2章-14話 はぐれエルフのお婆ちゃん
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とある森の奥深くにて
一人の老婆のエルフが、静かにその命を終えようとしていた。
モンスターに襲われた訳ではなく毒や大きな怪我を負ったわけでもない。
長い長い時を生きた果ての老衰だった。
エルフは数百年を超える時を生きる、その為その最期を見届ける者は少ない。
エルフは死ぬ間際に始めて老化していく。
エルフの老化が始まった事、それこそが死が近いと言う事なのだ
老婆はこの森で孤独に生きていた。
若い頃、外の世界への憧れを胸に世界樹を守ることしか頭にない頑固な里を飛び出した。
彼女は強かった!
強力な上級魔法を使い、さらには里から(勝手に)持ち出したあらゆる敵を射抜く魔弓で鉄だって貫いた
そして長い年月をかけ何度別れや出会いを繰り返し数々の偉業を成し遂げ、やがてSランク冒険者にまで上り詰めた。
魔王四天王の1人を食い止める為に別行動をするまでは勇者パーティーとして活躍だってしてきた。
あの頃は、確かに輝いていた。
だが、世界は変わってしまった……。
勇者と天使達が魔王を討ち滅ぼし、魔族が姿を消すと平和と引き換えのように、この世界から魔法が少しずつ衰退していったのだ。
何者かの意図を感じる程に上級魔法を扱える者は年々減り続けていった……。
低級や中級魔法なら、まだ扱える者はいる。
しかし上級以上ともなれば、使い手はエルフや一部の特別な才能を持つ者だけとなり希少となった力は人々に求められ続けた。
増え続ける依頼で世界を飛び回り、仲の良かった勇者パーティーもいつの間にかそれぞれ別の道を歩み始めていた。
だがSランク冒険者になってしたったが故に称号とプライドが逃げ道を塞ぎ最愛の人もこの世を去り、ただ無心に依頼をこなす毎日。
そんな時ついに悲劇が起きてしまった。
ある貴族が、上級魔法使いを所有しようと考え彼女は騙され捕らえられてしまったのだ。
そこからは本当の地獄だった……貴族の屋敷で、長い年月を奴隷のように扱われた。
自由は無く尊厳も無く、あるのは主人に逆らえなくされる冷たい首輪と憎たらしい笑みを浮かべてくる貴族の笑い声だけだった……。
そして、ただ魔法を使う道具として生き続けどれほどの時が経ったのか。
ようやく逃げ出せた頃には、恐らく百年ほどが過ぎていた。
それから彼女は人を避け大陸を渡りこの森に迷いの結界を貼った。
誰にも見つからぬよう、誰にも関わらぬよう。
そうして、たった一人で生きてきてその人生も終わろうとしていた。
「ワタシの人生も……もう終わりかねぇ……」
痩せ細った身体を椅子に預け、老婆はかすかに笑う。
「最後に……あの宿屋のリンゴパイ……もう一度、食べたかったねぇ……ふぇっふぇ」
目を閉じれば、若き日の楽しかった記憶が浮かぶ。
仲間達と笑い合った日々。
焚き火を囲んだ夜。
自由を手に入れてはしゃいだ森での狩り。
「碌でもない人生だったけど……冒険してた頃は……楽しかったねぇ……」
ゆっくりと癒しのお香を焚き残された魔力を使いユニークスキルを発動させようとした時だった……
老婆が森に貼った迷いの結界が何者かに破られたのだ。
だが、老婆は驚かなかった。
もう隠れる理由も、生き延びる理由も無い。
「ふぇっふぇっふぇ……まさか死ぬ間際に来客とはねぇ……」
全てを諦めた者の笑い声が、小さな小屋に響く。
「結界を壊すなんて……どんな凶悪な魔獣か……それとも……まさか生き残りの魔族でもいたのかねぇ……」
静かな森の中、老エルフは、ゆっくりと目を閉じ来客者を待った。
どうせ最後だ、どんな馬鹿者がこんな森に来たのか見てやろうと大きな魔法の杖を握りしめてお香の香りを楽しむのだった。
そして
そんな結界を壊した馬鹿野郎とは………………
「…………………………」
あっ、これ結界だったんだな??
なんか惑わしの効果が森に張り巡らされてるな〜って思ってたんだよなぁ?
つい条件反射で壊しちゃったというか食べちゃったけど。
凄いな星喰い!暴食の時では食えなかった結界も喰えるようになったのかハーハッハッハ!
「ねえルク?今何か壊れる音しなかった??」
「パリンって聞こえましたね?」
「やっぱり右に行った方が当たりだったのデス!棒倒しを信じないとダメなんデス」
ルク達は、深い深い森の中を彷徨っていた。
周辺の人々から神隠しの樹海と恐れられる迷いの森で…………。
なぜ海を目指していたルク達がそんな場所にいるのか!理由は単純だった!
棒倒しで、棒がこっちに倒れたからである!
ノクトから貰った地図は確かにあった。
だが、使えなければ意味はないのである。
街道に沿って歩けばよかったのでは?
それは違う!棒が森の方へ倒れたのだから仕方ないのである。
分かれ道にぶつかれば棒を倒し、木々に行き止まれればまた棒を倒す。
崖に突き当たっても、登れそうだったら登り、降りられそうなら降り無理そうなら懲りずにもう一度棒を振る。
そうして気付けば、誰も寄り付かぬ樹海の奥深くまで来てしまっていた。
ちなみに一度だけ、あまりにも海へ辿り着かないので棒と逆方向へ進んだことがある。
これは特にノクトには内緒である。絶対に内緒なのである。
何故棒を倒すことになったのかって??
丁度いい長さの棒があったら倒すだろう!当たり前のことを聞かないで欲しいのである!
「フム、これはお宝の匂いがするな!ハーハッハッハ!ラッキーだぞ!」
「お宝??なんでよ?」
「そりゃ結界が張ってあったらその先にお宝があるに決まっているだろう!?
逆にそれ以外でなんでこんな森に結界があるといつのだ!」
ババンッ!と効果音がつきそうな勢いで高らかに宣言する。
!!!!!
そして他の3人は衝撃を受けた!結界とかお宝って?とか良く分からない事もあったがルクが自信を持ってそう言ったのだ。
つまりそう言う事なのだ!!
「確かに…………段々そんな気がしてきました!森という事は美味しい果実でしょうか?」
リリはすこーしだけお腹が空いていた、すこーしだけ。
「きっと美味しい食べ物がいっぱいあるデス!」
確かに老婆は魔法で畑を育てているのであながち間違いでは無いのがレンカの凄いところである。
「フッフッフ甘いわね!ハチミツよりも甘いわ!きっと魔杖よ!私も魔装備が欲しいの、きっとあるわ」
「待て待て、サキはトレントの杖があるでは無いか!我はまだ何も無いのだ!そろそろ何か欲しいのだ!」
そうしてルク達はワイワイ雑談しながら進む。
結界を破りその先にお宝があると信じて進む…………。
老婆が中々来ないな?あれぇ?本当に結界壊れたんだよな〜と段々不安になってきて
魔法で作った使い魔の梟を森に放ちルク達を見つけると隠れ家まで案内するくらいには森の中を彷徨いながら歩き続けたのだった。
「「「「おお〜〜!!」」」」
梟に導かれたルク達は、森の奥に建てられた木造のロッジへと辿り着いた。
そして、見つけてしまった
禁断の花園を!
大きく実った真っ赤なトマト畑。
魔法で鮮度を保たれた巨大なキャベツ畑もある!
芋畑に、ナス、キュウリ、玉ねぎ………………。
少し離れた場所には、小麦畑まで広がっている。
「こ、ここが楽園か……! 楽園は実在したのだ!」
「凄い凄い凄い!凄いじゃない!」
「凄いです!こんな大きな野菜は初めてみました!」
手を握り合い飛び跳ねて喜ぶ姉妹。
「食べられるデス?もう食べて良いデス?」
そしてもうお腹が限界のレンカ。
ルク達は大はしゃぎで畑を駆け回った!
トマトを齧り、キュウリも丸かじりし、キャベツをむしゃむしゃと頬張った!
ログハウスの窓から呆然とこちらを見ている老婆など気にも留めずに………………。
エルフの老婆は困惑していた。
結界を破って何者かが侵入してきたと思ったら、使い魔が森で迷子になってる子供達を見つけた。
人に関わる気は無かったがどうせ最後だと家に招待する事にした。
使い魔が帰ってくるなり外を覗くと、何の悪意も無さそうな子供が自慢の畑を見てはしゃいで美味しそうに野菜を食べている。
疑問は勿論色々とあった。
だが老婆だってこの森にやってきてから百数十年程
実はちょっぴりだけ寂しかったのだ!
これは墓まで持っていくつもりだったが
ちょぴっとだけ寂しかったのだ!!
ならば最後くらい…………。
最後くらい、この子供達と過ごしても罰は当たらないだろう。
そう開き直ると、老婆は久しぶりに腕を振るった。
家に入ると残り少ない調味料を使い自慢の料理を作っていく
ふわふわの手作り白パンに、たっぷりの蜂蜜。
塩胡椒で香ばしく炒めた野菜炒め。
そして、遠い昔――勇者と旅をしていた頃に教わったマヨネーズを使ったポテトサラダ。
そして全く疑うことなくに良い匂いにつられてやってくるバカな子供達…………。
その日老婆は久々に笑ったという
そして、いつも調味料など使わず肉や野菜を適当に焼いたりスープにしたりしていたルク達も
あまりの美味しさにテンションがあがりその日は夜遅くまで笑い声が響いていたと言う。




