2章-65話 王都でケーキが食べたい!
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ルク達が肉パーティーを開催した翌日。
タウ達は困り果てていた……。
学園へ入学したばかりだというのに、今月中に学園が管理するレベル1ダンジョンを攻略できなければ退学。
そんな無慈悲な条件を、貴族主義の教師から突き付けられてしまったのだ……。
雇える冒険者は1パーティのみ
レベル1とは言え1パーティでダンジョンを攻略できるのは最低でもBランク以上……。
しかも学生は必ず10名は参加しないといけないため、護衛も兼ねるとなるとAランク以上じゃないと無理だろう……。
しかし、村育ちが殆どのタウ達のクラスにそんな高ランク冒険者を雇えるお金もなく、そもそも人脈も無い為たとえお金が何とかなったとしても無理なのだ……。
「どうしよう……なにか良い考え、ある? ジーヌ」
鳩獣人のハーフであるタウは、縋るような眼差しでクラスメイトの少女に問いかけた。
問われたジーヌは、考え込むように腕を組む。
「うーん。ここに来る時にノクトさんっていう冒険者から聞いたんだけど、旧市街地って場所に元Aランクの冒険者がいるって話だよ?」
「え!?Aランクだって!凄いじゃ無いか?何でそんな人が旧市街地に?」
「さあ……。ノクトさんの話だと、昔はすごく活躍してた人なんだけど、ある日を境に急に姿を消して、それからは良くない噂ばかり聞くようになったんだって。」
「よく無い噂かぁ〜。でもこのまま何もしなかったら退学だしいくだけ行ってみる?」
正直に言うと怖い……。
けど、このまま退学になって村の期待に応えられない方がタウ達にとってはもっと怖かった……。
「…………う〜ん、少し怖いけど。そうだね!行ってみよ!」
こうしてタウ達は、わずかな希望を胸に旧市街地へ向かうことを決めたのであった。
————————
場所は変わって王都商人ギルドにて
ルク達は孤児の子供達数人と、念の為という事でトウガイも連れて商人ギルドへ訪れていた!
本当ならば、何よりも先に甘く芳醇なショートケーキを頬張りたかったルクたちである。
しかし、トウガイの「まずは手続きを済ませろ」という小うるさい催促に押し切られ、不本意ながらギルド登録を優先させられたのだ。
ケーキを後回しにされるという屈辱!!ルクたちの機嫌は、かなり悪かった。
ギルドの登録自体は、Sランク冒険者『白銀の守護』から拝借してきた(実質的にはかすめ取ってきた)手形を見せつけることで、あっさりと完了した。
問題は、その後の換金カウンターにあった……。
「まずはこれだな……このくらいは換金しておくか!」
ゴトッと大きな音を立て大量のサハギンやグリフォンの魔石を、放り投げるように置いた。
これでも手持ちの在庫の十分の一程度だったりする。
今まで換金という行為を一度もしてこなかったため、溜まりに溜まっていたのだ。
「……えっ?」
新人受付嬢は、カウンターを埋め尽くす高ランクの魔石を前にして思考が止まった。
しかし!!
例え受付嬢が涙目になっていようと、ルクたちの暴走は止まらない。
頭の中はすでにショートケーキのことで一杯なのだ。
「あとは〜、これもこんなにいらないよな?」
ノクトと共に採取した強力な鎮静効果を持つ貴重薬草や、薬草村で採取したハイポーションの原草が、ドサドサと積まれていく。
「……ちょっ、ちょっと待っ――」
「そういえば、これもあったな」
貿易都市ヴァラレートで買取を拒否された、ミスリルのインゴットをゴトゴトと適当な数置いていく。
「……グスッ」
遂に涙を流し始めた、た新人受付嬢の顔すら見ることもなくとどめを指す!
「これも分配で手に入れたが我らには要らんな!」
ドスン!と置かれたのは、精霊ダンジョンで入手した刀身炎を噴き上げる本物の『火の魔剣』であった。
………………………………。
完全に受付嬢はオーバーヒートした。
「早く換金を頼もうか!換金する場所だろう?ここは!」
「そうよ!私達には(ショートケーキを食べる)大事な使命があるのよ!」
「そ、そんな事言われましても〜こんなの私の一存では無理ですぅぅぅ〜!!部長ーーー!!!」
そんな事を言いながら受付嬢は奥へと走り去っていくのであった……。
その騒ぎは、瞬く間にギルド内に伝播する。
「おい、何事だ? また貴族様の揉め事か?」
「うちの新人を泣かせた不届き者はどこのどいつだ!」
野次馬と危機感を煽られた職員たちが集まってきた。
だが、カウンターの上に無造作に転がされた品々を目にした瞬間、全員がフリーズする。
「…………は?」
「み、ミスリル……?」
「いや待て、この薬草……嘘だろ、ハイポーションの原草じゃないか……」
「しかも、保存状態が完璧すぎるぞ……」
「この剣……おい、本物の魔剣だぞ!? オイオイオイ!!」
それもそのはず、ルクたちはさっき商人ギルドに登録したばかりのペーペーなのだ。
しかも冒険者ギルドのランクにいたっては、Cランクに上がったばかり。
現在、商人ギルドは大量のリバーシ盤の発注に対応するため、深刻な人手不足に陥っている。
これ以上の混乱は、勘弁してほしいのが本音だった。
そこへ、奥から50代ほどのベテラン男性である商人ギルドの部長が姿を現した。
「騒々しいぞ。一体何が――」
職員の隙間からカウンターを覗き込んだ瞬間。
「…………オッフ!?」
部長の思考は完璧に停止した。
本当は、商人ギルドを舐めるなと怒鳴りつけてやるつもりだったのだが!
目の前の宝の山に完全に顔つきが変わっていく……。
…………。
ゴホン……!
スゥー、ハァー、と深く深呼吸をしプロ営業スマイルを浮かべる部長。
「応接室へご案内しろ。……君たち、いえ、お客様。少々お時間をよろしいですかな?」
部長は営業スマイルの手本のような満面の笑みを浮かべ、恭しく一礼した。
しかし……。
王都商業ギルドを束ねる彼の笑顔を持ってしても、ルクたちには届かなかった。
「……えー?」
「ショートケーキ食べに行きたい」
「もうお腹空いたデス」
「帰ってもいい?」
その一言を聞いた瞬間、部長の脳細胞が超高速で回転を始める!
(か、帰る!? 帰ると言ったのか、この者たちは……!? もしや、我がギルドの不手際でお客様の機嫌を損ねてしまったのか!?)
半分は正解で、半分は間違いである。ルク達はただ、ケーキが食べたいだけなのだ。
部長はカウンターの品々に素早く視線を走らせ、脳内で瞬時に見積もりを叩き出す。
最高品質の魔石。幻の薬草。極上のミスリル。そして魔剣!!どれもが一級品であり、普通の商人なら一つ売買するだけでも数日はかけて交渉する代物のはず。
だが、この子供たちは違う!
『要らない』『邪魔だから売る』『今日はこのくらいでいいか』。
まるで畑で採れすぎた大根でも並べるかのような気軽さで、国を揺るがす財宝を処分しようとしているのだ。
部長の額を、冷や汗が流れ落ちた……。
(値段を聞かない……鑑定も求めない……一切の交渉をしようとしない……! つまりこの者たちは、自らが持つ商品の価値をまったく理解していない……!!)
その瞬間、部長の脳内で最大級の警鐘が鳴り響いた。
危険だ!!危険すぎるぞ!!
(このまま帰せば、間違いなく他所へ持ち込まれる! ライバル商会、王家、あるいはどこぞの貴族どもに……! )
(一度でも他所に目を付けられれば、我が商人ギルドでこの利益を独占することは二度とできなくなる! こんな歩く巨大金鉱脈のような上客、一生に一度出会えるかどうかだぞ!!)
(…………フッ、フハッハッハ!
何がリバーシ盤で忙しいだ!そんな物一度発注してしまえば後は工房任せではないか!)
(そんな事よりもこのお客様達だ!!
営業スマイルを崩さぬまま、心の中で絶叫する部長。
絶対に、絶対に逃がすな――!!!)
そんなこっちゃ知ったことではないルク達は、時間が掛かるならまずはケーキだな!と頷きあうと……。
「帰ってもいい?」
とカウンターに置かれた品物を片付けようとする。
それを見た部長は、ついに耐えきれず絶叫した。
「総員ッ!!」
「は、はいぃ!?」
「このお客様方を、絶対に帰してはならん!! 最高級の紅茶を淹れろ、菓子は何がある!?」
「ク、クッキーならあります!」
「違うッ!!ケーーーーーーキだぁぁぁぁぁ!!!今すぐショートケーキを今すぐ買ってこい!!」
「ど、どこのお店ですか!?」
「一番美味い店だ!! 値段は問わん、ありったけ買い占めてこーーーい!!!」
『ケーキ!!??』
こうしてルク達は無事に?
応接室へとご案内されるのであった!
————————
因みにタウ達はと言うと……。
旧市街地にて
「え?今トウガイさん出かけけていないの?」
「あぁ、商人ギルドって何処に言ってるぜ。それより兎肉食うか?全部置いて行きやがってこのままじゃ腐らせちまう……」
「え、えぇっと。……はい頂きます」
切迫した思いでやってきたはずのタウ達だったが、気づけば木彫りの器いっぱいに盛られた絶品兎肉スープを渡されていた。
「え、えぇっと……あ、美味い……」
「なにこれ凄く美味しい……(モグモグ)」
目的も忘れて夢中でスープを頬張りながら、トウガイの帰りを待つのだった。




