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第三章 ③


 うん。聞いてよかった。


「ちなみに、轟さんを見たって、誰から聞いたんですか?」

「ああ、それは――」

「連れてきましたよー!」


 僕の言葉を遮るように、後ろの扉が開かれた。

 そこには、小唄と、会長、藤倉先輩、小林先生の姿が。

 小唄のやつ、ちゃんと連れてきてくれたようだ。


「お疲れさま、小唄」

「えへへ~、もっと労ってくださいよ」

 ちょっと褒めるとすぐこれだ。

 もう労わないことにする。


「はいはい。後でね。さてと、役者が揃ったことですし、そろそろこの事件の推理でも始めましょうか」

 刑事ドラマの主人公のように、大きく手を広げながら、生徒指導室の中央に躍り出る。

 ちょっと恥ずかしいぞ。

「「「「…………」」」」

「す、すごいよハル君! 天才だよ!」

「おお! 犯人がわかったのか相沢。で? 犯人は誰なんだよ?」


 会長、藤倉先輩、轟さん、権堂先生が冷たいまなざしで僕を見る中、小唄と小林先生だけが反応してくれる。

 二人がいてくれてこんなに嬉しいことは、今までなかったよ。

 でも、ちょっとはしゃぎ過ぎだ。


「少し黙っててくださいよ、小林先生」


 担任にそう言って、一呼吸置く。

 大丈夫だ。

 春秋、君にならできる。

 そうやって、自分に言い聞かせた。

 だって、今僕の手元にあるピースじゃ、どうやったって綺麗なパズルには組み上がらないことがわかってるから。

 証拠が、証言が足りない。

 でも、ここで諦めるわけにはいかない。

 不格好な、汚いパズルでもいい。

 それで、轟さんを救えるのなら、

 轟さんを、容疑者から外すことができるのなら、

 犯人が見つからなくたって、それでいい。


「…………」


 深呼吸する。

 よし、いける!


「それで? 犯人は誰なんだよ?」


 しつこく聞いてくる担任。

 僕は、担任の顔を一回見た後、その視線を、


「なっ!? お、お前が犯人だったのかっ!?」

「わわっ!? わたしびっくりしました!」

「…………」

「……あんた……が?」

「お前……」


 会長の方に向けた。


 会長と、無表情の藤倉先輩以外のみんなが、驚愕の表情を浮かべる。

 効果音をつけるなら、ざわざわ、が適当だろう。


「へぇ? 何故、そう思うの?」


 不敵な笑みを浮かべる会長。

 みんなから疑いの眼差しを向けられているというのに、少しも動じていない。

 流石、会長だ。


「まず、順を追って説明しましょう」


 人差し指を立て、説明を開始する僕。

 実は、大勢の人間の前に出て話すのが苦手な僕だけど、今は不思議と、滑らかに言葉を発することができた。

 みんなの前で、上手に推理を披露することができるか心配だったけど、これなら大丈夫そうだ。

 探偵役に浸っているからかもしれない。

 何はともあれ、嬉しい誤算だ。

 僕は、言葉を続ける。


「まず、僕が会長を疑った理由の一つ。それは、会長が、何故かトップシークレット扱いである今回の事件を知っていたことにあります」


 事件の関係者しか知らない情報。

 その情報を、何故会長が、あんなにも早く知ることができたのか。


「小林先生、権堂先生。お二方は、会長に事件のことを教えましたか?」

「ふん、教えるわけがないだろう」

「お、俺も教えてないぞ!」


 否定する二人の教師。

 担任がキョドってるのが少し引っかかるけど、多分教えてないはずだ。


「轟さんは?」

「……わたしは、会長と会ったのだって今日が初めてだ」

「一応聞くけど、小唄は?」

「あたしは、事件のこと知ったの、ハル君より遅かったじゃん」

「藤倉先輩は?」

「……私は、事件のこと、会長が相沢に話すまで知らなかった」

「ちなみに、僕も会長から聞いて事件のことを知りました」


 これで、この場にいる人間全員が言ってないと明らかになった。

 問題は、この場にいない校長と教頭だけど。


「小唄、昨日調べてくれって言ったこと、ちゃんと調べてくれたんだろ?」

「もちのろん、ですよ!」


 ちょっとイラっとした。


「校長先生と教頭先生、二人とも、事件のことは誰にも話してないみたい。ハル君に言われた通り、宣誓書もちゃんと書かせたよ!」


 ポケットから、折りたたんだ髪を出して、それを広げる。

 『宣誓書』と書かれた紙に、ペンでサインがしてあった。

 でかしたぞ、小唄。口に出しては言わないけど。


「さて、これはどういうことですか? 会長」

「……それ、答えないといけないのかしら?」

「答えてくれるとありがたいですね」

「なら、答えない」


 この状況を楽しんでいるかのように、とびっきりの笑みを浮かべてそう答える会長。

 ま、これは予想の範囲内だ。


「そうですか。なら、二つ目の理由です」


 ズボンのポケットから手のひらサイズのメモ帳を取り出すと、僕はそれをパラパラとめくり、あるページを開いた。


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