2章:王国と動き出した天使編 1話人々の笑顔の裏で
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とある都市、領主が住まう大きな屋敷。
「ぐっ、……まさか、最初からこのつもりで私に近づいたのか……!良き軍師としての顔は、偽りだったというのか……!?」
豪華な調度品で飾られた領主館の一室で同じ顔、同じ髭を生やした四十代半ばの男が二人向かい合っていた。
1人は腹部に剣を刺され膝を突き、もう1人は悪どい笑みを浮かべ剣を突き刺している。
「くっ、ハハハハハ! 私はね、己の知略によって愚者を策に嵌める瞬間がたまらなく大好きなのだよ。クククッ……その絶望に歪んだ顔、実に美しい」
「おのれ……天使が我等人間を裏切るのか!?」
「裏切る? ふふ、心外だな。裏切ったのは君たち人間の方だろう?」
「せっかく我等天使が魔王を誘導して魔大陸から炙り出し、人間と戦争させることで討伐出来て不安分子がいなくなったと言うのに、今度は人間同士で戦争を始めて強さを高め合うんだからね。
余りにも醜い、それなら我等天使が世界を管理した方が皆が笑って過ごせる誰も我等天使に逆らうことを考えられない世界に出来る……そうだろう?クフフ」
「………………グッ」
すまない王よ、娘よ。頼む、誰でもいい気づいてくれ。
「何だ、もう事切れたのか」
パチン、と指を鳴らすと魔法の光が死体を包み込み、塵一つ残さず消滅させた。
そのまま男の骨格がミシミシと音を立て声色や立ち振る舞いまで、たった今命を落とした領主そのものへと変貌していく。
「今日からこの都市はこの私。『五大天使が一柱・策略的大天使ヴァルセリオ』が統治する。記憶はいただくぞ、元・領主様?」
その夜、密かに1人の王国領主がその存在を消した。
だが人々は気づかない、大天使が領主と全く同じ顔、性格、仕草をコピーして都市を統治し始めたからだ。
これからゆっくりと、しかし確実にこの都市は変わっていくこととなる、誰も疑問を抱かないまま。
辺境都市リサナク領主の屋敷の一室にて……
「何故だ!一体どこで僕の計画は狂ったんだああっ!?」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ!!
領主館の一室で、十二歳のアシュレイは泣き叫びながら、ひたすら風魔法でボウルの中の生クリームをかき混ぜていた。
あと三年。あと三年で、前世で死ぬほどやり込んだ超鬼畜難易度RPG『天空のデフペラソーレ』のメインストーリーが始まってしまう。
アシュレイは前世のゲーム知識を総動員し、領主の三男という立場を利用してリサナクの防衛力を強化し、金策に励んできた。いつあの絶望が襲いかかってきてもいいように、万全の準備を進めていたのだ。
その一環として、砂糖の生産ラインまで作っていた。
……そう、「砂糖があるなら、ちょっと甘いものが食べたいな」と出来心で思ってしまったのが、すべての悪夢の始まりで……。アシュレイはついに、前世の記憶を頼りに『ショートケーキ』を完成させたのだ。
(上に乗っているのはイチゴじゃなくてブルーベリーだが)
最高の出来に満足したアシュレイは、「一人で食べるのもな」と、イグニスとサフィアそして母親を誘って試食会を開いた。
しかし……うっかり忘れていたのだ。
過酷な鍛錬に明け暮れるあまり、この世界の貴族女性(および甘党)にとって、精製された砂糖と生クリームの暴力がいかに破壊的かという常識を。
イケメン主人公としてあるまじき失態である、いや成功なのだろうか?
そして母親から他の貴族達へと噂が広がり現在辺境都市リサナクではショートケーキブームが到来していた。
だが問題が此処で発生する。
そのショートケーキを作れるものはアシュレイと料理開発に協力して貰っている屋敷のシェフ数人のみだったのだ。
「アシュレイ坊ちゃん!応援はまだですか?」
「大急ぎで今募集掛けてるから!」
「もう何日も前から言ってますよ!それ」
「信用がある人物しか雇えないんだよ!!僕だってこんな事やりたくないよ!」
「ちょっと!アシュレイ様がやらなかったら風魔法使える人がいなくなって…………全部手でクリーム作る事になりませんか?」
「………………そこはほら、シェフの腕の見せ所みたいな?」
「「絶対応援入っても当分はここにいてくださいね」」
ここでも過労死寸前の人達が領民に気づかれないまま、ショートケーキ革命という名の革命の被害者となって日々悲鳴を上げるのであった。
貿易都市ヴァラレート領主の屋敷にて
領主はとても困っていた。
「ハァァァァ、まだ来ない…………」
そう、ルク達にこのままだと期限切れで冒険者プレート剥奪という知らせを出してからもう1ヶ月がたっていた。
本当は既に期限切れなのだがヴィカからの要請もあり、領主の裁量という事で何とか誤魔化して来た…………だがそれもそろそろ限界に近かった。
「もしや道中で何かあったのか…………いや、だが騎士団の巡回連絡では以上は無いと報告を受けている。なら一体なぜ………………」
コンコン!強いノック音が部屋に響く
「入りなさい」
「失礼します!」
「第三騎士団副隊長だね、何かあったのかい?」
「ハッ!現在冒険者ギルドにてルクという少年がギルドプレート更新にいらしております」
「おおおっ!やっと来たか!」
待ち望んでいた報告に領主はホッと胸をなでおろした。
「言いたいことは分かった! プレートの更新は許可する! 彼らはあのミノタウルスのスタンピードを食い止めた最大の立役者だからね。特別措置として文句は言わせん!」
「い、いえ……それが……」
「ん? どうしたんだい?」
しかし副隊長が、なぜか気まずそうに視線を泳がせている。
「実は……ここへ向かう途中で『レベル1の未開拓ダンジョン』を発見したいたらしく……『せっかくだから攻略して潰しておいた』と……」
「なんと! それは素晴らしいじゃないか! レベル1とはいえ、未開拓ダンジョンを子供たちだけで完全攻略するなど快挙だ! ……だが、わざわざ私のもとへ慌てて報告に来るようなことかね? まだ何かあるのかい?」
「………………え、ええとその。」
「大丈夫、君に責任はない言ってごらん」
「ハッ! 実はそのダンジョン……極めて純度の高い『ミスリル』が採掘できる鉱脈ダンジョンだったらしく……『この銀色の石ころ、高く売れる?』とギルドに持ち込んできまして……」
「な……っ!? ミスリルの鉱脈ダンジョンだと!?」
領主は目が飛び出そうになった!
ミスリル! それは国家の予算を揺るがすほどの超超超・超激レア資源である!
「素晴らしい! ヨシッ! 今すぐそのダンジョンを都市の管理下に置く! 急ぎ騎士団の採掘部隊を編成して……ん?」
そう思った領主だったが、先ほどの言葉を思い出しピタリと動きを止めた。
「……待て。君は今、彼らがどうしたと言った?」
「……『潰しておいた』と」
「………………」
「管理下に置かれていないダンジョンは、見つけ次第核を壊して潰すものだと教わっていたらしく……」
「…………………………」
「………………………………」
「最近胃が弱くなったみたいでね………………何かいい薬無いかな?」
「お察しします。」
そうして貿易都市ヴァラレートが王都並みに栄える未来は途絶えたのであった………………。
ルク達が発見しなければ、いや。
このダンジョンはルク達がハイキングがてら山を登り、川で魚をとっていた時たまたま逃げられた魚を追って川に潜って流されたレンカを救出しようとして皆んなで流され滝から落ちた先にあったダンジョンであり。
誰も発見することもなくアシュレイすら知らない完全未開のダンジョンだった。
場所的にも管理できるダンジョンでは無いのだが、ルクたちの説明不足(というか知識皆無)のせいで、真相を知る由もない領主はただ一人で胃痛と戦うことになったのだった。
そこへ、執事が恐る恐る入室してくる。
「申し上げます。先ほど、予定通り帝国貴族の次男様が領内に到着されました。ダンジョンを攻略したいとのことですが……少々困ったことを仰っておりまして……」
「……な、何だね今度は……?」
胃をさすりながら尋ねる領主。
「15歳以下のパーティーだけでダンジョンを攻略したい。戦闘は自分たちでやるから案内だけつけろと……」
「………………なんと無謀な」
領主は天を仰ぎ、ついに魂の叫びを漏らした。
「……誰か、私と領主を交代してくれないだろうか……」
そんな事など知らない領民達は今日も活気に溢れ生きていく、レベルを下げたとは言え有益なダンジョン2つがあるこの都市はとても栄えているのであった。
2章はルク達がいろんな出会いや経験をして大人になっていくを裏テーマとしているので、少しシリアス?な部分があるかもしれません。
が、ルク達の王国を大移動する大冒険が始まりますので楽しんでくれたら嬉しく思います。




