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39.最後の体育祭

 相変わらず緑とは昼休みしか会えない日々で、五月になると早速体育祭の練習が始まった。

「応援団だとまた去年みたいに囲まれて会えないかも。どうしよう……」

 昼休みに俺が相談すると、緑は「今年は写真撮ろうって約束だろ? 応援団の雪原と」と笑って言った。

 その笑顔に撃ち抜かれて、俺は今年も応援団を引き受けた。

 不運なことに今年も俺たちは違う組で、練習も本番の日も近くで緑を見るタイミングが無かった。

 当日の昼休み、俺はいつもの空き教室に全力で走っていった。

 緑は数分遅れてやって来た。

「あれ……? なんで着替えてるんだ!?」

 緑は俺を見て驚く。俺は応援団の格好で緑を待っていた。応援合戦は午後の中盤の種目で、昼休みにはまだ着替えない。けれどどうしても今年こそ緑と写真を撮りたくて、衣装を持って来て緑が来る前に着替えたのだ。

「へへ……、どう?」

 緑に全身をまじまじと見つめられる。ただでさえ暑苦しい長ランなのに、更に暑くなって汗が滲んできた。

「すっっっげーカッコいい」

 緑は目を輝かせている。

 緑のコメントに、俺は顔がニヤけるのを止められなかった。

「写真! 撮ろう!」

 照れ臭くてそう大声を出した。

 携帯を構えると俺はどさくさに紛れて緑の肩を抱いた。ついでに頭もくっつけて、何枚かバシャバシャと写真を撮る。

「あ、暑いな」

 そう言った緑の顔がちょっと赤い。

「うん、暑い」

 俺はそのまま強く抱き寄せたいのを我慢した。

「写真、コルクボードに飾ってね」

「当たり前じゃん」

 去年出来なかったことは今年しよう。全部楽しい思い出で終わらせるんだ。


 最後の体育祭は優勝を逃したけれど、悔いの残らないものにできた。

 その後現像した写真は緑のコルクボードに無事収まった。

 俺のカメラロールのお気に入りフォルダにも、また緑の写真を増やすことができた。


 ***


 夏休みに入り、今年も緑のバイト先に通う日々になった。俺がファミレスに通うのは三年目になり、このファミレスのメニューを全制覇しつつある。なんなら俺が行く時間帯の店員もみんな覚えた。向こうにも覚えられているみたいだが……。

 緑はキッチンなのでバイト中はちらりと見えるか見えないかだけど、それでも緑を待つ時間は楽しい。それから髪を引っ詰めてコック帽を被る緑はすごく可愛い。

 俺が緑のことを考えてニコニコしていると、隣を黒い服の女子が通った。俗に言う地雷系という感じの服とメイクだ。俺は目が合いそうになって慌てて逸らした。この女子、俺が来る時必ずいるし、チラチラ俺をよく見てくる。去年緑から気をつけろって言われたけど実害がないから対処が難しい。推し活なら芸能人にしてほしい。

 その日俺が席を立ってドリンクバーに行くと、タイミング悪く地雷系女子もやって来た。俺がコーラを注ぐのを後ろで待っている。

 さっさと立ち去ろうとしたのだが、一瞬腕がぶつかってしまった。

「あ、すいません」

 ボソリと言うと彼女は「全然、全然大丈夫です!」と大袈裟に言っていた。俺は逃げるようにその場を去った。

 会話をしてしまった……。

 

 バイト後の緑と話している時、地雷系女子との出来事を伝えると、緑は考え込むような顔つきになった。

「どうした?」

「俺と出会ったきっかけって、ファミレスでぶつかったからじゃん?」

 緑は顎に手を当てて深刻な顔をしている。

「えっ、何? まさか俺がファミレスでぶつかった人全員と仲良くなると思ってる!?」

 言いながら笑いを堪えきれなかった。緑は不服そうだ。

「お前みたいなのとぶつかったら……」

 そこまで言って緑は黙ってしまった。続きが気になって仕方ない。もしかして、ひょっとして、これは……。

「デカいからびっくりするだろ!」

 俺は拍子抜けした。俺とぶつかったら惚れてしまう、という答えを期待した自分に心の中で苦笑した。


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