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四十六話 決勝戦

 その日、ハーンバスト学園のコロシアムには楽士隊による勇壮な演奏が響き渡ることになった。その音楽は学園中はもちろん、通信用の水晶体を通じてレクーツァ王国各地に響き、国中を熱狂の渦へと引き込もうとしていた。


 ガーデンデュエル。巨大な機械の騎士たちが己の覇を競い、争う戦いの場。大規模な戦というものがなくなり、人々はまさしく平穏な日々を過ごしていたが、それは同時に退屈で、暇を持て余す日々であった。

 時折、巨大モンスターの出没により、騎士団が派遣され、それを対峙するということにでもなれば多いに沸き立つが、そもそも巨大モンスターが暴れるということ自体が、半年に一回、起こるかどうかの確立であり、小動物程度のモンスターたちであればまず機械騎士であるハイメタルガーデンが出陣することもないし、大規模な対応を施すほどでもない。


 とにもかくにも平和であるが、それでも人々は刺激を求めるものである。それは、好戦的な種族というわけではなく、怠惰な日々が続けばおのずと激しいなにかを求める精神的には当たり前といえる変化であり、欲求なのである。


 そして、ガーデンデュエルはそんな彼らの欲を大いに満たすものであった。迫力のある機械騎士同士の打ち合い、決して殺し合いではない、純粋なスポーツとしての安全性、しかし今回は世界各国の新型が一同に会すという稀に見る豪華な戦い。


 そんな大会の決勝戦ともなれば、当然盛り上がる。そして何より、その決勝でぶつかり合う両者もまたその熱狂に拍車をかけることになった。

 一人は王国の王子であるウェンディーズ。レダ国王自慢の息子であり、次期国王、民からの人気も高く、その整った顔立ちは社交界だけでなく市井でも女性を虜にしていた。そんな彼が駆るファル=ブレースは王国の新型であり、騎士然としたその外見は見る者を陶酔させた。


 対して、王子の相手を務めるのはこれもまた有名であり、名の知れた少女、ノーザである。本人の理解とは裏腹にノーザの名はどうやらそれなりに広く知れ渡っていたようだった。そもそも、幼い日に兄のハイメタルガーデンを盗み出し、大暴れした手の付けられないお転婆娘というのが有名だった。それをさらに加速させたのがドラゴン退治である。

 社交界にもあまり出席せず、入学まで領地から出ることもあまりなかったノーザであったが、その名、その存在は知られていたのだ。それに、ノーザの駆るガーデンもまたファル=ブレースである。王子の白亜の機体とは違い、ローズピンクに彩られ、だが煌びやかな装飾のないファル=ブレースはすらりとしており、色合いも含めてどこか女性のようにも見える。


 同じ王国の者、同じ機体、果たしてそのような偶然が存在するのかと誰しもが思うことであったが、その事実はもはやスパイスにしかならない。

 楽士隊の奏でる音楽に送られるように、二体のファル=ブレースがコロシアムへと姿を現す。観客たちは叫ぶ。


「すんごい歓声。スポーツの国際試合なんかもこんなぐらい騒がしいのかしらねぇ」


 ローズピンクのファル=ブレースの中で、ノーザはぐるりと周囲を見渡す。観客席が満席なのは当然だがどうにも今までより人が増えているような気がする。もしかしたら学園外部のものも呼んでいるのかもしれない。

 試合の組み合わせはどうあれ、大規模な大会の決勝である。盛り上げる為であれば、それぐらいのことはするだろう。


 あいにくと前世の自分はその手の大規模なスポーツの大会には興味がなくて、ニュース番組でちらりと目にする程度のものだったが、いざ自分なそれと同じような場所に立つと否が応でもざわついてしまう。

 落ち着かないというほどでもないが、なんとも場違いな場所にいるなぁぐらいの感覚はある。


 それに、結局の所、昨晩は熟睡出来たとも言えなかった。それでも、あまり体力に支障が出ていないのは流石は若い体というべきか、多少の無茶はできるようだ。深夜を過ぎて、徹夜でアニメを見ていた……何てこともしていた前世のこと考えればまだ健康的である。


「結局、魔王の気配はその後感じられず……いえ、むしろそれはそれでいいのだけど、気にはなるのよねぇ」


 間違いなく、昨晩、何かがあった。それが何なのかはわからないし、確かめる術もないが、確実に『魔王の気配』はあったのだ。図らずもそれを確信できたのはアルダンのおかげだ。彼もまた異常な空気を感じ取っていたわけだから。


「と言っても、試合はやってくるわけで……今は、こっちに集中しないといけないのよね」


 残念ながらというべきか、この決勝戦は長々としたお祈りだのなんだのが挟まれる。あと聞きたくもない校長の長い話と、一応主催者に当たるレダ国王からのお言葉を記したお手紙なんてのもある。

 そんなものを聞いていると緊張していたはずの気分が緩み、欠伸が出てくる。コクピットの中で良かった。もし、外に出ていたらこれを我慢しないといけないからだ。


「試合は試合、手を抜くなんてことは考えたくもないけど……さて、意外ね。王子様が残るなんて」


 欠伸を終えたノーザはモニターに映り込む白亜のファル=ブレースを見やる。直立不動のまま剣を構えたその姿は堂に入っていて、聖なる騎士とはこういうものだと言わんばかりだ。同じような格好を自身のローズピンクの機体にも取らせているが、雰囲気というべきだろうか、そういったものを加味するとやはりウェンディーズの方がそれらしい。

 しかし、立ち姿はどうあれノーザが驚くのはウェンディーズが試合を勝ち進んだことだ。これは、彼の名誉もあるし、言ってしまえば前世の知識なので、口外することはないが、ウェンディーズの腕前はこの時点ではまだ下から数えた方が速いぐらいだった。


 もちろん、ゲームシステム的に、アイリスが応援すれば、奮起し、優勝を果たすルートもあるのだが、今回、アイリスは誰も応援していない。そういう意味では、可哀想な話だが、彼は他の攻略キャラとかち合った時点で敗北するものだと思っていた。


 しかし、ノーザの予想に反して、ウェンディーズは勝ち進み、そして自分と対峙している。

 だが、ノーザ自身は驚きはしたものの、狼狽はしなかった。そもそも、原作展開が大きく変わっており、なおかつ自分という異物が混ざりこんでる時点で、誰が優勝するかなんてわからないわけだ。

 だから、驚き半分、そういうものかと納得する気持ちが半分といった具合だ。


「機体性能のおかげで勝ち進めた……なんて言い出せば、私も似たようなものか。ストーレンは嫌いじゃないけど、あれの性能じゃまずここまで残れないものね」


 機体性能が云々なんて有名な台詞が脳裏を駆け巡る。言わんとすることはわかるが、性能さは純粋に脅威だ。だが、今回の試合はそんな言い訳なんて通用しない。同じ機体であり、同じ性能なのだ。そうなると勝敗を分かつのは己の力量だ。

 自身のうぬぼれを自覚しつつも、ノーザは自分の腕前を信じている。その点だけを言うならば、ウェンディーズに負けるつもりはない。

 それでも彼はこの決勝という舞台にいる。警戒は、するべきだろう。


 さて、時間がきた。長い長い演説が終わり、演奏が終わり、それと入れ替わるように鐘の音が鳴る。ゴーン、ゴーンと甲高くも重たい音色がコロシアムと包み込めば、二体の巨大騎士が互いに向き合う。


 両者は同じ鋼の剣を縦に構え、距離を保っていた。古き時代の決闘のような光景がそこには映し出されていた。


「……?」


 ふと、ノーザは奇妙な違和感を覚えた。

 それが一体何に対してなのかはうまく説明できないが、ノーザは確かにピリピリとする感覚を覚えていた。

 そして、それは、目の前の機体。白亜のファル=ブレースから感じられる。


「なに……?」


 冷たい視線、しかしどこか熱気こもる威圧感。それは巨大な鉄の騎士から発せられる魔力のオーラともいうべきか。確かにハイメタルガーデンは魔力で稼働するので、ある程度パイロットの意識というか魔力の色のようなものが発せられることもあるにはある。

 それに近しい何かだとは思うのだが、ここまではっきりとした感覚は果たしてあるのかどうか。

 ノーザは勇ましく、美しいはずのファル=ブレースから流れ込んでくる重く、鋭い空気に眉を顰める。

 うまくは言えない。だが、この感覚……しいて言えば……殺気?


「……!」


 ハッとそれを認識すると同時に試合開始の合図が鳴る。

 出遅れた! 何をボーっとしているのだ私は! そう思いながらも、ノーザは突撃を諦め防御に出る。既に、ウェンディーズの機体が剣を振り上げて迫っていた。


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