40.炎上
俺は受験生なので、夏休みの間塾に通うことになった。夜は緑と会うので行くのは日中だ。ちなみに緑はバイトに行く前の午前中に自宅や図書館でちゃんと勉強しているらしい。偉すぎる。
正直新しい環境は苦手だ。俺の顔はどこに行っても注目を集めるみたいだ。
塾では知り合い以外とは目も合わさず無愛想に過ごしている。
ある日塾にいると智幸から連絡が来た。
『鷹也君、彼女できた?』
「……はぁ?」
メッセージを見た瞬間声が出ていた。
『自称彼女(笑)が好き勝手言ってるよ』
そのメッセージの後に貼られていたリンクを開くとインスタに繋がった。
「……なんだコレ」
そのアカウントは俺の写真を投稿している。
#彼氏できました
#イケメンすぎ
#優しすぎ
#幸せ
こんな感じのハッシュタグがずらずらと並んでいる。
スクロールすると、制服の俺とそのアカウント主と思われる女子とのツーショットが出てきた。
その女子は例のファミレスの地雷系女子だった。やはり不可抗力とはいえ接触したのがまずかったか。
「アイツ……」
しかしツーショット写真を撮った記憶は一切ない。合成だろうか。
すぐに智幸に調べるよう連絡をした。
その日のうちに投稿はどんどんエスカレートしていた。
俺がファミレスで会計する後ろ姿の写真や、体育祭の応援団の写真もある。
#愛されすぎてツライ
#私の彼氏見て
#ベッドでも最高
塾の講義の傍らスマホでチェックしていたが、俺はスマホを叩き割りそうになった。気持ち悪すぎる。しかも周りが何人か俺を見てヒソヒソ話している気がする。すでに数人からラインで事実確認の連絡が来た。
休憩時間に俺はその場を飛び出した。
家に向かいながら智幸に電話をかける。
「あれって合成? あんなこと出来んの?」
「ディープフェイクだね。AIで作ったんでしょ」
「アカウント通報とかで対処できんのかな……」
「その道のプロがいるじゃん」
俺は黙り込んだ。俺が苦手で嫌いなアイツに任せれば恐らく一瞬で片付くだろう。
「……考える」
電話を切って走って帰宅すると、ソイツはすでに俺の部屋にいた。
「来てたのかよ……」
勇也が俺の椅子に座りクルクル回っている。勇也は髪の毛が黄緑色になっていた。先週まで青かったのに。
「よぉ、弟よ。久しぶり」
「昨日も飯食いに帰って来てただろうが」
勇也は立ち上がって近づいてくる。
「ひとつ、確認だ」
いつもヘラヘラニヤニヤとしている顔が、珍しく笑っていない。
「あの女は彼女じゃないな?」
俺は勇也を睨みつけた。
「んな訳ねーだろ! 誰だか全然知らねえよ!」
「だよな。お前女に興味ないもんな」
勇也の言葉に俺は固まった。
なんで、いつから知ってんだ……。過去に女の子数人と付き合ったがしっくり来ず、男の子とも付き合ったことがある。みんな連絡がしつこくて一ヶ月も持たず別れてしまったが、勇也はどこまで知ってるんだ?
「そうそう、携帯持ってない可愛い男の子の緑君、鷹也にとっては好条件だなあ」
勇也が見せて来た携帯の画面には、修学旅行のときの緑の写真が表示されている。
流出元は智幸か。後でシバく。
「……何が言いたいんだよ」
「何も言わなければ何も知らないままだろうけど、わざわざ伝えんのかなって興味があって」
勇也はまたいつものニヤけた顔に戻っている。
「……それはお前には関係ねえだろうが」
拳を握りしめて勇也に答えた。勇也は飄々としている。
「ま、そうだな。とりあえずこの件はこっちで処理しとく。俺の業務にも影響あるから」
確かに俺のインスタの服のモデル写真などの投稿にも『変な女と付き合ってるの?』などコメントが付き始めている。勇也の方にも波及していく恐れがある。
勇也に任せておけば間違いないだろう。気に入らないが都合は良い。
対処は全て勇也に投げて、俺はファミレスに向かった。
ファミレスまで向かう途中、携帯は鳴り続けた。SNSへのコメントもどんどん増えている。
『ショック』
『あの女マジで何?』
『嘘だよね?』
『全然可愛くないじゃん』
『趣味悪い』
『別れろ』
好き勝手な言葉がずらりと並ぶ。
何故あんなものを信じる人がいるんだろうか。
馬鹿馬鹿しいし、気持ちが悪い。
ファミレスに着いたけど中にいるとあの女と会いそうで、勝手口の近くでずっと待っていた。
携帯を見たくないのに、手持ち無沙汰でつい見てしまう。憶測、中傷、擁護……。様々な言葉が俺抜きで飛び交っている。勇也の指示があるまでは俺は何も投稿できない。この小さな機械に振り回されている自分自身も馬鹿だなと思う。
厨房の換気扇と室外機の排気でここはすごく蒸し暑くて匂う。けれど緑がバイト上がるまでの一時間くらいをそこで過ごした。




