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第二章 ①

はじまり


 彼女が■の前に現れてから、■の人生は変わっていった。

 まず、友達ができた。

 ■と、彼女と、もう一人。

 その三人で、毎日のように日が暮れるまで遊んだ。

 遊んでいるうちに、人生が、楽しく感じてきた。

 終焉を迎えなくて、よかった。

 これも全て、彼女のおかげだ。

 だから――


 ――彼女の為だったら、■は何だってする。






 放課後。

 僕は、早足で生徒会室に向かっていた。

 こういうとき、校則を守らないといけない生徒会役員というのは非常に面倒くさい。だって、廊下を走れないから。

「ふう」

 ようやく生徒会室へと辿り着いた。

 木製の開き戸をゆっくりと開けていく。

 何故他の教室は引き戸なのに、ここと校長室は開き戸なのだろうか? という疑問が生徒会室に入るたびに毎回頭に浮かぶけど、気にしていても仕方ないのですぐに頭の隅っこの方に押しやる。

「どうもです」

「あっ! ハル君だぁ~!」

 生徒会室に入ると、出迎えてくれたのは、同じ一年生で生徒会役員の東雲小唄しののめこうただった。

「もう、遅いよハル君!」

 茶色のセミロングの髪に、子犬を想像させるような可愛らしい顔立ち。小柄で凹凸のない体躯。

 それに加えて人懐っこい性格なものだから、男子から人気もある。

 そんな小唄に『ハル君』なんて呼ばれてるもんだから、僕は若干男子から嫌われていたりする。

 全員にというわけではないんだけど。友達もいるし。

「どう? 事件の方は?」

 と、手元の書類から顔を上げて会長がそう尋ねてくる。

「事件? かいちょー、事件ってなんです?」

 尋ねる小唄を無視しつつ、僕は今まで調べた(といっても、大したことはわからなかったけど)ことを会長に伝える。

 会長は、

「ふむ……」

 と、呟くと腕を組んで目を瞑った。

 会長が何かを考えるときの仕草だ。

「ねえー、事件ってなに? ハル君」

「……会長」

「……何?」

「会長の、事件の見解を教えてください」

 しつこく聞いてくる小唄を無視して、会長にそう尋ねた。

 それでも、僕は会長が何て答えるかわかっている。

 会長はにっこりと笑みを浮かべ、こう答えた。


「教えないわよ。最初から答えを見て問題に挑むのは、反則ってものでしょう?」


 ほら、やっぱり。

 会長には――天才、黒咲詩杏には、もう事件の犯人がわかっているらしい。

 凡人たる僕には、真似できないことだ。

 はぁ、と一つ嘆息して、僕は会長にこう聞いた。


「……なら、僕がその問題の答えを間違ったりした場合、どうするんですか?」


 さっきも言ったけど、僕は凡人だ。

 推理小説の探偵のように真実を、犯人を見つけることなんて、できない可能性の方が大きいだろう。

 会長は、それをわかっているくせに、答えを教えてはくれない。

「それは困るわね。警察沙汰になると、来月の文化祭に響くでしょうから」

 少しも困ったような顔をせずにそう答える会長。

「……なら、答えを教えてくださいよ」

「春秋。貴方は私の性格をよくわかってるはずだけど?」

「…………」

 つまり、教えない、と。

「…………。……はぁ。わかりましたよ。頑張って、自力で答えを見つけます」

 結局、僕はそう言うしかないのだ。

「さっすが春秋♪ そんな春秋が、私、好きだよ」

「……そんなこと、微塵も思ってないくせに」

「さ、どうかしらね?」

 この人は、僕が困っているのを見るのが好きなのだから。

「まあ頑張って頂戴。あ、ちなみにタイムリミットは約四十八時間。明後日、金曜日の放課後午後五時に春秋の答えを聞くことにするわ」

 また無茶な注文を。

 と思いながらも、文句は言わない。

 言っても、どうせ無駄だから。

「……もし、答えを間違えたら?」

「さあ? 罰ゲームかしらね」

 罰ゲームて。

 一体、何をさせるつもりだろう。

 会長のことだから、全裸で校庭百周とか逆立ちで日本横断とか、そう言った無茶苦茶なものに決まってる。

「……事件の調査、してきます」

 何が何でも、事件を解決しなきゃ。

「行ってらっしゃい。あ、小唄は連れていっていいわよ。ここにいても使い道ないし、正直邪魔だし」

「私は邪魔者だったのですかっ!?」

 今まで「事件ってなんですかぁ~」と連呼していた小唄が、大声を上げる。

 急に叫ばないでほしい。耳が痛い。

「ここにいるよりも、春秋と一緒にいた方が、小唄も役に立つでしょ?」

「なるほど、ハル君がわたしを必要としているわけですね?」

 そんなこと一言も言ってない。

「いや、正直こっちも必要ないです」

 うるさいし。邪魔だし。

「わわっ!? 戦力外通告!?」

 というより、野球でたとえると。ドラフトにも選ばれないレベルだ。

 通告すらされない感じ。わかり辛いかな?

「だから、小唄は生徒会室に残ってなよ」

「わたしって、そんなに役に立たないのっ!?」

「うん」

「即答っ!? そ、そんなことないよハル君! わたし、役に立つよ!」

 自信満々にそう言う小唄。

「……二人とも、うるさい」

 と、黙って読書していた藤倉先輩が言った。

 若干怒っているような感じがする。

 こういうタイプの人って、怒らせると怖いんだよな。

「……わかりましたよ」

 仕方ないので僕は騒ぐ小唄を連れて、生徒会室を後にした。

 事件の調査を再開するために。



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