2章-17話 はぐれエルフのフェイナート
高評価等とても励みになります。
もし良ければ高評価等よろしくお願いします
先程まで激しい戦闘が繰り広げられていたとは思えないほど、広間には静かな空気が流れていた。
フェイナートの命がもう幾ばくもないことは、全員が察していた。最期に海を見たいという願いも知っていた。
……だが。
まだ、後ちょっとは時間があると思っていたのだ。
せっかくだから海で魚を取って一緒に食べたかった。
もう少しゆっくりお話ししたかった。
もっともっと、いろんなことを教わりたかった。
けれど、もうどれほど呼びかけても、フェイナートの温かな魂が戻ってくることはない。
サキは唇を強く噛み締めたまま言葉を失い、レンカは小さな肩を震わせて俯いている。
リリだけが静かに膝をつき、フェイナートの冷えゆく両手を胸の前で丁寧に組ませると、残留するかすかな温もりを慈しむようにしっかりと握りしめていた。
「……フェイ婆、最後までカッコよかったデス」
ルクは何も言わない。
ただ静かにフェイナートを見つめながらもらったスキルを解析し、せめてとフェイナートに手を伸ばした
その時だった。
ゴゴゴゴゴ……!!
突然、神殿の全域を揺るがす凄まじい地鳴りが鳴り響いた。頭上の天井からパラパラと落石が降り注ぐ。
「な、何!?」
魔剣が主人の元に帰った事で、もうこの遺跡の役目は終わりを迎えたのだ。
「うわぁ!? 崩れるデス!?」
「魔剣が制御していたんでしょうね……!」
「と、とりあえず脱出するわよ!!」
だが……ルクはその場から動かなかった。
「ルク?」
ルクはフェイナートを自身のスキルでダンジョンに送る……死者ならば魔眷属出なくても入れられるのだ。
「海の近くに墓を建てる!これは新魔団の決定事項だ!こんな遺跡と一緒に眠らせはしない!」
「……そうね!」
「当然です」
「当たり前デス!」
崩れゆく回廊を全力で駆け抜けながら、サキは不意にルクの側顔をチラリと確認した。
どうしても確認しておきたいことがあった。
いや、答えなど最初から分かっていたのかもしれない。
だが、共に生死を潜り抜け、本当の「家族」となった今だからこそ、誤魔化さずに言葉で聞きたかったのだ。
「……ねぇルク」
「なんだ!?トイレか!??」
「違うわよ!!……その、さっきフェイ婆魔王って言ってたわよね?」
遺跡は崩壊を始めているが、ルク達は立ち止まった……。
リリもレンカも足を止め、真剣な眼差しをルクへと向ける。
ルクはもう決めていた…… 。
天使と出会った時、あの時は回答を濁してしまった。
しかし、次に聞かれた時は本当の事を話そうと決めていたのだ!
「ああ、そうだぞ?言おう言おうと思っていたのだがな!ハッハッハ!」
ルクは少しだけ強張った笑顔を浮かべると、クルリと身を翻し、新魔団の全員で考えた「あのキメポーズ」を豪快に決めてみせた!
「我が真の姿! かつて世界を震撼させた『スーパーパーフェクト魔王』その人である! 存分に恐れ敬うがよいぞー!」
「やっぱりデスか?」
「フフッ、まぁそうですよね?」
「まぁ、何となく分かってた事だけど??あの御伽話の魔王なのもホント?」
「御伽話が何かわからんが我は魔王だぞ!」
いまだにルクは300年後の世界だと気づいていないのであった。
サキ達は顔を見合わせると。
呆れたように、けれど愛おしそうにフッと微笑んだ。
そして自然な動作で、全員がルクを囲むようにキメポーズを決めた!
……崩壊の一途を辿る海底遺跡の真っ只中で!!
ズシンッ!! と直後、背後の大柱が豪快に崩落した。
「うわぁぁ!? 今は逃げるの優先よ!!」
「そうだな!全力疾走だ!」
【スピードコマンド!】
四人は崩壊する遺跡を駆け抜けていく。
ルクが魔王だった……まぁ薄々気づいてはいたが。
普通なら恐れるべき事実のはずだった……。
けれど、彼女達は知っていた。
肉をつまみ食いして怒られるルクを。
棒倒しで進路を決めるルクを。
野菜を見て大はしゃぎするルクを。
…………そして。
自分たちを絶望から救ってくれた大好きなルクを。
「……まぁ、ルクだし」
サキがぽつりと呟くと、リリとレンカもそれに続く。
「別に今さら変わんないわよ」
「ルクはルクですから」
「魔王でもご飯いっぱい食べるデス」
「ハーハッハッハ!ウム!我らは家族だ!!」
ルクは少しだけ目を丸くしてどこか安心したように笑った……。
実はちょっぴりだけ、ほんとーにちょっぴりだけ不安だったのだ!
間一髪のところで崩落の連鎖を抜け出すと、まるで四人の脱出を見届けたかのように、封鎖遺跡アトラは重厚な音を立てて大海原の底へと完全に沈降していった。
その日の夕暮れ。
青い海が一望できる断崖の上に、立派な墓標が建立された。
フェイナートが寂しくないよう、周囲の岩を削り出してつくった豪勢な石碑だ。
魔物が寄り付かないよう強力な「迷いの結界」を重ねて張り巡らせ、中央には彼女が長年愛用していた魔導杖を静かに供えた。
……きっと喜んでくれるだろう……。
「…………さて」
腰に短剣へと姿を変えた魔剣を収め、ルクが満足そうに腕を組んだ。
ルク達は一体ここまで何をしにきたのだったか。
魔剣を回収する為?
フェイナートに会う為?
違うのだ!断じて……。
港街ラグノートを目指していたのである!
しかし、ここはただの海岸であったわけで…………。
「……それで?海にはつけたが、ここはどこだろうな?」
「…………それ言っちゃうの?」
「港街って海にあるんじゃないんですか?」
「とりあえず、棒倒し君の出番デスか?」
そんな中。
グゥゥゥゥ~と誰かのお腹がなった。
「とりあえず魚だな!」「魚ね!」「海鮮ですね!」「潜りマス!」
四人は元気いっぱいに海へ駆け出した!
目的などよりまずはご飯である!!
ここが何処だか分からない?
食べてから考えればいいのだ!
「しょっぱぁぁぁい!?」
海水を口にしたサキが悲鳴を上げる。
「ハーッハッハッハ!海まだからな!とぉぉう!」
ルクはそのまま豪快に海へダイブ!
勿論探すのは食い物!
【スペルマジック:サーチ】
「ぬおっ!? 魚いたぞ!大群だ!」
「ルクッそっち行きました!」
「囲むデス!囲むデス!」
「待ちなさいよ!?何でそんな早く泳げるの!?」
そして当然のように素潜り漁が始まる!
レンカとサキが風魔法で水流を操り魚を追い込み。
リリが岩場へ誘導、ルクが必殺の空気の檻で捕まえる!
…………戦いの時より連携しているのではないか?
「大量だーハーハッハッハ!!」
「デカっ!?」
「今日の晩御飯ですね!」
「まだ食べるデス!!」
貝を拾い、巨大な蟹を追い回し、魔タコに巻き付かれたサキの悲鳴が浜辺に響く。
太陽が水平線の彼方へと沈む頃には、砂浜に山のような海鮮が積み上げられていた。
パチパチと薪がはぜる焚き火を囲み、香ばしく焼き上がった魚介に豪快にかぶりつく。
川魚とは異なる、濃厚な塩気と旨味が口いっぱいに広がった。
「うまぁぁぁぁ!!」
「海の魚ってこんな美味しいのね!?」
「塩味が効いてますね……!」
「幸せデス〜……」
そんなルク達がいる崖の上では静かにルク達を見守るかの様に墓標が立っているのであった。
——————————
『ある日のエルフの想い出』
まだ魔王との戦争が終わる前、勇者一行は長旅の途中で海辺へ立ち寄っていた。
砂漠を抜け、広大なジャングルを抜けた先にある小さな海岸に勇者の気まぐれで辿り着いた……。
「ほんっとうに、勇者は気まぐれなんだから!」
(戦ってる時はかっこいいのに………… 。)
今のは勇者には絶対に内緒である。
結局文句を言いながらも素潜り漁を始め、夕暮れ時には賑やかに焚き火の準備を整えていた。。
そんな中勇者パーティーのエルフは一人、丘へ腰掛け海を眺めていた。
「お、いたいた」
片手には串焼きもう片方には、何故か貝殻を大量に抱えた勇者がやってくる。
「……何?その大漁の貝殻、呪術使えたっけ?アンタ」
「いや、浜辺来たら拾うだろ?」
「子供かアンタは」
勇者は笑いながら海を見続けるエルフの隣へ座る。
「海、好きなのか?」
「嫌いじゃないわね?見ていて飽きないし」
「わかる〜〜、はぁぁなんでビキニが存在しないのか……魔王を倒したら絶対流行らせる」
勇者は妙に実感のこもった声で頷いた。
「沖縄よりも綺麗な海にビキニの美女……くぅぅ」
「……ビキニに沖縄って?なにそれ??」
「ん?」
「アンタ海沿いの生まれだっけ?どこの都市よそれ?」
「いや?あー……なんつーか。夢みたいなもん…………かな?」
「ふぅん?」
遠い目をする勇者に、エルフは小さな溜息をついた。
この男は時折、誰も知らない料理をつくり、聞いたこともない言葉を口にし、妙な遊びを発明しては周囲を笑わせた。
まるで、この世界とは全く異なる「どこか」を知っているかのように。
けれどエルフは、決してそれ以上を追及しないと決めていた。
「でも海っていいよな〜」
「静かだし飯うまいし昼寝できるし…………最後を迎えるならこういう場所がいい」
「最後?」
「うん、もし老後とかあるならこういう場所がいいな」
「老後ぉ?」
エルフは盛大に吹き出した。
「勇者様が老後ってなに?ギャグ?」
「考えるだろ普通!!?」
「アンタ絶対途中で問題起こして死ぬタイプでしょ?」
「ひでぇ事堂々と言うよな?よぉしわかった!それならこうだ!」
勇者が笑いながら頬をつつきに伸ばしてきた手を、エルフは完璧な見切りで回避し、容赦のないチョップを頭に叩き込んだ。
「痛ぇ!? ……まあでもさ、本気の話。もし最期があるなら、海の見える丘に墓を建ててほしいな」
「縁起でもない事言わないでよ」
「でもさ人っていつか死ぬだろ?」
…………………………。
エルフにとって死は遠い、寿命で死ぬ前に先に精神がやられて死ぬ者の方が多いまである。
だが、人間は違う。
勇者も他のパーティーだってきっと自分より先に逝ってしまう……それが少しだけ嫌だと思った。
「もし終わるならさ海が見える場所がいいな…………故郷と繋がってる気がするから…………。」
「……なら、わたしもそうしようかな」
「お、墓作っとく?2人で入れそうなやつ」
「誰が入るか馬鹿!!わたしはこじんまりしたのでいいの!!アンタの骨は海に流してあげるからそれで満足しなさい」
結局この勇者とエルフは結婚し、勇者が亡くなるまでは旅を続けながら幸せな毎日を送ったという。
少し悲しめの話が続いてしまいました。
ルク達の物語とは完全に別ですが
本日(6月24日)夕方位に別の物語を投稿予定です。
こちらは完全に不定期連載(予定)ですがよければチラ見程度でも見て下さると嬉しく思います。




