29話 VSボスミノタウルス 前を見る勇気編
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ボクは震えていた。
お腹に大きな穴を空けたヴィカ騎士団長を、必死に部屋の端へ引きずる。
震える手でポーションを何本もぶちまける。
助かってください!お願いだから死なないで!
そう願ったところで、戦況は何も変わらなかった
振り返れば、そこには地獄があった。
騎士達が次々に吹き飛ばされる、骨の折れるような音
赤い巨体が槍も剣も叩き折りながら前へ進む
そのたびに誰かが倒れ、誰かが動かなくなる。
ボクより何倍も強い人達が、次々と
体の震えが止まらなかった。
立ち上がろうとしても立ち上がれない。
怖い…………怖い怖い怖い!!
あんなの勝てるわけがない。
耳を塞ぎ目を瞑る、聞きたくなかった。
仲間の叫びも化け物の雄叫びも自分の心臓の音さえ。
せっかく見つけた居場所だったのに。
笑ってくれる人がいて、レンカって、名前を呼んでくれる人がいて「仲間だ」って言ってくれる場所だったのに。
なのにボクは、そこで蹲って震えているだけだった。
何も出来ない、助けられない、ボクは弱虫のままなんだ。
「――それで良いのか、半端者」
………………声が聞こえた気がした。
頭に、血で濡れて重たくなった手が置かれる。
ビクッと肩を震わせて振り向くと、ヴィカ騎士団長が倒れ込んだまま笑っていた。
腹に風穴を空けられ、今にも死にそうなのに。
それでも優しい顔で。
「臆病なのは悪いことじゃない……逃げるのも、生きるためには必要だ……」
掠れた声だった、でもその声を聞いたら凄く優しい気持ちになれた。
「……だがな?よく見ろ」
ヴィカ騎士団長が向けた視線の先。
そこには、決して諦めなず前を向くルクとリリ、顔を真っ青にして倒れそうになりながらも、何度も何度も魔法を撃ち込むサキがいた。
「お前は……もう一人じゃない……」
そんなこと言ったって、ボクに何が出来る。
ボクなんかが行ったところで、次に潰される死体が増えるだけだ。
怖い、死にたくない!体の震えが止まらない。
「……一撃でいい」
ヴィカ騎士団長が言う。
「やってみろ……やってダメなら、それでもいい……」
震える手が、ボクの肩を押した。
「ワタシに残った力を……貸してやる」
次の瞬間、熱が体を駆け抜けた
【アタックコマンド】
【フィジカルブースト】
さらに周囲を見ると、倒れていた騎士達まで這いつくばりながら手を伸ばしていた。
「行け……!頼む」
そして倒れた騎士達からも力上昇のスキルをかけてもらう。
体術スキルも速度上昇スキルをそして
槍を使えるものからは槍のスキルを
震える声で今にも消えそうな命でそれでもみんなボクに託していた。
期待されるのが怖かった、失敗するのが怖かった。
でも、それ以上にここで逃げたらもう二度とこの人達の顔を見れない気がした。
槍を握る手はガタガタ震える
それでもボクは…………ゆっくりとだけど立ち上がれた。
目の前には、大きな赤い怪物。レッドデュアルミノタウロス。
騎士達を踏み潰した化け物。
怖かった、今すぐ逃げ出したかった。
でも。
「ボクだって……!」
…………気がついたら叫んでいた!叫ばずにはいられなかった。
「ボクだって、新魔団ダ!!」
涙で視界が滲む。
「新魔団が……ボクの居場所ナンダァァァァァ!!」
正しい投げ方なんて知らない。綺麗な構えなんてできるわけがない。ただ、全身を滅茶苦茶に振り絞った。
肩が千切れそうな辺な投げ方で投げ投げたら勢いのまま前に転がり落ちた。
床に叩きつけられ受け身も取れず顔面を強打した。
…………痛い………………それでも。
それでもボクは、レッドデュアルミノタウロスから目を逸らさなかった…………怖いからこそ。
もう二度と、目を背けないように。
そして
ドゴオオオン!!という大きな音と共にレッドデュアルミノタウロスが後ろに倒れた。
「ンッ?んんぅ」
戦いの後数十分後、思いっきり壁にぶつかり気を失っていたルクがようやく目を覚ました。
そこには、傷ついた騎士たちにポーションをふんだんに振りかけ、手際よく手当をしているレンカの姿があり。その奥ではボスと共に現れたハイミノタウロスを手早く解体し、ノリノリでその肉を焼いているサキとリリの姿があった。
騎士団が大量に用意しておいたポーションのおかげで、なんと死者は1人も出なかったのだ。
(……勝ったのか、我ら? 最後槍がミノタウロスに飛んでいった気がするが……う覚えだな。まあ、勝ったんだから全てオッケーだな!)
「おいっ、サキ! リリ! 我を起こせ! 我も肉が食いたい!!」
ルクは全身打撲で一歩も動けず、地べたに転がったまま叫んだ。
「イタイ! とてつもなく体中がイタイ!!」
「我慢しなさいっ、すぐ突っ込んでいくからよパクパク」
「ルクはすぐ無茶をするモグモグ」
「いや、リリも結構だけどね??ねぇレンカ」
「えっ?ええっと………………ニク、美味しいですエヘヘ」
重傷で身動きが取れない騎士団が転がっているすぐ横で、悪びれもせず焼肉を頬張る新魔団の面々。
「オ、オマエ、ら、なかなかいい度胸してんじゃねぇか……イテテテテ」
「腹に風穴開けてまだ生きてるとは、ハッハッハさすが獣人タフだな」
「ポーションぶっかけてくれたおかげでな…………なぁ?ワタシ達の分は焼いてくんねぇのか?」
「イタタ、焼いても食えんだろうに?立ち上がれるようになるまで待っててやるから早よ直せパクパク」
呆れ顔の団長に容赦なく言い返すルク。すると、肉を焼いていたサキが思い出したように声をあげた。
「あ! そうだルク、赤いミノタウロスからレアドロップが出たのよ! ホラっ!」
サキが指差した先。そこには、レッドデュアルミノタウロスが使っていた威圧感あふれる魔斧と、謎めいた共鳴の書が、巨大な魔石とともに転がっていた。
「………………………………」
ルクの目が一瞬でギラリと光った!この場で動けるのは我らだけ、ならば全てのドロップ品は我らの物なのだ!
「バレないうちに回収だ!!」
「オイ待て! ちょっと待ってくれ! なあ!? 魔斧だと!? なぁルク!!? オイッ!!」
とても耳の良いヴィカ団長が必死に叫ぶもルクは即座に指示を出した。
「リリ、うるさい虎は寝かしつけてやりなさい」
「任せてっ」
リリがスッと立ち上がり、ヴィカに向けて容赦のない手刀を構える。
「わかった! ワタシが持ってるスキルを何でも一つ教えてやる! な? それとアイアンゴーレムの素材は要らない、全部やる!……そ! そうだ、おすすめの宿も紹介してやるよ! なんにも知らねぇんだろ? 当然、金も払う! な!?」
(フム……騎士団長だけあって、有用なスキルをいくつも持ってるんだよな、ヴィカは。でも一つだけじゃなぁ〜)
「フム、ならば我等4人に一つづつでどうだ?」
(1人一つならかなりの儲けたぞ!ウッシッシ)
「グッ、い、いいだろうそれでいい」
「よしっ、なら魔斧と魔石は譲ろう!書と肉は我らが貰うぞ?」
「あ、ああ!それでいい助かるぜ!」
数時間が経過し、なんとか歩けるようになる者、誰かの肩を借りて足を引きずる者と負傷具合は様々だが、全員が動けるようになった。
「よしっサクッと水晶沈めるか!レベルダウンさせればいいんだな?ヴィカ」
「ああ、それで頼むぜ」
「よし、皆水晶には触れたな?沈めるぞ」
ダンジョンレベル2→1
[ルク、サキ、リリ、レンカ、ランダムにステータス+10特別ポイント+1。」
新習得スキル
ルク アクティブスキル:アタックコマンド、アクティブスキル:共鳴
サキ アクティブスキル:スピードコマンド、アクティブスキル:共鳴
リリ アクティブスキル:フィジカルブースト、アクティブスキル:共鳴
レンカ アクティブスキル:パワースイング、アクティブスキル:共鳴
「はっはっは!皆後でヴィカに教えてもらったスキル教え合うぞ!」
「!流石ルクねそうしましょ」
小声で笑い合うルク達。
「聞こえてるんですけど……注意しなくていいんですニャ?」
「まぁ、わかってた事だし良いさ。細かいことは気にすんな」
ヴィカは呆れつつも笑っていた。
念願の魔石と魔斧が手に入ったのだ。しかもあの圧倒的な破壊力を誇る魔斧だ!クゥゥ〜テンション上がるぜ!
(……そういえば聞き流しちまったが、『共鳴の魔導書』とか言ってたよな? あれって結構やばい代物じゃなかったっけか……?)
一瞬思考がよぎるも、ヴィカはすぐに首を振った。
(……まあいいか、黙っていれば)
魔法に関しては興味がない為ポンコツなヴィカであった。
ルク達がダンジョン水晶の機能で入り口に戻ると、ボロボロになった騎士や冒険者達が休息をとっているところだった。
「ハッ!そっちもなかなか過酷だったみてぇだな?第一騎士団団長様?」
疲れた様子で座り込み、ポーションを煽っている第一騎士団長へ、ヴィカがニヤリと笑って声をかける。
「フン、途中からミノタウロスまでモンスターパレードに加わったんだ、それもあんな上位種の赤いミノタウロスとの戦闘中にだ!見事なハズレくじを引かされたものだ、第二共」
…………バチバチっと目線がぶつかり合う。
「フン、まあいい。それより領主様がお呼びだ。報告に行くぞ」
「ちょ、ワタシはフラフラなんだが?」
「お互い様だ、早く歩け」
なんだかんだ喧嘩腰ながらも息の合った2人であった。
いがみ合いながら去っていく後ろ姿を見送りつつ、参加報酬や細かい雑事は後日になるだろうと案内役のニコに連れられ、それなりに質の良い宿へと通された。
そして――
「「「「いただきます!!!」」」」
そこからの『新魔団』の勢いは、すさまじかった。
小柄な体のどこに入るのかというほどの凄まじい量のご馳走を貪り食い。そして満腹になると、全員が糸が切れたように倒れ込んで泥のように眠ったのだった。
七階層でもかなりの死闘があったみたいです
共鳴の魔導書ではなく共鳴の書の間違いでした。
訂正しましたすいません。




