7.苺フラペチーノ
いよいよ土曜日、俺はショッピングモールに向かうバスに乗っていた。合流できるか心配で出発が早すぎたので、集合時間より一時間前には着いてしまいそうだ。遅れるよりはいいかと思いバスに揺られていた。
バスを降りて集合場所のコーヒー店前のベンチへ向かうと、すでにそこに人影があった。その人物は俺を見て手を挙げた。
「おはよー。早いな」
声をかけて来たその人物は雪原だった。集合時間まではあと一時間あるはずでは? 俺は腕時計を見た。
「俺時間間違えた!?」
「いや? 緑に何かあってもいいように早めに来てた」
さらりとそう言われ、俺は瞬時に顔が火照った。
「ば……、おまえ……、俺の保護者かよ!」
雪原はそれを聞いて笑っている。
「緑は早く来るんじゃないかと思って。まだ時間あるしそこ入らねぇ?」
雪原は目の前のチェーンのコーヒー店を指差した。俺は立ち上がり動き出した雪原の後ろで固まっていた。雪原が振り返る。
「どうした?」
「……行ったことない」
家族とこういった場所へ来ることはまずないし、中学の頃は友達と遊んだ経験がほとんどない。それにこういう店は飲み物をとても高い値段で売っているイメージがある。俺は入るのを躊躇していた。雪原に馬鹿にされるかなとちらりと顔色を伺うと、俺を意外そうな顔で見つめていた。
「ないんだ。そっか。じゃあ尚更行ってみよう」
俺の戸惑いを意に介さない様子で、雪原はスタスタと店内に入った。俺は慌てて付いていく。
店内は落ち着いた雰囲気で、奥の方にパソコンを操作する女性や読書するおじいさんが座っている。
「ここって未成年が来てもいい場所……?」
割と真剣に聞いたのに、雪原は笑いを堪えていた。
「緑、何にする?」
レジカウンターでメニューを指す雪原に呼びかけられた。店内に立つ雪原は雑誌のモデルのようだ。
「え、いや、えと……」
思いの外メニューが多く、どれを選べばいいかすぐに決められない。
「甘いの好き?」
顔を真横に近づけてくるので、俺はわずかに息を呑んだ。
「うん」
「コーヒー系とフルーツ系どっちの気分?」
「……フルーツ」
「じゃこれのトール二つ」
雪原が指したのは期間限定の苺フラペチーノだった。マーブル状に混ざった赤と白の何かがカップに詰まり、その上に大量のホイップクリームが絞ってある。店頭や店内の至る所にこのフラペチーノの写真やイラストが掲示してあり、きっとオススメなのだろう。今までこういうのを目にしても何とも思わなかったが、いざ自分が口にすると思うと急に唾が出てきた。
気がつくとあっという間に苺フラペチーノを雪原が頼み終えていた。携帯で支払いまで済ませてしまっている。
「あっ、お金……」
「あとでね」
雪原は仕草が全てスマートで、あたふたしている自分がかっこ悪い。
フラペチーノを受け取るとき、雪原は女性の店員に何か話しかけられていた。
席に着いた後「何の話してたんだ?」と聞くと、雪原は少しうんざりしたような表情をした。
「インスタ見てますーだって」
「ふーん。知らない人にも見られてるんだな」
そう口にすると、雪原は俺の顔を見つめた。
「そう……、そうなんだよ。最近は顔写真控えてるんだけど、馬鹿兄が自分のアカウントで勝手に載せてんだよ。昔から。無断で!」
言いながら雪原はヒートアップしていた。
「それは……嫌だな。だからお兄さんのこと嫌いなのか」
俺は雪原の自己紹介を思い出しながらフラペチーノを一口啜った。
「そうなんだよ……」
「うまっ」
雪原の言葉に被せるように俺は声を出していた。雪原は一瞬動きを止めた後、笑いだした。
「あ、そうだ。お金」
笑われるのが恥ずかしく、誤魔化すように俺は財布を取り出した。
「別にいいよ。俺が勝手に店入ったんだし」
「駄目だ」
貸し借りを作ると碌なことにならない。俺は雪原が立て替えた金額をきっちりと揃えてテーブルに置いた。
飲み物代としては割高だがドリンクは美味しいし、場所の雰囲気などを含めての値段なら妥当と思えた。
「あ、そう……?」
俺が頷くと、雪原は渋々といった感じでその小銭を自分の財布にしまった。
雪原は携帯を取り出すと、俺と自分のカップを並べて写真を撮った。
「緑、あのさ……」
雪原が携帯を見ながら何か言い出しにくそうにしている。
「何?」
「嫌だったらいいんだけど、緑の写真撮っていい?」
「俺? なんで?」
フラペチーノを啜りながら尋ねる。苺の果肉が入っていて美味しい。
「初めてのフラペチーノ記念に……」
「はははっ、何だそれ。別にいいけど」
そう答えると、雪原はパッと笑顔になった。フラペチーノを飲んでいる様子をパシャリと撮られ、その次はツーショットまで撮られた。
フラペチーノを飲み終えてしばらくのんびりした後、二人で待ち合わせ場所へと戻っていった。
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