2話
「碧李? 聞いてんのか?」
「どれくらい……僕のこと、好き?」
わざと相手の心を計るようなことを言う。
本心なんかすぐに出てくる。 今までだってそうだった。
問い詰めれば、この言葉さえ出せば、何も言えないんだ。
所詮、その程度の対象なんだ、僕は。
大体相手が悪かった。 好きになった相手が。
でも、不可抗力なんだ。 そう思うようにしていた。
いくら好きな人が一緒になることが多かったからって、
結城が僕を好きだとは限らないのだから……
それが一層僕を追い詰めてきた。
なんだかんだ言ったって、言い訳なんだ。
否定したかった、信じたくなかった。 兄弟だから、双子だから。
それも単なる逃避に過ぎない。
「結城? 答えられないの? その程度で好きだなんて言うもんじゃないよ」
「兄貴面か? それに答えられないんじゃない、答えない。
碧李が今どんなこと考えてるのかが知りたい」
行き詰ったからそんなことを聞くんでしょう?
僕の考えてることを知ったって、何も変わらない。
きっと、同じことを考えてると思う。 そう感じる。
兄貴面なんて、今更だろうけど仕方ないよ、この際はね。
こう言わないといけない気がしたんだ。
「結城はわかってない。 人の心をわかってない」
「わかれって言うほうがおかしいと俺は思う。
自分のことは自分にしかわからないのと同じ」
不思議なことを言う。 自然な考えなんだから当たり前だよ。
「碧李は今、好きな人がいるのか? だから、俺に……」
「その自信はどこからくるの? いつも思ってたんだけど」
心は穏やかではないはずなのに、声に乗せる言葉は穏やかだ。
いつもと変わりは無い。 冷静すぎるほど、冷淡にも感じる。
追い詰められたらこうなるのかな、みんな。
いっそ打ち明けたいくらいなのにな、今のうちに。
誰もいない、二人だけのうちに。
「自信もなにも、自分の思うままに近いだけだ」
「じゃあ、自信家なんだ?」
僕の語尾には笑いが滲んでいた。
(自然と笑える時間が少なくなった気がするな、最近。
なにかと最近は感慨に耽ることが多かったからな……)
「自信家って、自分ではわかるわけないだろ?
っていうか、話逸れてるし」
「じゃあ、戻そうか」
軌道修正されたら話を元に戻さなければならない。
感が良くなられるのも困りものだ。
「碧李が好きだ」
「いつから?」
「いつからって、多分高校入ったくらいかその少し前」
僕はそのずっと前だよ。
―――中学に入って半年経った頃だった。
ずっと傍にいるのが当たり前になっていたのに、
部活がそれぞれ離れてしまい、僕は体育会系じゃないから
部活を転々とすることが多かった。
それに比べ、結城はサッカー部に入り夕方遅くに帰ってくるのが常だった。
両親がいないことの方が多いため、独りきりで家にいることが多かった。
結城が帰ってくるまで、家事をしたりテレビを見たり暇を、
寂しさを紛らわしていた。
それでも、終わってしまえば寂しさが募るばかりだった。
二人でいる時間が楽しかった。 ずっとこのままでいたかった。
でも、結城に彼女ができたと聞いた。
本人からではなく、友達から聞いた。
僕には何も言わずに、いや、教えてくれずに。
それから僕の方から避けるようになってしまった。
それを察した結城はその彼女と別れた。
それでも、しばらくの間は何も話せなかった。
僕のせいで別れてしまったのだから……
その頃から意識するようになった。 結城のことを。
好きだと気づいたのは、それから一ヶ月も経たなかった―――
「覚えてる? 僕が結城を好きだって言ったの。
小さい頃だけど」
「微かになら覚えてる。 幼稚園くらいだったよな?」
そう、小さい頃は何も知らない無垢な子供だった。
でも今は違う。 どんどん醜くなっていく。
あの頃に戻れたらどんなに楽だろうか……
「あれって、あながち外れじゃなかったりするんだよね」
「イキナリなんだよ? 待てよ……ってことは」
「その先は言わないでね」
結城が全て言ってしまう前に、遮った。
心だけに留めていて欲しい。
もし言ってしまったのなら、自分でなくても、溢れ返ってしまうから。
許されないことだからこそ、苦しい。
でもその分、通じ合えたらどれだけ嬉しいのだろうか?
「碧李、お前から直接聞きたい。 昔の言葉とかじゃなくて、
今のお前から」
「それはできないよ。 できない……」
今の状態が保てなくなってしまう。
それだけは、嫌だから……




