第三章 ①
金曜日。
現在、時刻は四時ちょっと過ぎ。
タイムリミットは今日の五時だから、あと一時間もないことになる。
とりあえず僕は、教室で事件についての推理をまとめていた。
小唄?
さあ?
どっか行ってるんじゃない?
まあ、小唄のことなんて今はどうでもいいんだよ。
今は、推理だ。
これをしくじってしまったら、轟さんが悲しむだろう。
出会って間もない……って言ってしまうと、同じクラスだった轟さんに失礼になってしまうかもしれないけど、とにかく、僕はまだ知り合って間もないけど、轟さんを悲しませるようなことはしたくなかった。
ひょっとして、これが恋!?
……まさか。
そんなこと、あるわけがない。
まあとにかく、推理は外すわけにはいかない。
会長からの罰ゲームもあるわけだしね。
「…………」
そんなわけで、犯人は誰かを考えているんだけど、どうにも考えがまとまらなかった。
パズルのピースはそろっているはずなのに、それを上手に組み上げることができないような感覚。
ひょっとしたら、ピースが足りてないのかもしれない。
僕は、捜査のプロとかではない。
ゲームや小説の主人公でもない。
ただの、凡人な高校生で、優秀すぎる会長の陰に隠れている、どこの高校にもいるような生徒会副会長なのだ。
だから、証拠を全て見つけられるわけじゃない。
見落としもあるかもしれない。
組み立てることなんて、最初からできないのかもしれない。
でも、最後まで頑張ってみよう。
「犯人は、誰なのか」
口に出してみる。
幸い、今は教室には僕一人きりだし。
「ぬわぁ――――わっかんねえ―――っ!」
だから、叫んでみたりもする。
誰かに聞かれてたら、明日から学校に来れないや。
「……はぁ」
今現在、僕の手元にあるピースから浮かび上がる犯人は、会長だった。
何故か事件のことを知っている。
監視カメラに映っている。
犯人を、知っている。
それらは、全て会長が犯人だと考えれば、しっくりくる。
僕の勘が、犯人は会長だと言っている。
僕の脳内会議でも、犯人は会長だという結論が出た。
でも、違う。
犯人は会長じゃない。
そう、僕の心が言っている。
……なんてね。
「……あ」
ふと時計を見てみると、時計の長針が《10》の文字を刺している。
もう、残された時間は、あまりない。
……どうしよう。
結局、犯人はわからずじまいだよ。
いっそのこと、会長に助けを乞うか?
……いや、それは無理だろう。
助けてくれるなら、最初から助けてくれるはずだ。
それも、人知れずに、裏で暗躍して、僕が知らない間に、華麗に解決してしまう。
あの人は、そういう人だ。
だから、その案は却下。
「……ん」
突然、鞄の中から一昔前に流行ったラブソングのメロディが流れ出す。
携帯電話が、着信を知らせているようだ。
小唄かな?
「もしもし?」
『はっるく――――――ん! やっほ――――――っ!』
耳をつんざくような大声。
僕は驚いて、受話口を耳から話す。
『ハルくーん? きっこえってる――?』
これだけ耳から離しているのに、小唄の声はまるで耳元から聞こえるように大きかった。
なんでこの娘はこんなに元気なんだろう。
元気というより、騒がしいって感じだけど。
「……小唄。お願いだから少し声のボリュームを落としてくれないかな? じゃないと問答無用で切るよ」
『それってもはやお願いじゃなくて命令だよね!?』
「そうとも言う。んで? 何?」
『ひっどーい! ハル君が言ったんでしょ! わたしに調べてほしいって』
「……? …………。…………。…………。……………………。……? …………。……ああ!」
そういえば、昨日頼んだんだった。
すっかり忘れてた。
『……今、忘れてたよね?』
バレた……だと……っ!?
「そ、ソンナコトナイヨ?」
『思いっきり片言ですけどね!』
「……ごめん」
『別にいいですよーだっ!』
「……それで? 調べてきてくれた?」
『ばっち、ぐー! だよ!』
そう言って、小唄は僕が調べてきてと頼んだことを話し出した。
僕は、それらを聞きながら、思考を続ける。
『そんな感じです。後で褒めてね? ちゃんと調べてきたわたしを!』
「ああ、はいはい。後でね」
『ちゃんと褒めて――プツッ――ツーツー』
うるさいので、通話を切る。
やっと静かになった。
「…………」
目を瞑る。
頭の中に、今まで集めた証拠や証言のピースをばら撒く。
僕は、それを組み上げていった。
ミスがないように、ゆっくりと、
でも、時間がないので、トップスピードで。
推理のパズルを、組み上げていく。
「……っ!」
組み上がる前に、僕の携帯が再度、今度は最近流行ったアニメソングを流す。
この着信音は、会長だ。
僕は、思考を中断して、電話に出た。
「会長? どうしたんです?」
『タイムリミット。時間よ。貴方の考えはまとまったかしら?』
「…………」
正直、まだまとまってない。
でも、ここでそれを認めるわけにはいかない。
ハッタリをかますしか、ない。
「勿論ですよ」
『そ。楽しみにしてるわ。それで? どこで推理ショーを開いてくれるのかしら?』
ショーって。
それって、みんなの前で推理を聞かせるってことだよね?
眠りの小○郎みたいに。
「今、小唄を使って、場所を伝えますよ」
推理ショー?
望むところだ。
推理しながら、パズルを組み上げればいい。
「了解したわ。私は、生徒会室にいるから。それじゃ、後でね」
そう言って、会長が電話を切る。
「ふぅ」
と僕は息を吐く。
もう、後には引けないぞ、相沢春秋!
「よっしゃ!」
両頬をパチン、と叩いて、気合を入れる。
そうした後、僕は携帯電話の着信履歴から小唄を引っ張り出し、電話をかける。
『はいはいはい! ハル君? どうしたのさ? ハル君から電話をかけてくるの、めっずらしいー! ひょっとしてデートのお誘い? キャーっ!』
そんなわけないだろうに。
ほんの数分前に調査の電話したばかりじゃないか。
「小唄、頼みがあるんだ」
『ですよねー。うん知ってたよ~』
「今から言う場所に、今から言う人間を連れて来てくれ」
『はーい……わかったよー』
「急いでね」
テンションだだ下がりの小唄は、そう言って電話を切った。
頼んだよ、小唄。
「さて、と」
僕は立ち上がり、深く深呼吸した。
……よしっ!
気合を入れて、僕は犯人のいる場所に向かった。
これが、最後だ。
でも、その前にトイレに行ってこよーっと。




