第三章 ②
トイレに行った後、僕はとある部屋の前まで来ていた。
『生徒指導室』
ここで、僕、相沢春秋の推理ショーは行われる。
「失礼します」
ノックして、中に入る。
生徒指導室の中には、ゴリラ権堂と、轟さんの姿。
今日も尋問されていたのか。
「? 何の用だ、相沢」
「いえいえ、ちょっと大事な用事がありましてね」
「大事な用?」
「ええ」
笑顔でそう頷く僕。
こういうとき、笑顔を浮かべておけば、相手の敵意が和らぐことがある。
会長から習ったことだ。
「真犯人が見つかったから、そのご報告に、と思いましてね」
「真犯人?」
「ほ、本当か!? 本当なのか相沢!?」
権堂先生よりも、後ろの轟さんのほうが驚いていた。
というより、嬉しがっているって言った方がいいのかな
そりゃ、これで自分の無実が証明されるかもしれないんだ。
嬉しがるのも無理はない。
そんな轟さんの為にも、早いとこ真犯人の名を告げたいところだけど。
それは、無理なんだ。
だって、まだわかってないんだから。
今は、時間稼ぎをしよう。
「ええ。でも、役者が揃うまで待ってください」
「役者?」
首を傾げるゴリラ……もとい、権堂先生。
「この事件の関係者のことです。推理小説とかだと、こうやって探偵が推理を披露するときには、ギャラリーの前でやるものでしょう?」
何故か?
それは多分、ギャラリーの前で犯人はそいつだと言うことで、逮捕する際の証拠にしているんだと思う。
それに、身を守る意味もあるんだろう。
探偵と犯人が二人きりのときに、「お前が犯人だ!」と言えば、犯人としてはそいつの口を封じてしまうのが一番楽だろうから。
ま、これは全て、僕の憶測だけど。
「……ふん!」
鼻を荒く鳴らして、睨んでくる権堂先生。
うわ、怖い。
檻がないから、暴れたら防げないよ。
暴れないだろうけどさ。ゴリラじゃあるまいし。
「あ、そうそう。みんなが来る前に、権堂先生に聞きたいことがあったんですよ」
「聞きたいことだと?」
「ええ。権堂先生のアリバイです。権堂先生は、何時に学校にきて、何時に職員室に行って、何時に轟さんを捕まえたんですか?」
「……何でそんなこと、お前に教えにゃならんのだ」
おお、怖い。
でも、引き下がるわけにはいかないんだ。
これも、大事な推理のピースになるのかもしれないのだから。
「お願いしますよ」
「……断る」
断られた。
ここは、なんて切り返そうか?
僕の脳内に、いくつかの選択肢が出てくる。
・強情ですね、そんなんだから童貞なんですよ。
・意地悪ですね、ぶっ殺しますよ?
・最低のゴリラですね。
どうしよう。
どれを選んでも、殺されるよ。
「…………」
ここは、無難なことを言うことにしよう。
相手は、教師だからね。
「いいんですか、権堂先生? 僕、一応校長先生に調査してもいいって許可をもらってるんですよ? 先生方に調査に協力してもらえ、とも言われてます。それでも、教えてくれないんですか?」
「……ほう。俺を脅す気か?」
「とんでもない。お願いしてるだけですよ」
「……俺は脅しには屈しないぞ」
「……そうですか」
なかなかしぶとい人だな。
小林先生なら、すぐに屈して言っていただろうに。
「どうしても、駄目ですか?」
脅しが通用しないので、正攻法で攻めてみる。
名付けて、『可愛い生徒がお願いしま~す☆ 大作戦』だ!
……なんか、ごめん。
「…………」
でも、権堂先生には思いのほか効いているようで、少し考え込んでいる。
「……いいだろう。答えてやるよ」
了承してくれる権堂先生。
案外、この人はいい教師なのかもしれないな。
僕がそんなことを思っていると、権堂先生が、事件当日のアリバイについて話し出した。
「五時に学校に来て、職員室に立ち寄らずに直接野球部の朝練に顔を出した。
朝練が一段落した後、部長に練習を任せて、荷物を置きに職員室に向かったんだ。六時の少し前だったな。
そこで小林先生と校長先生から事件のことを聞き、怪しい人物、そこにいる轟のことだが、を見たと言われたので、轟を探しに行った。六時五分ごろだ。
轟は、怪しそうに中庭をウロウロしていたからな。犯人だと思ったさ」
「なるほど」
これは……。




