第二章 ③
担任に連れていかれた先は、生徒指導室。
数回ノックしてから中に入っていく担任の後に続き、生徒指導室に入ると、中には二人の人物の姿。
一人は、生徒指導の鬼、体育教師の権堂薫先生。
もう一人。正座させられている女生徒が、容疑者の人なんだろう。
「あん? ……ああ、生徒会の調査ってやつか」
入室した僕たちの姿を見て、権堂先生がそう言った。
相変わらず、ゴリラみたいな見た目だなぁ。
「お前が生徒会役員か?」
「はい」
そう言って頷く。
ちらりと容疑者の女生徒の方を見ると、女生徒も僕の僕のことを見て(正確には睨んで)いたせいで、目が合ってしまう。
なんか恥ずかしいぞ。
そう思っていると、ふいっと顔を背けられる。
僕の顔、そんなに怖いのかな? 童顔だって言われるんだけど……。
「それじゃあ、俺はもう行くぞ。話すんなら、勝手にしてくれ。轟、今日はもう帰っていいからな」
そう言い残して、権堂は部屋を出ていく。
「俺ももう行くぞー。なんかあったら、職員室まで来い」
後を追うように、担任も部屋を出て行った。
僕と、たしか轟さんって言ってたっけ、轟さんの間に、静寂が訪れる。
赤い髪に、鋭い目つき。
不良ってやつだろうか?
うぅ……気まずい。
「あ、あの……さ」
沈黙を打ち破るかのように、僕が話しかける。
「……何?」
轟さんも、むすっとしたような顔をしているけど、とりあえず答えてくれた。
「僕、一年三組の相沢春秋。よろしく」
僕に出来うる限りの笑顔で、そう言う。
引きつってないよね? 笑顔。
「……轟、瑞穂」
轟さんは、自分の名前だけ言うと、また黙りこんでしまう。
困った。このままじゃコミュニケーション失敗だ。
「えと……クラスは?」
とりあえず、事件のことを聞き出すために、もう少し親密度を上げる必要がある。
僕は、当たり障りのない質問を轟さんに尋ねた。
「……一年三組。あんたと同じ」
コミュニケーション失敗!
「…………。…………。……えと、ごめん。僕、まだクラスの人全員覚えてないんだ。人の名前と顔を覚えるの、苦手だから」
嘘だ。本当は、結構得意だったりする。
「……いいよ、ごまかさないで。あたし、クラスの中で浮いてるっていうか……存在しないって感じだし」
「……ごめん」
「いいって。……で? あたしに聞きたいことがあるみたいだったけど、何?」
「う、うん。職員室が荒らされた事件、知ってるでしょ?」
「……知ってる。あたし、その事件の容疑者にされてるし」
「……そうだったね」
なんか、どんどん溝が深まってる気がする。
ええい! まだだ! まだ終わらんよ!
「えと、なんで容疑者にされたの?」
「知らない。朝学校に来たら、権堂に捕まった」
「それって、何時頃の話?」
「たしか、六時頃」
「なんでそんなに早い時間に学校に?」
ちなみに、朝のHR開始の時刻が、午前八時三〇分。
たいていの生徒は、八時頃に登校してくる。
「朝早くに学校に来て散歩するのがあたしの日課なの。ほぼ毎日そうしてる。その日も、四時半に学校に来て散歩してた」
犯行があった時間、か……。
「無実を証明できる人は?」
「いない」
「……う~ん」
確かに、そんな早くに学校に来るなんて、少し怪しいとも思えるけど。
「……なんで散歩してるの?」
「べ、別にいいだろ!」
怒鳴られた。
怖い。
「……とにかく、あたしは職員室を荒らしたりなんてしてない」
「…………」
「……もういいだろ? あたし、これでも忙しいんだ。今日は帰らせてもらう」
そう言って立ち上がり、鞄を手に取り生徒指導室から出ていく轟さん。
……まあ、今日はもう聞くこともなさそうだし、いいけどさ。
「……はぁ」
確かに、あんな不良っぽい人だし、あの人が職員室を荒らしたって聞いたら、なんの疑いも抱かないだろう。
でも、彼女は犯人じゃない。
何故だか、僕はそう思った。
「……っと」
生徒指導室から出ると、ポケットに入れていた携帯電話が震えだした。
この小刻みな震え方は、着信を知らせるものだ。
携帯電話を取り出し、ディスプレイに表示されている名前を見ると、そこには『東雲 小唄』とあった。何かあったのかな?
「もしもし?」
『もしもし~? ハル君の携帯でいいのかな?』
「……そうだけど」
『んもう! そこは、『いいともー!』って言ってくれないと~』
こんな時になんだけど、僕が一生のうちに一度はやっておきたいことの第二位は、テレ○ォンショッキングで『明日は忙しいので……』って言うことだったりする。
「……切るよ?」
『わわっ! 待ってよハル君!』
「何さ? 僕、結構忙しいんだよ? 早く帰ってゲームしたいんだから」
『それって忙しいの?』
「忙しい」
『言い切ったね……。えとね、わたしも色々と調べてみたんだけど、まったく収穫なしだったよ~。ごめんね?』
「謝らなくてもいいよ、小唄」
『許してくれるの? キャー!! ハル君って優し――』
「最初から、期待してなかったから」
『期待もされてなかったのっ!? ひどいよハル君!』
「じゃ、また明日ね」
『うぅ……また明日ですぅ~……』
通話を切る。
何故だか、電話の向こうで小唄が泣いていたような気がしたけど、なんでだろ?
ま、いいや。
今日は、帰ろう。




