第三章 ⑥
再生ボタンを押す。
テレビに、昨日僕が見たのと同じ映像が映し出された。
でも、今重要なのは、そこに何が映っているかじゃない。
映ってないことが重要なんだ。
「見てのとおり、映像はモノクロですけど? どうして、これが赤だとわかったのですか?」
「ぐっ!?」
怯んだ。
休むな!
畳み掛けるんだ!
「さて、ところで権堂先生、轟さんを犯人だと言って、捕まえるようにさせたのは、誰でしたっけ?」
ビデオを一時停止させ、僕は権堂に問いかけた。
みんなが来る前に、僕が権堂先生に聞いていたこと。
権堂先生は、少しためらいながらも、その人物の名前を言う。
「小林教諭だ」
やっぱり、そうだったか。
「小林先生。何故、轟さんを犯人だと思ったのですか?」
「そ、それは、朝っぱらから学校にいたからだよ! 怪しいだろ? 轟みたいな素行不良な生徒が、そんな朝早くに学校に来るなんて」
「見たんですか? 轟さんのこと」
「ああ、見たさ」
「どこで?」
「あん? ……用務員のおじさんにカギを借りてる時にだよ。チラッと、轟の姿が見えたんだ」
「ほう……ちなみに、その時の轟さんの靴、上履きでしたか?」
「そんなわけないだろう。外で見たんだから。学校指定の革靴だったよ」
「なるほど。……轟さん」
「何?」
「小林先生と用務員のおじさんが一緒にいるとき、轟さんはどこにいたのかな?」
「……教室前の廊下。三階の」
「靴は履きかえた?」
「当たり前だろ」
「……ぐっ!?」
「この矛盾、どういうことですかね? 小林先生」
「そ、そいつは嘘をついている! 俺は見たんだ、轟が中庭を歩いているのを!」
「たしかに、あたしは中庭を散歩してたさ。でも、あんたが用務員のおじさんと話しているときは、校舎内にいたさ」
「……轟。それ、証明できるのかよ」
「…………」
「どうなんだ? ああん?」
「……できない」
「ほれみろ! やっぱり嘘をついていたんじゃないか!」
「なら、僕が証明してみせましょうか」
「……なんだと?」
「これを見てください」
そう言って、僕はリモコンの早送りのボタンを押し、少し経ってから、今度は再生ボタンを押した。
映像に映っていたのは、正面玄関に入っていく轟さん。その少し後、担任が正面玄関の中に入っていく。
「ほれみろ! 映ってるじゃないか! 轟の姿がよ!」
「映ってますよ。轟さんが、小林先生が用務員のおじさんからカギを受け取っていたときには中庭にいなかったってことが」
「……っ!」
「轟さんは、校舎の中に入って、教室に鞄を置きに行っていた。そのとき、小林先生は用務員のおじさんにカギを受け取っていた。だから、映像には轟さん、小林先生、という順番で映っているんです」
「ぐ……っ!」
「用務員のおじさんは、正面玄関以外のカギは、小林先生にカギを渡してから開けたって証言しています。正面玄関から出ていない以上、轟さんは外に出てはいません」
窓から出ることはできるだろうけど、それは言わない。
「貴方が轟さんを中庭で見たのは、四時三十分頃、職員室からじゃないんですか?」
「……なんだと?」
「轟さん。四時三十分頃は、どこにいたのかな?」
「……中庭を散歩してたよ。正面玄関は、五時になるまでカギが開いてないって、知ってたから。それまで時間を潰してた」
「そうそう。最近は、四時四十分にはカギを開けてるらしいよ? 正面玄関」
「そうなのか?」
「うん。……っと、話が逸れたね。とにかく、貴方が轟さんを見たのは、職員室を荒らしているときだった。そして、轟さんを見た貴方は、こう思ったんだ。轟さんを犯人にしようって。だから、権堂先生に轟さんを捕まえるように言った。違いますか?」
「ぐっ……!」
おお、効いてるみたいだ。
結構、論理的じゃないんだけど。
穴だらけの推理なんだけど。
「……くっ!? ……証拠……そうだ! だったら、証拠を出せよ!」
怒っているのか、化けの皮が剥がれたのかはわからないが、担任が、今までの雰囲気からは想像できないような大声を上げた。
「証拠?」
「そうだよ! 俺が犯人だって証拠だよ!」
「しょ、証拠だったら、ハル君が言ったじゃないですか!」
「ほう……東雲。相沢が言った証拠って、何のことだ?」
「えっ!?」
「確かに、俺は何故か犯人のジャージの色を当てることができた。轟の姿を見ることができた。だからなんだ? 俺が犯行を行ったっていう証拠にはならないじゃないか」
「…………」
そうです。その通りですよ、小林先生。
でも、僕はこれでいい。
これで、轟さんが容疑者かもしれないっていう疑いは薄まったし、教員が怪しいんじゃ、学校側も公にしたくないはずだ。
だから、これで満ぞ――
「春秋、それは許さないわよ」
僕の思考を読んだかのように、会長がそう言った。
「会長?」
「こんな中途半端な解答、私は許さない。しっかりと、理由も含めて犯人を答えなさい」
「…………」
それは、無理だ。
僕には、できない。
……なんて、諦めていいのか? 春秋。
誓ったんじゃないのか?
遠い昔に。
天才に近づくために、努力するって。
「……わかりましたよ、会長」
にっこり笑顔でそう答えて、僕は目を瞑った。




