38.頼ってほしい
緑が落ち着いてから、カフェスペースで久しぶりに会話した。話を聞けば聞くほど、高校生が一人で抱え切れる事態ではなくて、俺は言葉を失った。
「緑すげえよ。よくがんばったよ」
俺が泣いてどうする、とぐっと涙を我慢して、そんなことを言うくらいしか出来なかった。
プレゼントの本を渡すと緑がやっと笑ってくれた。その顔を見ると、俺の心に火が灯るようだった。
その日俺は自分の母に電話で相談した。
母さんはすぐに病院に駆けつけてくれた。俺はいつも家で緑の話ばかりしていたが、母さんが緑と会うのはその日が初めてだった。
「あなたが緑君……。辛かったわね。頼れる大人はどんどん頼りなさい!」
母さんがそう言うと、緑は涙目で頷いた。
母さんが付き添って医師に話を聞くと、緑のばーちゃんは順調なら明後日にも退院できるということだ。
「緑君、夜はうちに泊まらない?」
母さんが緑にそう提案したとき、俺は不謹慎ながら心の中でガッツポーズをした。
けれど緑は、「もし何かあったら後悔するから……」と首を縦に振らなかった。俺の心中のガッツポーズが萎れていく。
「困ったときは些細なことでも必ず連絡すること」
と俺と母さんは緑に言い含めた。その後帰ろうとしない俺は母さんに引きずられ病院を後にしたのだった。
翌日も俺はばーちゃんの見舞いを口実に緑に会いに行った。緑と病院でおしゃべりしたり、散歩したり、何もせずただ二人でいたり。それだけで俺は満たされた。緑の表情は、昨日より随分穏やかに見えた。
いつもなら「ごめん」とか「悪いな」とか言いそうな緑が、何も言わずに俺のそばにピッタリくっついていた。
よっぽどしんどくて寂しくて怖かったんじゃないか。
俺はただ緑の幸せを祈ってそばにいた。
ばーちゃんが退院する日は俺の母さんもまた来てくれた。
その日は四人で外食することになって、定食屋に行ったのがすごく楽しかった。
本当に家族になったみたいだ。
「可愛い孫が二人になった気分よ」
緑のばーちゃんの言葉も嬉しい。母さんもすっかり緑のことを気に入っていた。
「緑君、本当に可愛いわ」
と何度も言っていて血筋を感じてしまう……。緑は照れていてそれがまたとんでもなく可愛い。
俺はテンションが上がりすぎて声がデカくなり、母さんに何度も怒られた。緑もたくさん笑ってくれた。
こうして俺と緑はまた元通りの日常、喧嘩する前のような関係に戻った。けれど少し変化があって、ときどき緑から電話をかけてくれたり、遊びに誘ってくれるようになった。そのとき俺は嬉しすぎて飛び上がりそうになる。
緑にとって少しは特別になれてるんじゃないかな。俺はいつもその先の淫らな妄想をしては恥ずかしくなって掻き消す毎日を送っている。
告白ってどうやるんだっけ?
いつもは毎日メッセージのやり取りするうちに向こうからメッセージで告られて……。
けど緑にその手は使えないから直接言葉にするしかない。電話? それとも直で?
無理無理無理……!
我ながら意気地なしだと思うが、断られたら生きていけない。
もうちょっと今の関係を引き延ばそうとばかりしてしまうのだった。
***
三年に進学してクラス替えがあったが、俺は三年八組、緑と町田は三年四組とそのまま持ち上がった。
一つ上の勇也は大学生になり家を出た。これはかなり嬉しかったが、週に何度も夕飯を食べに帰ってくるのでウザさは変わらずうんざりだ。
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