1章-14.5話 ダンジョンから帰るまでが攻略です
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水晶を壊すと出てきた転移魔法陣により、ダンジョンの外へ転移した三人はそのまま草地の上をゴロゴロと転がっていた。
「あー……生きてる……。生きて帰ってこれたんだ……!」
「はい……。本当に、本当によかったです……!」
サキとリリは倒れこんだまま空を見上げ、生存を噛みしめながら何度も頷き合っていた。
「ふむ、二人ともずいぶんと誇らしげな顔をしているな」
「当たり前でしょ! 何度、本気でダメかと思ったか」
「私も、手が震えて剣を落としそうでした……。でも、ルクが『立ち上がれ』って言ってくれたから……」
サキは自分の手のひらを見つめ、握ったり開いたりしながらつぶやいた。
「ねぇ、ルク。あたしたち、前より強くなってるのよね? ボスを倒した瞬間、体がすごく熱くなって……凄く力が湧いてきたの」
「うむ。強敵を倒すとその魔素を吸収して強くなれるからな! サキもリリも間違いなく強くなっているぞ!」
「そっか……。うん、なら頑張ってよかったかも」
そんな二人の顔は、死の恐怖よりも自分たちの手で強敵を打ち破ったという確かな自信へと変わっていた。命がけの戦いを乗り越えたことで、確実に成長しているのだ。
「よし、ダンジョンは攻略したのだ。さっさと村に帰って村のみんなから褒められにいくぞ!!」
「……そんな褒めてくれるものかしら?」
「当たり前だろう! なんなら英雄扱いもあるかもしれん、もうそうなったら……ぐへへ!」
「……なんか今のルク、気持ち悪いです」
「……とにかくだ。帰って報告して肉祭りだ! 話はそれからだ」
「「おー!!」」
元気に走り出した三人はこうして堂々と村へと帰っていくのだった……。
「「「…………。」」」
……そうなるはずだった。理想は……。
「……ねぇ、ルク。村ってどっち?」
「うっ……」
そもそも、このダンジョンに来るときは濃い霧の中を勘だけで進んできた。その前のサキたちの村からここまでの道のりも、村人に案内してもらってきたのである。
ルクたちだけで、道を覚えているはずがないのだ!
……つまり、完全な迷子だった。
「……こうなったら勘だな!」
「絶対ダメなやつでしょそれ!?」
ルクはサキのツッコミをシカトして、「なんとなく近道っぽそう」という理由だけで目の前の険しい山へ突っ込んで行く!
(せっかくかっこよく決めたのに、道がわからないなど恥ずかしいではないか! とりあえず今は前を見るしかない!)
しかし、そんなルクは見落としていた。ここは先程までダンジョンがあった場所。
つまり……。山の中は魔物の巣窟だったという事を!
ガサガサと草むらが大きく揺れると、二メートルを超えるボーンウルフの群れが飛び出してきた。さらに奥から、木々をなぎ倒しながらデカいゾンビベアーがドシンドシンと地鳴りを立てて姿を現す。
「ええぇっ、なによこの数! 完全に取り囲まれてるじゃない!」
「ルク、どうしましょう……!?」
(あれぇ、なんだこの魔物の数は……。ハッ! そうか、先程まであったダンジョンの魔力で魔物が大量発生してるんだった……。うっかりうっかり)
迫りくる魔物の群れを前に、ルクは冷や汗を流しながらも慌ててニヤリと笑って見せた。いまさら「ごめんうっかりしてた」などとは言えない。……元魔王としてのプライドに賭けて。
「フ、ハーハッハッハ! 驚くなサキ、リリ。これも全て我の計算通りだ!」
「そんな事ある!?」
「えっ、そうなんですか!?」
「うむ。ダンジョンを制覇して強くなった我らの力を試す、絶好の機会というわけだ! ほらやるぞ、強くなった力を見せてみろ!」
「もうっ、やけくそよ!」
【ファイヤボール!】
サキがいつも通りの感覚で魔法を放つと、火の玉はこれまでより一回り大きく膨らみ、激しい衝撃と共にボーンウルフの群れを吹き飛ばした。
「きゃっ!? な、なに今の。魔法の威力が上がってる……!?」
「おぉー、じゃなくて……。ハーハッハッハ! これが強敵を倒して成長した成果だ。強敵を倒せば倒すほど、我らはいくらでも強くなれるのだぞ!」
「強敵を倒すと……こんなに……?」
「すごいですサキ姉! 次は私です」
「ウム! そこのゾンビベアーの攻撃を捌いて見せろ、今のリリならいけるはずだ!」
「はい!」
【アクティブスキル:スピードアップ】
リリが地を蹴ると、視界が後ろへ弾け飛ぶような感覚に襲われた。ダンジョン攻略前とは段違いの速度だ。
「速い……っ!?」
怒り狂ったゾンビベアーが腕を振り下ろす。だが、今の文脈ではその動きがまるでスローモーションのようにさえ見える。
リリは低く身を沈めて難なく攻撃をかわすと、ゾンビベアーの足へと剣を突き出す!
【アクティブスキル:スラスト!】
確実な手応えとともに丸太のような脚を鋭く貫かれ、ゾンビベアーが大きく体勢を崩す。そこへ!
「よし、そこだ! 我が一撃、受けてみよ!」
【スペルマジック:アイスランス!】
ズサリという凄まじい打撃音が山にこだまし、巨体がぐらりと傾いて地面に倒れ伏しそのままゾンビベアーは動かなくなった。
「どうだ見たか、これが強くなるという事だ!」
「すごいです……! 私の動き、本当に前と全然違いました!」
「強くなったのはわかったけど、わざわざ魔物に突っ込んでいく意味あったのかしら?」
文句を言いながらも、サキは自らの手元を見つめニヤついた顔で指先を握りしめる。リリもまた、己の成長に目を輝かせていた。
……命がけの死闘を乗り越えた達成感と、己の限界を突破して強くなる圧倒的な快感。この時、二人の少女の中に『強い敵を倒し、力を手に入れる喜び』という名の怪しい芽が、確かに芽生えたのだった。
「さぁ、どんどん倒して進むぞ。我らの成長の糧になってもらうのだ!」
「……しょうがないから、やってあげるわ! 私が先頭ね?」
「駄目ですよサキ姉。前衛は私なんですから」
「ハーハッハッハ! この世は弱肉強食。つまり早いものガチという事だ、トォー!」
「「ちょっと! 抜け駆けは禁止 (です)、ルクー!!」」
魔物を見つけたら率先して倒し、周囲に魔物の気配がないのなら探し回る。そんな魔物狩りをしながら山を突き進んでいくと、突如見覚えのある景色が目に入ってきた。
「……あれ? ルク、あそこって……」
「私たちの村です……!?」
なんと、狩りをしながら適当に突き進んだ山越えルートは、案内された道を歩くより圧倒的に早い『超・ショートカット』になってしまったのだ!
サキとリリは口をポカンと開けて固まり、ルクはここぞとばかりに腕を組み、胸を張ってドヤ顔を作った。
「ハーハッハッハ! 見たか、我の言った通り近道だったろ!」
「嘘でしょ……。もう着いたの……?」
「山を突っ切った方が、こんなに早く着くなんて……」
呆然と呟く二人だったが、この『山を突っ切ったら一瞬で着いた』という成功体験を得たことにより、三人は「何かあったら山を強行突破すればいい」という、極めて偏った知識を脳裏に刻み込んでしまうのだった。
こうして、ニヤニヤ顔を隠そうともしないルクを先頭に、三人は堂々と村の中へと足を踏み入れ、盛大な肉祭りを開催!
「おいおい! 本当に子ども三人でゴーストダンジョンを攻略したってのか!?」
「ウムウム、食え食え。今日は無礼講だ、我が許す!」
「ちょっとルク、いつも思うけど何でそんなに偉そうなのよ?」
歓声をあげる村人たちと、調子に乗って大人に頭を撫で回されて怒るルク。肉を口いっぱいに頬張るサキとリリは、大冒険を自慢しながら楽しそうに笑い声をあげ、香ばしい肉の匂いと温かな焚き火、そして賑やかな笑い声が静かな村の夜を満たしていく。
『元魔王』の手によって、本来なら命を落とすはずだったサキとリリ。そしてこの辺境の村の人々の運命までも確実に変わっていくのだった。
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