↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/28

8.気に入ったもの

 女子と合流した後は、ショッピングモールを歩きながら『猛暑が消費に与える影響』のテーマに沿って、影響がありそうな商品を探して回った。女子達はしきりに携帯でモール内の写真を撮っていたが、雪原は一度も携帯を出さなかった。俺は持って来たメモ帳に気づいた事を書き込み、雪原はときどき俺のメモを覗き込んでいた。

「メモしねぇの……?」

 と聞くと、

「緑が書いてるから大丈夫」

 と言うので俺は呆れていた。

 ひととおり情報収集を終えると、フードコートで昼食のハンバーガーを食べることになった。女子達はハンバーガーセットをなかなか食べずに写真ばかり撮っている。一方雪原は会計時以外は携帯をバッグから出すことはなかった。

 女子達が何かヒソヒソ話していると思ったら、三人揃ってこちらを向いた。

「良かったらみんなで写真撮らない?」

 雪原と撮りたいだけで俺はおまけだろう……、と思ったが場の空気を悪くしそうなので発言出来ずにいると、雪原が先に答えた。

「ごめんけど写真あんま好きじゃないんだー」

 俺は助かったと胸を撫で下ろしたが、女子達はかなり残念そうだ。

「雪原君、あんま写真撮らないんだね」

 女子の一人が雪原に話しかけた。

 すると雪原は、

「気に入ったものは撮るよ」

 と言い放った。

 それを聞いた俺は飲んでいた水を吹き出しそうになった。雪原はニヤリと笑ってこっちを見ている。

 女子達は「そうなんだー」「雪原君のインスタは風景とかが多いよね」と返していた。

「えーじゃあさ、好きな子だったら写真撮るってこと?」

 一人の女子の発言に、残り二人が色めき立った。

「え!? それやばい!」

 雪原は涼しい顔でポテトをつまんでいる。俺は話が自分に飛び火しないことを祈り、ハンバーガーにかぶりついた。

「後から見返したいと思ったものは撮る」

 雪原の言葉に女子達がキャーキャーと騒ぐ。

 一体どういうつもりなのか、俺はマスタードもケチャップもほとんど味を感じることが出来なかった。

 昼食後はフードコートでその日得た情報をみんなで整理した。

 ある程度形になったところで、女子の一人が「この後どうする……?」と雪原の顔色を伺いながら尋ねた。

「緑は?」

 聞かれているのはお前の都合だろう、と思ったが、俺は「バイト」と答えた。

「じゃあ帰る」

「そっかあ……」

 女子達の無念そうな声を、雪原は全く気に留めていないようだ。批判が自分に向きませんようにと、俺はとっくに空になっているオレンジジュースのカップをずずずと啜った。

 その後女子達はまだ残ってブラブラすると言っていたが、俺と雪原は帰宅した。


  翌日の日曜日、俺は起床するとベランダで育てているミニトマトの苗に水やりをした。種から育てているミニトマトはまだまだ小さな葉を付けたばかりだ。

 祖母は部屋でテレビを見ている。俺がベランダから部屋に戻ると電話が鳴った。セールス電話かと思いつつ受話器を取った。

「はい、八尋です」

「お、緑? 雪原鷹也でーす」

 昨日隣でずっと聞いていた声が受話器から聞こえて来た。俺は口の端が緩む。

「お前、本当によくかけてくるなあ。電話代大丈夫なん?」

 ニヤけているのを悟られないよう、俺はできるだけ淡白な感じで喋る。電話台にあるボールペンを手に取ってクルクル回した。

「いいんだって。普通普通」

「携帯持ってる奴らはこんなに電話すんの?」

「そうそう、普通だって」

「へー……、みんな何話すんだよ」

「雑談だよ、雑談」

 俺はふーん……、と小さな声を漏らした。

「用もないのにうちに電話をかけてくるのはお前くらいだよ」

「うん、俺だけでいいだろ」

 雪原は笑いながらそう言った。受話器を押し当てた耳がじんわりと汗ばんでいく。

「今日もバイト?」

「うん、昼から」

 雪原が話題を切り替えてくれたのでほっとして返事をした。

「ファミレス行きたいけど今日は予定入れられてて……。クソ……、また明日な」

「そんなにファミレスで食いたいのかよ」

 笑ってそう言うと、雪原は「……いや、……うん」と歯切れ悪く答えた。

「あ、そうだ。一個だけ言っとかなきゃと思ったことがあって電話したんだよ」

「何?」

「昨日俺が撮った写真、顔が写ってるやつは絶対勝手にインスタとかにあげたりしないから」

 俺は昨日のことを思い出した。カフェでのツーショット写真のことだろう。

「別に好きにしていい」

「あはは、そっか。でも顔写真はあげねえから。ありがとな」

 別にSNSにアップしてほしいとは全く思わないが、一体なぜ写真を撮ったのか――。

 俺は握ったままのペンでぐるぐるとメモ帳に渦を描いた。

 昨日の雪原の「見返したいものしか撮らない」という言葉が頭をよぎる。受話器を握りしめたが、結局その疑問をぶつけることができないまま通話を終えて電話を切ってしまった。

「あー、どういうつもりなんだよ……」

 受話器を離した手は汗ばんでいた。メモ帳に描いた渦は濃く何重にも折り重なっている。

「お友達?」

 祖母から聞かれ、俺は受話器を見ながら「……うん」と返した。



8/47

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。