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医女遊記伝奇  作者: Helen
16/19

第十六回:仄南


仄南は案机に肘をつき、指先で眉間をゆっくりと揉んだ。目を細め、その表情には隠しきれない疲労の色が滲んでいた。


卓の上には終わりの見えない案状が広げられている。視線は整然と並ぶ文字の列を辿りながら、御史中丞の屋敷における事件の記録を読み進めていた。


そこには何もかもが明確に記されていた。検証の状況、被害者の容態、物証、そして無数の細かい詳細。


しかし大理寺丞が本当に目を留めていたのは、供状と名単の部分だった。


太医令が毒性と犯行手口について述べた証言には、さほど気を払わなかった。太医院の長たる者、その知識は常人を遥かに超えており、説明に誤りがあるとは考えにくい。


ただ……


名単の下の方——中毒が発覚した際に現場にいた全員の氏名と職務が記された欄に。


一つの名前が、彼の目を止めた。


孔雀。


彼は黙ってもう一度読み返した。見間違いではないと確かめるように。


孔雀……


なぜ彼女が御史の屋敷に現れたのか。誰が彼女をそこに連れ込んだのか。


記憶の中に、白髪の少女の姿がありありと浮かび上がった——臆する素振りも見せず、金吾衛大将軍の前に立ち、ほとんど無邪気とも言えるほどの自信で推論を展開していた、あの少女が。


あのような人物が。


公堂の真っ只中で堂々と反論を述べるほど肝の据わった者が。


果たして単なる「助力」の役割だけに留まるものだろうか。


しかも御史台は長安北部の皇城内にある。御史中丞の官邸は坊の中にあり、その屋敷は皇城南門のほど近くだ。使用人が馬を飛ばして急報を届けたとしても、少なくとも一刻半はかかる。知らせが届いたのはすでに巳の刻だったはずだ。


それなのに記録には、中毒が発覚したのは卯の刻、午前五時過ぎと明記されている。


そして孔雀が屋敷に入ったのは辰の刻、八時過ぎ——楊太医丞の推薦によるものと記されていた。


注目すべきは、彼女が屋敷に入ってから二刻も経たないうちに、犯行の手口が解明されたという点だ。


では、それ以前はどうだったのか。まさか彼女が来て初めて手がかりが見つかったということなのか。


「それ以上に……」


コン。


その音が思考の流れを断ち切った。


仄南はぼんやりと顔を上げた。まだ解けぬ疑問の渦の中に意識を引っ張られながら。


入ってきた人物は淡い紅色の袍を羽織り、腰には銀の魚袋を下げ、足取りはゆったりとしていた。知命の年を過ぎた顔立ちながら、その風格は衰えるどころか、さらに落ち着きを増していた。

大理寺少卿。


従四品上の位にあり、大理寺卿の下、大理寺の副長官を務める。各官署には通常二名の少卿が置かれ、案件が上位に上申される前の最終審査を担い、もし誤りが発見されれば、寺丞の判断を直接覆す権限さえ持っている。


このような人物が、わけもなく現れるはずがない。


仄南はただちに立ち上がり、両手を合わせて深く礼をした。

「少卿大人がお越しになりました。」


「礼には及ばない。」少卿が言った。


仄南はようやく頭を上げ、真っ直ぐに立つことを許された。心の中では戸惑いを隠せない——いったいどれほど重大なことがあれば、少卿自ら一介の大理寺丞の部屋まで足を運ぶのか。


少卿は敷き詰められた敷物の上を歩み、座榻へと向かった。


座榻は後方の壁際、おおむね北向きに据えられている——「山を背に立つ」配置で、座る者に重厚で威厳ある印象を与える。後ろには山水を描いた屏風が立てかけられ、装飾を兼ねながら風を遮り、空間を仕切って、必要な風格を保っている。


寺丞は慌てて案机の上に散らばっていた書物を片付け、きちんとした場所を空けた。


少卿は何も言わず、悠然と正中の席に腰を下ろした。


寺丞はすぐに脇に退き、榻の隅に座る位置を選んだ。身をやや低め、適切な間隔を保ちながら——一挙一動に恭しさが滲んでいた。


「少卿大人がお越しになるとは思っておらず、茶の用意も満足にできておりませんで、まことに失礼いたしました。」


言い終えると、外に向かって声を張り上げた。


「早く茶を用意して持ってまいれ、手間取るな!」


外からすぐに返事が来た。


「かしこまりました!」


大理寺丞はようやく少卿の方へと向き直った。


「少卿大人が直々にお越しくださいましたこと、必ずや重大なご用件があろうかと存じます。いったいいかなる子細にて、こちらへお越しになられましたか。」


「御史大夫が昨日の午後ずっと余に詰問してきてな、その言葉もなかなか聞き苦しいものだった。御史中丞の屋敷から使い走りが御史台まで馬を飛ばしてきて、主人が毒を盛られたと報告してきたのだ。」


仄南は眉を顰めた。まだその言葉の意味するところを十分に汲み取りきれていないようだった。


「下官の理解が及ばず恐れ入ります。少卿大人にご教示いただけますでしょうか。この件に何か問題がございますか。現在もまだ下官が調査を進めております。」


「問題?あの老狐めが、言葉を曲げながら遠回しに仄めかしてきた——大理寺の者が手を貸したのではないか、以前の件への報復を機に乗じたのではないかと。」


少卿は真っ直ぐ仄南を見た。


「金吾衛大将軍の案件をどう処理したか、自分自身がよく分かっておるだろう。彼らは無実の者に冤罪を着せ、人を取り違えたと言っている。それどころか、子どもが自ら無実を証明するはめになった——本来そなたが果たすべき責任を、外の者に曝け出させることになったのだ。


その件はすでに御史台に記録されている。今彼らはそれを口実に、我らが怨みを抱いているゆえ報復を企てたと言い立てているのだ。」


少卿大人が「そなた」と呼ぶのは、罪を問うているということか。

「前回の件については、下官が確かに不手際でございました。大人の寛大なご処置をお願いいたします。」


「あの老狐は正面切っては言わぬが、言葉の裏に込められた意はこの余が理解できないと思うか。


被害者は御史台の者だ、ゆえに大理寺に対して早期解決を迫ってきている——『名誉を雪ぐ』、『威権に挑んだ者を成敗する』という名目のもとに……」


冷ややかに鼻を鳴らした。軽蔑の色が滲んでいた。


「しかし結局のところ、他人に都合の悪いものを掘り起こされることを恐れているに過ぎない。」


仄南は黙っていた。


官場において、そのようなことはさして珍しくもない。


大理寺が案件を調査するとなれば、まず容疑者のリストを作り、被害者のあらゆる人間関係、つながりを一つ一つ辿っていかなければならない。


一度家柄、財産、交友関係にまで調査が及べば、脱税、私的な使用人の囲い込み、俸禄の横領といった問題が表面に浮かび上がることも珍しくない。


それは避けられない手続きだ。


御史台は名目上、公正を保つために監察を行う機関だが、火の傍に立つ者が手を焦がさないでいられるか。上は体裁を保とうと躍起になり、下は互いを踏み台にして出世の機会を狙っている。


表向きは同じ朝廷で臣下として額を垂れて職務を果たしているが、その腹の底は誰にも分からない。


「考えてもみよ……後ろ暗いところがなければ、なぜわざわざ余を訪ねてくる必要がある?」少卿が問いかけた。


「下官には推し量る身分もございませんが、直々にお越しになるとは、確かに相当な急ぎようでございます。」


言い終えるや、小僧が茶盆を持って入ってきた。

部屋の端に控え、頭を深く垂れて直視せず、両手で盆を眉の高さまで掲げた——「案を挙げて眉に斉しくする」という礼の作法通りの、整然とした所作だ。それからそっと茶碗を案机の上に置いた。


その間、二人はともに暗黙の了解で、途中だった話をいったん止めた。


小僧が退出し、扉がそっと閉まった。


少卿は茶碗を手に取り、ひと口啜ってから、静かに置いた。

「この余も今以上に警戒を怠らぬようにせねばならぬようだ。あの者は狡猾で腹が深い、次に何を仕掛けてくるか知れたものではない。」


朝廷において、誰もが知っていながら誰も口にしない事柄がある。


大理寺ならばなおのこと、それをよく弁えている。


御史台の長たる者、表向きは厳正を保っているように見えるが、その陰では腹の底が読めない謀略家として知られており、幾重もの計を巡らす人物として名が通っている。


もちろん、人材を見抜く眼力があることも否定はできない。

ただ……


その人材とやらも、つまるところ彼の掌の上の駒に過ぎないということが、問題なのだ。


そこまで考えたところで、仄南の頭の中に孔雀の顔が浮かんだ。

あの娘は確かに聡明で、機転が利く。一度会っただけとはいえ、残した印象は決して浅くはなかった。


あれほどの人物が、自分が目をつけられやすい立場にあることを知らないはずがない。


前回は、己の潔白を証明するために仕方なく出てきたと言えた。しかし今回は楊太医丞の推薦を受けて自ら入ったというのか。


彼女の背後に糸を引く者がいるのか。それとも何か別の思惑があるのか。


立て続けに二つの大きな案件に顔を出しているとは……

このまま続けば、先祖代々まで掘り起こされ、数えきれないほどの敵対者を招き寄せることになるというのに。


「あちらの屋敷に人を遣わして、改めて審問させるべきだな。」

「下官が——」仄南はほとんど反射的に声を上げた。


「ならぬ。」


少卿が遮った。


「今回は粛大理寺丞を行かせる。」


仄南は言葉に詰まった。


……終わった。


自分であれば、少なくとも多少の融通を利かせ、言葉をうまく取り回すこともできる。


だが粛游となれば話が違う。


あの男は仕事が融通の利かぬほど堅く、直球で詰問することに慣れている。一度口を開けば誰にも容赦しない。


あの娘がどうか冷静さを保って、言葉の罠に追い詰められて口を滑らせないでいてくれるように。運が良ければ、専門的な知識のある者が傍についていて、言葉の遣り取りを支えてくれるかもしれないが……

医女の旅は、ようやく一歩を踏み出したところです。皆様の応援こそが、この物語を完成させるための大切な力となります。ぜひブックマークやコメントで、執筆への活力を分けていただければ幸いです。最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

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