2章-72話 王立学園の腹黒教師②
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翌日。王立学園特別練習場にて。
会場内には、対照的な二つの陣営が並んでいた。
Bクラス選抜メンバーの十名は、完全に相手を見下した笑みを浮かべ小言を言う余裕すらある。
対するCクラス選抜メンバーの十名は、表情を硬くさせ、あまりの緊張で顔を青ざめさせていた。
「リンズ先生、本当に試合するんですか?」
「そうですわよ、正直お話にならないかと」
「それに見てください、Cクラスの杖を。何ですかあのヘンテコな杖は? 一応は魔物の素材を使ってはいるようですが」
高価な装飾が施された高級な魔法杖を自慢げに構え、Cクラスを嘲笑する。
山村育ちの落ちこぼれ共に負けることなど、天と地がひっくり返ってもあり得ないと信じて疑わないのだ。
「クックック、まぁそう言わないで下さい。」
ニヤニヤと歪んだ笑みが止まらないリンズが、嗜むように言葉を重ねた。
「これが彼らの学園生活最後の思い出になるのです。最後の引導を渡してあげるのも、同級生としての情けというものですよ」
「「『ハッハッハッハッハ!』」」
Bクラスの生徒とリンズは高らかに笑い声を上げながら、それぞれの定位置へとついていく。
一方、そんな嘲笑など耳に入っていないCクラスの面々は、円陣を組んで深刻な緊急作戦会議を開いていた。開く
「ど、どうしよう?本当に大丈夫かな?」
「でも、もしこれに負けたらルクさん達がまた鍛えてやるって………」
「……あの地獄をもう一度って事?」
生徒たちの脳裏に、あの悪夢のような野宿と絶叫の魔力制御訓練が駆け巡る。
「「「『……絶対に負けられない』」」」
彼らが青ざめて緊張していた理由は、Bクラスとの試合に対してではない。負けた後に待っている「新魔団による再特訓」という真の絶望に怯えていただけだったのだ。
ちなみに、彼らが手にしている歪な杖だが——。
まともな装備を持たない彼らのために、ルクがウルフの魔石を触媒に錬金術で急造した特製のものだった。
形状こそルクの個性が溢れすぎた結果、極めて独特(というか不気味)になってしまったが。
ルクの規格外の魔力が注ぎ込まれた一級品である。
錬金術スキルを手に入れて以来、毎日欠かさず遊戯感覚で錬成を重ねてきた成果が発揮されていた!
では、その元凶であるルク達はどこにいるのか……。
なんと、学園関係者ではないため練習場へ入ることができず、外で元気いっぱいに待機中である。
……あまりにも騒がしすぎて追い出された、というのが正しいのだが……。
それには決して触れてはいけないのだ!
「両者準備は良いですね?試合形式は10VS10の集団戦。使用可能武器は杖のみとなります」
リンズが練習場中央部に審判として立ち腕を上げる。
「では、試合開始!」
リンズの合図と共に、両陣営が攻撃魔法を展開する。
「力の差を思い知るがいい!」
【ファイアーボール】【ストーンショット】
【ウィンドカッター】【リーフカッター】
Bクラスが各々得意な攻撃魔法をCクラスに向け放つ。
Cクラスも覚悟を決め、応戦を開始する!
「やるしか無い、地獄の修行を思い出すんだ!」
【ファイアボール】【ストーンショット】
【ウィンドカッター】【プチショック】
魔法と魔法がぶつかり合い、激しい衝撃音が響き渡る。
「なに!? Cクラスのくせに生意気な!」
「少しはやるみたいね?」
得意な攻撃魔法を撃ち終わり、魔法のクールタイムを待つ間に一度陣形を整えようとするBクラス。
しかし——Cクラスは違った。
「くっ、まだまだぁぁ」
「撃って撃って、撃ちまくれー」
「負けたらまたあの地獄の特訓が待ってるんだ、まけてたまるかぁぁぁ」
「もうあんな地獄は嫌なんだぁぁー!」
【ファイアボール】【ストーンショット】
【ウィンドカッター】【プチショック】
絶え間なく、狂ったような連射速度で魔法の弾幕が打ち出される。
「なっ!? なんで連続で魔法が撃てるんだ!?」
「む、無理よ! そんなのぉぉぉ!」
ドドドドドドドッ!!
バッコォォォン!
「「「うわぁぁぁぁーーー!!!」」」
こうしてBクラス対Cクラスの対抗戦は、開始からわずか数十秒、あっけなさすぎる大圧勝で幕を下ろしたのだった。
……何故Cクラスだけが連続で魔法を撃てたのか?
答えは単純である。
ルク達の地獄の特訓で、魔力制御だけは異常なまでに鍛え上げられていた事により下級魔法程度ならクールタイムはほぼゼロとなっていたのだ!
なお本人達は、
『もし負けたら我らがまた鍛え直してやろう!』
というルク達の地獄の宣言が頭から離れず。
恐怖に突き動かされるまま、魔法を撃ち続けていただけなのであった。
リンズサイド
「はへぇ…………??」
余りの出来事に間抜けな声を出してしまう。
な、なななななんだあの魔力制御の練度は?
本当に入学してたの学生か?
高ランク冒険者が変化の魔道具で化けていたと言われた方が、まだ何百倍も納得できる。
……しかし、ここは王立学園。敷地内には強力な結界が張られており、変化の術など機能しないはずだ。
「ダンジョンに潜ってる間に一体なにがあったと言うんだ……」
いや、たった数日でこれほどの変化が起きるはずがない!
そうだ——あの杖だ!
あの妙な杖に、何か細工がされているに違いない!
あれほど歪な形状だ、何か特殊な仕掛けがあっても不思議ではない。おのれCクラスめ、負けたくないからと小細工を……。
リンズは確信したように前へ出ると、大きく声を張り上げた。
「この試合は向こう試合である! 杖に細工をするとは何足る暴挙か!」
「「『…………え!?』」」
リンズが声を上げた瞬間Cクラスはキョトンとする。
……確かルクさんは。
『個人の魔力を馴染ませておいたから、本人以外には使えない専用杖にしておいたぞ! あと物理で叩いても折れないように強度も限界まで上げておいた!』
と誇らしげにドヤ顔で言っていたはずだが。
…………小細工って何の事だろう?
Cクラスの面々は魔法道具の知識が乏しいため、「小細工」と言われても何一つピンとこなかった。
「その杖を寄越せ!」
「えっ……あっ、はぃ……どうぞ」
リンズが唖然としているジーヌの杖を強引に奪い取りると、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「フッ、これで証拠は掴んだも同然。この私が自ら悪事の証拠を暴いて見せよう!」
どれどれ、とリンズが杖を構え、己の魔力を勢いよく流し込むと!
【ガウゥゥゥゥッ!!】
「……は?」
杖の先端に埋め込まれていた魔石が、突如として狼の生首の形状へと変形し、遠吠えを上げた!
「な、何だこれは――」
【ガウガウガウッ!!】(ショックウェーブ)
ドゴォォォォン!!
「へ!!??——ぶべらぁぁぁぁぁっ!!?」
杖の先端から放たれた衝撃波がリンズの腹に直撃!
体をくの字に曲げ、まるでボールのようにぶっ飛び十数メートル先まで転がり壁に激突した
「り、リンズ先生ぇぇ!?」
気絶しかけているBクラスの生徒たちが悲鳴を上げて駆け寄ろうとする。
だが、ルク仕込みの盗難防止防犯トラップがこの程度で終わるはずもなかった!
「き、貴様ぁぁぁぁ!!」
怒り狂ったリンズが立ち上がったその時!
【ガウッ!!】
「……え?」
ガブッ!!
「いぎゃあああああああ!!」
杖の先端についていたウルフの顔が突然生き物のように動き、リンズの右手に噛み付いた。
「いだだだだだだだ!!離せぇぇぇ!!」
ぶんぶんと手を振り回すリンズ。
ルクが物理強度も限界まで上げたと言っていた特製の杖が、そんな素人の抵抗で振り払えるはずもない!
ガブッ!!
「ぎゃあっ!」
ガブッ!!ガブッ!!
「まだ噛むのかぁぁ!」
ガブッ!!ガブッ!!ガブッ!!
「ぬおおおおー!!??」
完全に犬のおもちゃ状態で弄ばれていた……。
必死に振り払おうと魔力を込めれば込めるほど、その魔力を吸収してトラップの噛み付き攻撃が強化される悪魔の仕様なのだ!
「せ、先生が杖に負けてる……」
「あの杖、結構ヤバいやつな気がしてきた……。」
Cクラスは若干引いていた。
それはやりすぎだよ……ルクさん。
ようやく噛み付きが収まり、ボロボロになったリンズは涙目になりながら肩で激しく息を吐く。
「ハァ……ハァ……これが証拠だ!危険な魔道具を……」
ジーヌがおずおずと手を挙げた。
「あのぉ……」
「なんだ!」
「それ、私専用なので……」
「何?……専用とはどう言う意味だ?」
「ルクさんが『本人以外が魔力流したら不審者だから迎撃するようにしておいた!』って言ってました……よ?」
「…………つまりどう言う事だ?」
「あの………先生がただ自爆しただけになります…………」
「ぶふぉぉぉぉぉぉぉ……」パタリ……。
精神の限界を迎えていたリンズに叩きつけられた、ジーヌの容赦のない事実。
その一言により、勝敗は完全に決したのであった!
その頃、練習場の外では——。
「……今、あのダメ教師の叫び声が聞こえたデス?」
(モグモグモグ)
「そうなの? あの杖、取り上げたのかしら?」
(モグモグモグモグモグ)
「ふむ……犬と言えば番犬だからな。ちょっとした防犯の面白要素を入れてみたんだが、駄目だったろうか?」
(モグモグモグモグモグモグモグ)
「まあ、魔法の杖に番犬要素はいらなかったと思いますけれど……」
(モグモグモグモグモグモグモグモグモグモグ)
「お前ら、まだ食うのか?……まぁいいけどよ」
原因である四人は、トウガイと共に焼き串を食べながら笑っていたのだった。




