第二章 ⑤
「はい、あーん」
「あーん、なんてするか馬鹿」
「なんでさ!」
「なんでも」
屋上には僕達以外誰もいなかった。
そりゃそうだ。本来、屋上は立ち入り禁止なのだから。
でも、生徒会役員である僕たちには、屋上のカギなんて簡単に手に入れられる。
ちょっとした、生徒会役員の特権を駆使すれば。
ま、生徒会で働く報酬だということにしておけばいいさ。
「そういえば、事件はどう? 解決しそう?」
話題を変えて、小唄が尋ねてくる。
僕は、首を左右にふるふると振る。
「さっぱりだよ」
「ふうん……ま、頑張ってね~」
「……うん」
頑張るさ。
会長の頼みなんだから。
「何かあったら、わたしも手伝うよ!」
「…………」
「あれ? なんで顔を背けるの?」
いや、だって、ねえ?
「ひどいよハル君! わたしだって、やればできる子だって言われ続けたんだから!」
それ駄目じゃん。
「……もう事件のことは忘れて、楽しくお昼を食べようよ」
「誤魔化してるでしょ!」
「違うよ」
「そう? ならわかったよー」
小唄は一瞬で怒った顔から笑顔にチェンジして、弁当の卵焼きをおいしそうに頬張っていた。
相変わらず扱いやすいけど。
将来、詐欺とかに引っかかりそうで、ちょっと心配だ。
◆
放課後。
僕は、HR終了と同時に生徒会室に向かっていた。
昨日の夜に布団の中で事件について考えていたけど、何もわからない。
だから、会長に事件解決のヒントをもらうことにした。
ヒントなら、答えを教えるわけじゃないし、言ってくれるかもしれない。
……と言っても、望み薄なのだけど。
藁をもつかむ思いなのだ。
会長は、藁というには立派すぎるけど。
「……あれ?」
その途中の廊下で、見知った人物を見かけた。
黒髪のショートボブに、地味な眼鏡。小柄な身体。
藤倉先輩だった。
手には、何か大きな荷物を抱えている。
「先輩」
スルーするのもどうかと思ったので、とりあえず声をかける。
「……相沢? 何?」
藤倉先輩は、相変わらずの無表情でそう答えた。荷物のせいで顔全てが見えたわけではないけど、先輩の表情に変化が見えないのはわかりきっていることだ。
「何やってるんですか? そんな大きな荷物抱えて」
「……生徒会室にあった、いらない本の処分」
「手伝いましょうか?」
女性一人で運ぶには、少々重すぎるのではないかと思って、そう言ってみる。
「……いい。私一人で問題ない」
僕の気遣いは無用とでも言いたげに、藤倉先輩はそう言って歩みを再開した。
「……そうですか」
まあ、そう言われるってのは予想できたけどさ。
あの人、なんでも一人で抱え込む癖があるし。
っと、藤倉先輩の後ろ姿を見ている場合じゃなかった。
「それでは、また」
「……ん」
短く答えた藤倉先輩の姿が見えなくなったところで、僕もくるりと方向転換して、生徒会室に向かって歩き出した。
僕は、事件の調査をしなければいけないのだから。




