2章-71話 王立学園の腹黒教師①
高評価等とても励みになります。
ありがとうございます。
もし良ければ高評価、グッドボタンよろしくお願いします
「ハァハァ、勝ちました……か?」
バタン、と盛大な音を立ててリリがその場に倒れ込んだ。
勝利を視認した瞬間、極限まで緊張していた糸が切れ、精霊憑依が強制解除されたのだ
ルナスィラの憑依は身体への負担が余りにも大きく、これが今のリリにとっての限界なのだった。
「やはりシャドーウルフは嫌いだな、逃げ足が速すぎる」
ポーションをリリに飲ませながらルクも闇の結界を解除する。
[……………………。]
闇の結界が消えると視界を覆っていた闇が晴れ、学生達は恐る恐る目を開き辺りを見渡した。
「……あれ?」
「終わった……の?」
先ほどまで自分たちを死の恐怖へと突き落としていた漆黒の魔獣の姿は、どこにもなかった。
あるのは焦げた大地と巨大なクレーターと、満面の笑みで
どこからか出した肉を焼こうとしている冒険者達の姿。
余りにも恐怖が強すぎて自分達が助かったという事実が、すぐには理解できなかった。
やがて、一人の少女が震える声を絞り出した。
「……た、助かった……の?」
その一言をきっかけに、張り詰めていた糸が切れた。
「うぅ……」
「生きてる……」
「うわ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ん゙……」
泣き出しその場に座り込む者。
互いの無事を確かめ合う者。
子供達は初めて経験した死への恐怖から解放され、安堵の涙を流すのであった。
その後。
感傷に浸っていた生徒たちを待っていたのは、元Aランク冒険者トウガイによる雷のような激怒だった。その説教たるや、まさに鬼の如し。
生徒たちは助けを求めてルクたちへ視線を送ったが、彼らは「肉うめぇー!」と騒ぎながら焼き肉パーティーに興じるばかりで全く頼りにならない。
結局、丸々一時間。正座をさせられた生徒たちは、トウガイのありがた〜いお説教を頭を下げて拝聴する羽目になったのだった。
説教を終え、「……俺も肉が食いたい」と呟いたトウガイがルクたちの元へ歩み寄る。
——が、何かがおかしい。
新魔団の四人は焼き肉の手を止め、リリが抱える小さな「何か」を囲んで屈み込んでいた。が?
「ぬぬぬぬぬ……!? 思ってたのと違う!」
「そうですね……でも、これはこれで……」
「小さすぎて乗れないわねぇ、これじゃあ」
「でも、とっても可愛いデス!」
そう——新魔団はついに、念願の『召喚魔法』を手に入れたのである!
シャドーウルフ討伐時のレアドロップ。それこそが『召喚魔法の書:ウルフ』であった。
入手した瞬間、彼らは躊躇なく全員で魔法を修得!
自分たちが倒したのだから、ドロップ品は全て自分達のものなのである。
ちなみに他のドロップは、魔石、シャドーウルフの毛皮、そして『速』のステータス1アップの書だった。
「おいおい……その子犬は一体なんだ?」
「おっ、トウガイ!肉食うか? 食え食え!」
「召喚魔法の書が落ちたので、さっそく全員で覚えてみたのですが……」
「なんで子犬しか出ないのよ! 私達はかっこいいウルフに乗って戦いたいの!」
「育てないとダメなんデスかね??」
トウガイは呆れ混じりに溜息をついた。
「召喚魔法の書かあたりだぞそれは、未使用なら確か金貨100枚で売れたはずだ。一回使用でも50枚で売れる、良かったな」
「…………我ら新魔団は4人だからな!」
「勿論全員で覚えたわ!当たり前でしょ?」
「……………………そうか」
「パーティ内で誰か一人が使えれば十分では?」という正論が喉まで出かかったが、トウガイは必死にそれを呑み込んだ。
余計な口出しは災いをもたらす——長年の冒険者生活で培った直感がそう告げていた。た。
「確か召喚魔法ってのは、使い込むことで熟練度が上がり、召喚獣が成長していく術式だったはずだ。最初は子犬でも、育てりゃデカくなるだろ。俺も専門外だから詳しくは知らんが」
「そういう物なんですね?」
「そうか、我がポッチーに乗れる日はまだという事か……」
「ルクはもう少しネーミングセンス磨いた方がいいデス?」
「ほら!レンカにも言われたわよ?」
「キャン!」
リリの腕の中で、手のひらサイズの子犬が元気いっぱいに尻尾を振る。
『………………』
「キャンキャン! ハッハッハ!」ブンブンブン!!
『……まあ、可愛いからヨシ!!』
新魔団は学生達が肉を食べてる間、ひたすら子犬と戯れ合うのであった。
ベビーウルフ(レベル0)
ステータス
体力5 魔力2 力3 守1 速3 技1 召1 (召喚可能時間1h。クールタイム1h)
[育て方次第で各上位ウルフへ進化可能]
腹を満たし、落ち着きを取り戻した生徒たちを連れ、一行はダンジョンの最奥にある「水晶部屋」へと足を踏み入れた。
「「「おお〜!」」」
「ここがダンジョンの水晶部屋なんですね」
「青白くて綺麗ですね」
初めてのダンジョン深淵部に目を輝かせる子供達。
今回のボス戦は「たまたま」隠し条件を満たして上位個体が出現してしまっただけで、本来のボスであれば彼らだけでも十分に戦えるレベルまで成長していた。極めて実りのある攻略だったと言える。
「そういえば、ダンジョンボスの撃破報酬を一つ持ち帰らないと、正式な攻略扱いにはならないんだったな」
「そうでしたね。シャドーウルフの魔石でも大丈夫でしょうか?」
ルクが不意に思い出したように呟くと、タウはおそるおそる手を挙げた。
「あの……多分大丈夫だと思いますが、本当に僕たちが貰ってしまって良いんでしょうか? 僕たち、足手まといにしかなれなかったのに……」
「構わんさ。そもそも入学したての平民生徒だけでダンジョンを攻略させようとする学園側の意図がおかしいんだ。遠慮なく持っていけ」
トウガイの言葉に嘘はない。実際、AクラスもBクラスも、ボスを倒したのは裏で雇っていた高ランク冒険者たちなのだ。Cクラスだけが真面目に挑む必要などどこにもない。
「じゃあさっさと帰るわよ!」
「デス! これから子犬達のレベリングが待ってるデス!」
学園管理レベル1ダンジョン攻略特典
ステータスがランダムで5アップ
特別ポイント+1get
攻略特典を手に入れると水晶が光だし、周囲が光で包まれる。
次に目を開けるとそこはダンジョンの入り口で。
「やっと帰ってこれた!」
「疲れた〜!」
安堵の表情を浮かべる生徒たち。
だが、その和やかな空気を破るように、重く不快な足音が近づいてきた。学園側の責任者として待機していた男——貴族至上主義者の教師・リンズである。
貴族主義者のリンズが腕を組み、冷ややかな目でCクラスを見下すと
「フン……無事に帰ってきましたか。定期報告では三時間ほど前にボス部屋へ突入すると聞いていましたが、随分と時間がかかったようですね? 不手際で足踏みでもしていたのですか?
「……何と言おうとクリアはクリアだ。何か問題でも?」
貴族嫌いのトウガイがそんなリンズに近づきメンチを切る
何なら剣に手をかけているレベルである!
「問題?……フゥ。これだから単細胞は困る」
「何だと?」
「Cクラスが存続されては困るんですよ、王立学園は魔法使い育成の学園であると共に王国の将来を担う貴族学園でもあるのです。」
チャキっもメガネを手で上に上げ学生達を睨みつけると
「よって、ここであなた達には退学になってもらいます」
「ふざけるな!命懸けでダンジョンをクリアしてきたんだぞ!お前ら学園の決めたルールでな!」
トウガイの怒号にも、リンズは鼻で笑うだけだった。
「命がけ?……フン、滑稽ですね。平民の分際で貴族と肩を並べられるなどと、夢を見てもらっては困るのです」
生徒たちが悔しそうに拳を握りしめる。
「そんなのってあんまりじゃないか!」
「そうだ!ちゃんと学園長からの推薦状だってあるんだ」
「フン、このまま退学では納得できないのはわかっています……」
リンズは学生達の反論を待っていましたとばかりに口元を歪めた。
「ならば、こうしましょう! 我がBクラスと、あなた方Cクラスで『模擬戦』を行いなさい」
「模擬戦だと?」
「ええ。もし万が一、Cクラスが勝利するような奇跡が起きれば——」
リンズは自身の胸に誇らしげに手を当て、言い放った。
「私は潔く、教師を辞職いたしましょう!」
ザワッ……と周囲が騒然となる。トウガイも目を見開いた。
「ただし!Bクラスが勝てばCクラスは即刻解散!」
リンズは、先ほどから野良犬(召喚獣)とイチャイチャ戯れていて一切話を聞いていないルクたちをビシッと指差した。
「そちらの部外者である冒険者四人にも、責任を取って王都から永久に追放されていただきます! どうです? これなら文句はないでしょう!」
リンズの顔には、完全な勝利の確信が浮かんでいた。
Bクラスの生徒たちは、下級貴族や名門商会の令息・令嬢たちだ。幼少期から英才教育を受け、学園でも最高の設備で洗練されたカリキュラムを履修している。
対するCクラスは、地方の農村育ちでまともな魔法教育すら受けていない落ちこぼれの集まり。勝負になるはずがない。本来であれば。
だからこそ、自ら教師生命を賭けることに一切の迷いはなかった。
「……ほお?……いいだろう」
トウガイがニヤリと笑う。
「その勝負、受けてやる。」
……トウガイは知っていた、Cクラスの学生が受けた魔改造に近い地獄の訓練を……。
「フフ、後悔なさらないことですね」
そんな裏事情など露知らず、リンズもまた不敵に笑い返すのだった。
かくして、魔法省をも震撼させる魔改造を施された『Cクラス』対、世間の常識の中に生きるエリート『Bクラス』の、あまりにも歪な対抗戦が決定してしまった。
——もっとも。
「……ん? なんか今、後ろで俺たちの名前呼ばれなかったか?」
「ワフワフ!キャンキャン」(魔力注がれるの気持ちい!)
「さぁ? そんな事より早く魔法を使えるようになるのよ!ファイ!」
「ギャフ!?」(スパルタすぎる〜)
「やはりウルフは真っ白な翼を生やして空を飛ぶのです!さぁ一緒に頑張りましょう」
「ク、クゥゥン」(ペガサスと勘違いしてませんか?)
「速さこそが最強デス!走って走って走りまくるデス!」
「わん!わんわん!!」(追いかけっこ!)
当のルクたちは、自分たちの追放がかかっていることなど微塵も気に留めず、召喚可能時間の限界まで子犬たちと全力で戯れ続けるのだった。




