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令嬢、家出する⑥

 誤解が解けた後、私はランを部屋のベッドへと戻した。そのあとラースさんとレイナと呼ばれていた奥さんの三人で一階に行き、私の家庭の事情と現在の私の状態を話した。最初はうんうんと興味深そうに話を聞いていた二人だったが、兄上からの特訓と称した仕置きや死体偽装の話になると、だんだん相槌が減っていった。

 やはり、他人の不幸話を延々と聞かされるのはあまり面白くないみたいだ。だが彼らに匿ってもらう以上、経緯を説明しないのは誠意に反することだろう。厄介ごとを背負わせてしまう以上、せめて理由だけは知ってもらわないと。

「私が生きていることがばれたら、すぐに意地悪なお母さまに連れ戻されてしまいますの……。どうか、どうか私がここにいることは内密にお願いしますわね」

「も、もちろんです!必ず、必ず!誰にも言いません!」

「ぐすっ。ええっ、リサさんが旅立つまで、ぜったい私たちが守ります!」

 手を握りしめ涙を流しながら、ラースさんとレイナさんは私のことを隠すと約束してくれた。急に転がり込んできた私に涙まで流してくれるなんて……優しい人たちでよかった。

 朝日が昇ってきたころにランとレンが一階に降りてきたので、彼らにも(物騒な話は除いて)事情を話した。毎日リサさんと一緒だ、とはしゃぐ彼らを見ていると、胸が少し暖かくなった。私はこの家にいてもいいんだと、認めてもらえたような気がした。

 ラースさんは冒険者の依頼を受けに行き、レイナさんは近くの道具屋で働いて、ランとレンは街のはずれで開かれている勉強会にほとんど毎日参加しているらしい。だから、日中はこの家には誰もいない。一人でダラダラしているのも退屈なので、黒マントをかぶって外に出ようとしたのだが、全員に猛反対された。

「そんな恰好で歩いていたら、間違いなく不審者だと思われますよ!?捕まりはしないまでも、騎士団にマークされること間違いなしです!」

「そ、そうなんですの?」

 言われてみれば、たくさんの人がカラフルな服を着て歩いている街中に、黒ずくめの服に身を包んだ女がいたら確かに悪目立ちするだろう。そこまで考えておくべきでしたわね。

 私が外に出れないため、服と顔を隠すための道具はレイナさんに買ってきてもらうことになった。服の好みを聞かれたが、種類も何もわからなかったので、レイナさんに全てお任せすることにした。

 朝食を食べた後、レイナさんの作った弁当を持ってラースさんとランとレンは出ていった。レイナさんは私の分の食事が作れないことを謝りながら、必ず夕ご飯はリサさんの分までご用意しますと言って、家を出ていった。

 私には自分の分の食事がある。だから必要ないと遠回しに言いもしたのだけど、リサさんと一緒に食べたいんですと言われた。

「……ほんとに、優しい人たちですわね」

 お母さまなら、よそ者が転がり込んできたら間違いなく追い出すか騎士団に連れていく。ラースさんがそんなことをする人だとは思っていなかったが、ここまで親切にされると、それはそれで違和感がある。家族でも友人でもない人に、こんなに優しくする理由はなんなのだろうと考えてしまう。

 いやですわ、ほんと。どんな人間か、何を企んでるか、すぐに値踏みを始めてしまう。性悪なお母さまの影響ですわね、きっと。

 やることがなくなったので、なくなくベッドイン。休めるときに休んだ方がいいと、本にも書いてあったし、たまには惰眠をむさぼるのも悪くないのかもしれない。

 ひたすら眠って時間をつぶし、さすがに飽きてきた昼頃に、がちゃりと玄関が開く音が聞こえてきた。誰が戻ってきたのだろうと思い、部屋から顔を出す。

「あら、ラースさん?」

「あ、リ、リ……ベルトさん!た、大変なんです!依頼を終えて冒険者協会に戻ろうとしたら、人が倒れていて!」

「まあ!」

 階段を昇ってきたラースさんは、背中に人を背負っていた。顔は隠れて見えないが、体つきから女性だろうと想像できる。シャツとズボン一枚だけのラフな格好で、路上に倒れていたのか、肌は砂ぼこりで汚れていた。肌色も悪く、息も荒い。もしかしたら食事もとっていないかもしれない。

「食事をしっかりとらせるのは当たり前ですが、まず体を見るために寝かせないといけませんわね。私の部屋がちょうどいいですわ。運んでくださいな!」

「すみません!できる限り隠すと約束したばかりなのに」

「なーに言っていますの!患者がいるなら話は別、見過ごすわけにはいきませんわ!」

 と口では言ったが、平常時なら私は顔をしっかりと隠し、声も抑えて会話をし素性をほとんど漏らさないようにしていたと思う。たぶん、あんまりにもだらける時間が長かったから、私は気が緩んでいたのだ。

 ベッドで寝かせて、まず顔色を見ようとのぞき込んだ瞬間、私は凍り付いた。向こうも同じように固まった。たぶん私たちは全く同じことを、この時考えていた。

 なんで。こいつだけはこんなところにいるはずはない。もう二度と出会うことはないと思っていたのに。

「……こんなところで、何をしている……小娘?」

「……いや、いやいや。それは私のセリフですわよ、ベルダ。あなた、こんなところで何をしていますの?」



 

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