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37/42

37.繋がらない

まだ解熱後五日経っていないので会うことはできないから、冬休み初日の朝に俺は緑の家に電話した。

 繋がらないが、たぶん緑はバイトでばーちゃんは出かけてるんだろう。

 昼にまたかけるが出ない。

 夜も出ない。

 今日はタイミング悪いな……。でもこんなに繋がらないことがあっただろうか。俺は明々後日の二十五日までは自宅療養期間だ。もどかしいが祖母と暮らす緑にインフルエンザを移してはいけない。今すぐ部屋を飛び出したい衝動を堪えた。

 次の日も電話をかけた。やはりいつかけても電話に出ない。

「おかしくないか……?」

 町田に連絡してみたが、何も知らないと言う。家まで見に行ってと頼むと、今家族で帰省中だと言われた。

 緑の家の電話では発信者は分からないから、俺からの電話だから避けているということはあり得ない。

 ばーちゃんとどこかに出かけているのだろうか。でも今まで何日も家を空けることなんて一度も無かった。

 心配で携帯を持ったまま部屋の中をうろうろと歩き回る。まだ体調は悪くてそのうちベッドに突っ伏していた。

 十二月二十五日、療養期間が明けた俺は朝起きると家を飛び出し緑の家に向かった。

 朝九時、インターホンを押すが出てこない。

 ドンドンとドアを叩く。

「緑!」

 人の気配がない。すると隣のドアからダボダボのTシャツを着たおじさんが顔を出した。

「ちょっとうるさいよ……。隣の人、何日か前に救急車来てたみたいだよ」

 それだけ言うとおじさんは家に戻って行った。

 俺は唾を飲み込み、微かに震えていた。やっぱり緑が大変な目に遭ってるんだ。運ばれたのは緑かばーちゃんか。どちらにせよ緑が辛い状況なのは間違いない。

 俺はなんて無力なんだろう……。

 握りしめた拳を、緑の家のドアにコツッとぶつけた。歯を食いしばり、俺は緑のバイト先に駆け出した。

 

「すいません!」

 いらっしゃいませ、と言われる前に店員に声をかけた。

「八尋緑の友人です。連絡取れなくて困ってて……、どこにいるか知りませんか!?」

 女性の店員は俺を一瞥した後、頷いた。

「あなた八尋君のお友達ですよね。八尋君、お祖母さんが入院されたって店長から聞きましたよ」

 それを聞いて、俺は頭から血の気が引いた。

 入院……? 容態は? 緑は一人で付き添っているのか? どうすればいい?

 必死に頭を回転させる。

「あの、入院先は……?」

「確か東病院って言ってたと思いますけど……」

「ありがとうございます……!」

 俺は深々と頭を下げると走って店を出た。

 ばーちゃんに何かあったのか……。緑のことを考えると胸が潰れそうだ。頼れる大人はいるのだろうか。

 何日も寝込んでいたので体がなまっている。途中何度か休憩しながら駅まで走った。空はどんよりと曇っている。

 病院って手ぶらで行っていいんだっけ……。

 電車に揺られる間ふとそう思った。病院の最寄駅で降りると、駅ビルで慌ててお見舞いの花を買う。花屋にはポインセチアが並んでいた。

「あ、今日クリスマスじゃん……」

 病院で過ごしていると思われる緑に何かプレゼントしたい。辺りを見渡すと本屋が目に入った。緑はよく本を読んでいる。携帯が無くて、夜は何をしているのか聞いたとき「読書」と言っていた。

 本屋に入って売れ筋ランキング一位の本を手に取った。有名俳優で実写映画化が決まっている作品で、タイトルくらいは俺でも知っている。

 それをラッピングしてもらい、カバンに押し込んだ。

 そこから病院まで走った。空から小さな雪の粒が降り始めていた。

 辿り着いた総合病院はデカくて、自動ドアの前まで来てどうやって緑を探そうか考え込んだ。

 受付で聞いて教えてもらえるんだっけ……。とりあえず入ろう、とロビーに入って辺りを見回したときだった。

 視界の端に黒髪の青年が見えた。窓の外を眺めている。

 目を凝らすと、俺がずっと会いたかった人物にそっくりだ。その時その青年がこちらを見た。

 間違いなく緑だ……。

「緑……」

 俺は緑に向かって歩き出した。徐々に歩みが早くなる。近づいていく間、緑は泣き出す手前みたいに見えた。

「緑……っ!」

 一歩前で立ち止まると、緑が「本物……?」と俺の体を触って確かめた。その手を掴むととても冷たい。

 どれだけ辛かったんだろう。ずっと一人で耐えていたのか。俺の体温でも何でも、分け与えられたらいいのに。

 緑は俯いて涙を堪えていた。震えるその肩に俺は両手を置き、緑が顔を上げるまでじっと待った。


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