4話
キスは思ったよりも長く続いた。
「碧李、慣れてないんじゃないか?」
「うるさい。 慣れてなくても平気だし。
キスに慣れも不慣れもないし」
「あるかもしれねぇだろ? 人によっちゃあるって!」
いつものように話せている自分がすごいように感じてしまう。
不慣れって言われたら何も言い返せないけど、
僕にだって意地ってもんがあるんだ。
だからいいでしょ?
(絶対にお前よりも慣れてやる!)
慣れてはいけない気もするけれど……
「そういえば、彼女と別れてもいないのに、キスしたね?」
「あー…… 怒ってるか?」
「どうだろうね?」
口ではそう言っておきながら、内心では怒っていた。
好きだとは言ったけれど、キスしていいとは言っていない。
受け入れはしたけれど、ね。
(別れてからなら、いくらでもしてあげるのに)
こんなことを思っている自分に寒気がする。
「今すぐ別れると言うのなら、許してあげなくもない」
「今すぐかぁ…… って言っても、
すぐに別れられない理由があるんだよなぁ」
すぐに別れられない理由? そんなこと僕が構うわけがない。
自分で言うのもあれだけど、結城よりも性格が悪いかも知れない。
「どうして?」
「契約で付き合ってる。 携帯に2年契約とかあるように、
俺たちの契約がある。 期限は残り半年。
俺が契約で付き合ってもいいっていたから。
告ってきたのは相手からだけど」
契約…… そんなので付き合うなんてありえない。
女の方は誰でもよかったんだ。 相手の気持ちなんか蚊帳の外で。
「そんなので、幸せ? 楽しかった? 好きでもない相手と、
キスとかしたんでしょう? 僕には絶対にできないや」
冷徹過ぎるような気がしたけれど、構ってなんかいられない。
いろんな人とキスしたり、体を重ねあうなんて、信じられない。
けど、それが世の中の常っていうものなんだろう。
「でも、俺は碧李しか好きになれない。 これから先は。
今までは違ったけど…… 好きでもない奴らと
色々としたけど、結局は別れた。 それじゃだめか?」
なんで聞いてくるのかな?
僕は別にそこは気にはしない。
いや、気にしない振りをしているだけかもしれない。
相手の過去に興味なんて持ちたくない。
……そんなこと無理だけれど。
「別にいいよ。 残り半年なら、僕たちはまだ付き合うべきじゃない。
半年後にまた言ってよ、好きだって。
気持ちが変わっていないのならね。 そしたら、付き合ってあげる」
それで、十分だと思うから。 それまでは我慢するから。
待ってる、そのときまで。 だから、後半年今の彼女を
大切にしてあげて?
そんな気持ちを僕の表情から読み取ったのか、
結城はわかった、っと言った。
「僕部屋に戻るね。 何かあったら呼んでくれたら来るし」
「ああ。 さっきの言葉、忘れんなよ?」
「わかってる」
未来のことなんてわからない。
だから、僕はこれからの半年を願う。
結城が好きでいてくれますように、と。
あれから半年が経った。
正確には、あと数時間で半年経ったことになる。
僕は今でも結城が好きだ。 気持ちは変わっていない。
コンコン、っと部屋のドアがノックされた。
「碧李、入るぞ?」
返事を聞く前に中に入ってきた。
「返事してないけど?」
「聞かなくてもいいだろ、兄弟なんだし」
兄弟…… 久しぶりに聞くフレーズのような気がする。
あのことについて、言いに来たんだろうか?
それなら、明日でもいいはず。
彼女と正式に別れてからなら、何でもなくなるのだから。
「半年前の言葉、覚えてるか?」
やはり、あの話だった。
忘れるわけもないのに、わかってて聞いてくる。
「覚えてるよ。 半年後でもまだ僕のことが好きならば、
付き合ってもいいよ?って言った」
「ああ。 だから言いにきた」
「まだその日じゃないよ。 あと3時間残ってる」
これは単なるいいわけに過ぎない。
本当は聞きたくないのかもしれない。
でも、聞かなければならない。
それで、僕の気持ちとも決着をつけるんだ。
「じゃあ、ここで3時間過ごす。 いいだろ?」
「いいよ。 ただし、ちゃんと彼女と別れたかどうか、
確認できるようにして。 それが条件」
「わかった」
そのあとは無言だった。
どちらとも何も話さず、各々がしたいことをしている。
僕は読みかけの本を読み、結城は携帯を弄っている。
このまま沈黙が続くのかと思ったら、少し苦しい気持ちになる。
ふと気がつけば、あと30秒程度で日付が変わる所まできていた。
(どれだけ気がつかなかったんだ……)
いくらなんでも気がついていてもおかしくはないのに。




