第二章 ⑪
意外だ。
轟さんが恋愛小説家だなんて。
でも、嘘はついてない……と思う。
だって、こんなに真剣な顔をしてるのだから。
「……信じるよ」
僕の口が、勝手に言葉を発していた。
「信じるよ。轟さんのこと。ホント言うと、さっきまで轟さんのこと、少し疑ってたんだけどね。今ので、それもなくなった」
「わ、わたしも信じますよ!」
「……ありがとう、二人とも」
「お礼は、轟さんの無実を証明してから、たっぷり聞くよ。だから、僕に任せといて!」
ガッツポーズをとりながら、轟さんにそう言う僕。
……ちょっと、はずかしい。
「わわっ!? ハル君がガッツポーズなんて、めずらしー」
「うるさいよ、小唄!」
照れを隠すように、小唄の額をデコピンする。
「あいたっ!」
小唄は、デコピンされたところをさすりながら、「ひどいよぉ~」と泣いていた。
お前が悪いんだろ!
「そうそう轟さん」
話題を変えるように、僕が声を上げる。
「何?」
「なにか、事件当日に気が付いたことなかったかな? 犯人を見てた、なんてのはないだろうけど、いつもと違ったこととか」
「違ったこと……」
うーん、とうなりながら、考え始める轟さん。
「……あ」
数秒の思考の後、轟さんが何かを思い出したように声を上げる。
なんだろ?
「……そういえば、車が止まってたな」
「車?」
これは、新しい情報だ。
「そう。いつもは止まってないのに、昨日は一台だけ、白い車が止まってた」
なるほど。
それは多分、担任の車だろう。
いつもは遅い担任だけど、その日はたまたま早く来たって言ってるから。
結局、新しい手がかりなしか。
ちょっと、期待して損した。
「……他には、ない?」
僕の問いに、轟さんは再度考え始めた。
頼む、何か新しい情報を。
「……あ! そういえば、その日の朝に、小林先生が用務員のおじさんと二人で話しているのを見たな」
それ、もう知ってるよ。
「多分カギを借りてたんだろうね。それって、何時頃だった?」
「学校に着いた後、教室に鞄を置いてすぐだから、多分五時三十五分頃だと思う。その三十分後くらいに、権堂のゴリラ野郎に捕まった」
「どこから、小林先生たちを見てたの?」
「教室から出てすぐの廊下」
ってことは、三階か。
「残念だけど、もう思い出したことはないよ。それで全部だと思う」
申し訳なさそうに言う轟さん。
「そっか……ありがとう」
「いや、礼を言うのはこっちだ。もしお前がいなかったら、あたしは問答無用で警察に通報されてたかもしれないし」
「そんな……別にお礼なんていいよ」
「そうか? なら、言わないよ。あたしが無実になったら、言うことにする」
「うん、そうしてよ」
「ああ。……さってと」
ゆっくりと立ち上がる轟さん。
うーっと身体を伸ばす。
「あたしは、今日は帰らせてもらうよ。これからバイトなんだ。……っと、そういえば相沢って、生徒会役員だったっけ……ミスったな」
この常盤高校の校則では、バイトは禁じられている。
だから、轟さんは、ミスったって言ったんだろう。
僕が、校則を守らないといけない立場だから。
「大丈夫、今のは聞かなかったことにするよ」
「……サンキュ。んじゃ、な」
手を振り、去っていく轟さん。
ちょっと、カッコいい。
「……轟さんって、怖い人だと思ってたけど、そんなことないんだね。ちょっと、カッコいいかも……」
どうやら、小唄も同じだったらしい。
ちょっと、ショックだ。小唄と同じ思考回路だったなんて。
ま、今はどうでもいいや。
「そろそろかな」
ポケットから携帯を取り出し、時間を確認する。
現在、午後六時三十二分。
用務員のおじさんも、帰ってきてるかもしれない。
さっそく、訪ねてみよう。
でも、その前に。
「小唄、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「? なぁに?」
「ちょっと、調べてほしいことがあるんだよ」
不敵な笑みを浮かべる僕。
少し、会長になった気分がした。




