1章-17話 大雪でも遊びたい!
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キャリオンディア討伐の報告を受けるや否や、村人たちはすぐさま立ち上がった。
「よし! 山の魔物どもを一気に狩り尽くすぞ!」
腕自慢の男衆を中心に結成された討伐隊に、ルクたち三人もノリノリで参加する。
……そう、ただ「狩る」ことにおいてだけは大貢献だったのだ。
「【サーチ】! 獲物発見! サキ、リリ、行くぞぉぉ!」
「「おおーー!!」」
探知スキルで獲物の気配を察知するや一目散。仕留めては次の獲物へ疾走、という挙動を延々と繰り返した結果――。
「「「子どもたちが消えたぁぁぁ!?」」」
当然のように集団から大きくはぐれ、血相を変えた村人たちが山中を捜索する大事件に発展したというのはまた別のお話である……。
——————
そんな慌ただしい騒動から一週間が過ぎようとしていた、ある日のこと。
「雪だなぁ……思ったより降るんだな」
「そうね。あたしの村にいた頃は、降っても軽く積もるくらいだったのに。降り出して少ししか経ってないのに、もう足跡が残るわ」
「冬は食べ物が少なくなるから嫌いです……」
そうは言いつつも、降ってくる雪を喜んだ村の子供たちと雪合戦や木刀でのチャンバラに興じながら、三人は穏やかな日々を過ごしていた。
しかし、この日は違った……。
目を覚ましたルクがふと小屋の戸を開けようとすると、ずしりと重い手応えがあった。隙間から外を覗き込んだ三人は、一瞬で言葉を失う。
「「「…………うそん?」」」
なんと、大人の背丈を優に超える二メートルもの大雪が降り積もり、村全体をすっぽりと覆い尽くしていたのである。
(いやいやいや! こんなに雪って積もるものなのか!? 我が魔王城のあった場所など、雪が数ミリ降っただけで大騒ぎだったぞ? これまで街道沿いに人間の領土へ入ってきた時も、ここまでの惨状は見たことがない……これが『山の脅威』というヤツか……!)
大雪で閉ざされた扉を前に呆然とするルクの背後で、『スチャッ』と謎の音が響いた。
「……ん? 何の音……」
反射的に振り返ると、サキが真剣な面持ちで杖を構えているではないか!
「待てぇぇェイ! 杖を構えて何をしようとしているサキ!」
「何って、炎で雪を溶かすのよ! こんなの燃やせば一瞬じゃない!」
「こんな木造小屋で火魔法なんか使ってみろ、一瞬で燃え尽きるぞ我らが!!」
「えぇ〜、じゃあどうするのよ? ヒマじゃない!」
「どうするって…………一応小屋は補強してもらったし、お礼にっていっぱい布とか貰ったし服とか作ってればいいではないか(我は絶対しないが)。ほらリリをみろ!」
指し示した先では、リリが真剣な表情で布を木の枝にぐるぐる巻きにしていた。
「出来ました! 暇つぶしの室内チャンバラ用・当たっても痛くない布の剣です!」
「…………えぇ」
……一体何が「大丈夫」なのだろうか。この小屋は寝床と囲炉裏を含めて十畳ほどしかないというのに……。
(まずい……! このままでは外に出る前に家が倒壊する!)
「わかった、外に出ようそうしよう! 外で修行だ! いざゆかん雪の迷宮へ!」
二人が暴走する前に急いで扉を開けると、マイダンジョンへ雪を放り投げながら、洞窟のように雪壁を掘り進め始めた。
「サキ! 【サーチ】の魔法を使え、村の大広間へトンネルを繋げてみるぞ!」
「任せて! ……って、ちょっと待って。【サーチ】は魔物を見つける魔法よ? どうやって場所を探すのよ?」
「ハッハッハ! 魔法とは『想像力』だ! そういう用途の魔法だと決めつけるのはやめよ! やろうとすれば出来るのが魔法なのだ!」
「わー、パチパチパチ」
「リリ辞めなさい、甘やかさないの。いつもいつも思うけどアナタの魔法って時々おかしいと思ってたのよ! パッシブスキルのマッピングでいいわよね?」
「それじゃ修行にならんぞ。わかったちょっと見てろ」
【魔力回路接続】
「魔力の動きをよく見ておけ!」
【スペルマジック:サーチ——対象大広間!】
すると回路を通じてサキとリリの脳内に、雪に埋もれた大広間の正確な位置と距離が鮮明な映像となって映し出された。
「「わっ……!」」
「どうだ!我が直接魔法を本質を教えてやったのだもっと我を褒めよ!褒め称えよ!」
「はいはいすごい凄い。じゃ行くわよ!」
【アクティブスキル:パワーアップ】
サキは自信を強化するとスコップを振るうと。
「私にはちょっと難しかったですがルクは凄いです」
【アクティブスキル:スピードアップ】
リリも素早い手つきでサキの補助に入った。
(……おかしい。これは偉大な革命だぞ!? 昔、部下のエレメントリッチに教えた時は涙を流して大絶賛されたというのに、この扱いはなんだ……。こうなったら、雪掘りの速さで奴らを圧倒し、真の力を見せつけるしかあるまい!)
【スペルマジック:ロックドリル――を変形、装備! いくぞぉォォ!!】
【アクティブスキル旋回】
腕を巨大ドリルに変えたルクが、猛烈な回転音と共に雪を削り進んでいく!
「ちょっ!何よそれずるいじゃ無い――――――――」
叫び声が届くより早く、ルクの背中は雪のトンネルの奥深くへと消え去っていくのであった。
……消え去ってしまったとも言える。
そう、ルクは残してしまったのだ! 負けず嫌いのサキを。残されたサキの瞳に、静かなフッと妖しい炎が灯った。
(……やってやろうじゃないの)
「魔法は想像力、魔法は想像力。いくわよ!! リリ」
「……え??」
【ファイアーストーム! ——大広間に!】
その日、大爆発と共に大広間の雪が一瞬で消し飛んだ。
「もう一歩進むのが早ければ命はなかった」と、後にルクは語ることになる。
※余談だが、この村は商人たちの間で『薬草村』と呼ばれていた。高品質なポーションの原料が豊富に採れるためである。
最近は採取量が激減していたのだが、キャリオンディアが倒され、山を覆う大量の雪が毒を洗い流したことで、大地は少しずつ豊かな姿を取り戻しつつあった。
——ソルテジオ・アシュレイサイド——
ガタゴトと揺れる馬車の中。
アシュレイは窓の外を眺めながら、自身のステータスカードを指先で弄っていた。
「……ふぅ。なんとかDランクまでは上がったか」
「『なんとか』ではありませんよ、アシュレイ殿。まだ成年前の少年が、実質数ヶ月でFからDまで駆け上がるなど前代未聞です」
対面に座るイグリスが、呆れたようにため息をついた。
「今日もジャイアントバッターの群れを一人でほとんど片付けてしまいましたしね。……それにしても、よくご両親が旅の許可をくださったものです。普通なら絶対に反対されますよ」
「ははは……説得するのは本当に命がけだったよ……」
アシュレイは引きつった苦笑いを浮かべ、数日前のアシュレイ家でのやり取りを思い出していた。
(『もし旅を許してくれないなら、今後、効率的な新農業技術も、新しい娯楽も、画期的な料理レシピも、一切屋敷に提供しません!』って突っぱねたからなぁ……)
「『我が家の発展を盾に脅迫してくるとは……!』って、父さん本気で青ざめてたっけ……」
「アシュレイ殿、何か仰いましたか?」
「ううん、なんでもない! それよりヴァラレートまではあとどれくらい?」
「順調にいけば、途中の村を経由して二週間というところですね」
貿易都市ヴァラレート。アシュレイがそこを目指すのには理由があった。
(ヴァラレートには、どうしても将来の仲間に引き入れたい優秀な魔法使いがいる。……そして、もう一人)
(一刻も早く探し出し、育ち切ってしまう前に討伐しなければならない存在――『擬天使リリ』)
本来の歴史では、天使が邪悪な儀式を行っている最中に拾われたとされる少女。天使たちの強引な人体改造と、彼女自身が秘めていた圧倒的な才能が合わさることで、将来、天使の手先『絶対防御の閃光騎士』として俺たちの前に立ち塞がることになる強敵だ。
(確か、彼女が擬天使に仕立て上げられた直後、ヴァラレート付近でレベル上げを行っていたはず……)
「……よし。待ってろよ、ヴァラレート!」
「アシュレイ殿、急に気合を入れるのは結構ですが、まずはその疲れを癒やしてください。ヴァラレートに着くまでに、まだまだかかるのですら」
「わかってるよ、イグリス。ちょっと緊張してきただけさ」
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