔を出し、おずおずと話し始めた。
「…………わたし、この前グレア様から……解雇されたの」
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