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36.鷹也の気持ち②

高校に入ってから、カラオケやクラブに誘われてたまに行ったけど考えるのはいつも緑のことだった。

 今何してるんだろう。

 会いたい。

 意識して欲しい。

 結局集中出来なくて、俺は徐々に誘いから足が遠のいていった。

 俺は緑を特別に思ってて、俺も緑の特別になりたいんだ。

 離れたくなくて、喜んでほしくて、写真をあげたり、夏休みは毎日のようにバイト先に押しかけたり、クリスマスや年末年始も一緒に過ごした。

 夏休みに勇也が緑と俺を巻き込んで勝手にインライを始めようとしたときは本気で腹が立った。

 緑が帰った後、俺は勇也にキレた。

「初対面の奴をいきなりライブに映そうとするなんて、お前どうかしてるぞ!!」

「お前さ、あの子じゃなくてもそんなにキレた?」

 勇也がニヤニヤと聞いてくる。こいつは反省というものを知らない。得意の論点ずらしをしてきた。

 けれど、緑じゃなければどうでもいいと思ったかもしれない。

 いつも核心を突いてくる勇也が嫌いだ。

 俺よりよっぽど性格が悪いのに、俺とほぼ同じ顔で俺より頭も要領も良く俺よりフォロワーが多い。ろくな奴じゃないのに。

「たぶん顔映ってないから大丈夫だって。あの子俺のこと知らないって言ってたし、また連れて来てよ」

「ぜっっったい嫌だ」

「ふーん……」

 勇也に見透かされたような目線を向けられて、俺は顔を逸らして部屋に戻った。

 ソファで緑を押し倒してしまったことを思い出す。

 緑の顔、赤かった――。

 あのまま邪魔が入らなかったらどうなっていただろう。

 唇を重ねて緑の服を脱がせる妄想をして、俺は顔を両手で覆った。

「ヤバ……」

 頭が沸騰しそうだ。ずるずると座り込み気持ちが鎮まるまでじっとしていた。

 緑に気持ち悪いと思われるだろうか。

 嫌われてはない、と思う……。けどキスして受け入れてもらえるかと言うと自信がない。

「あー……キスしてー……」

 俺は髪の毛をガシガシと掻きむしって呟いた。


 ***

 

 二年で違うクラスになったのは大誤算だった。

 クラスが離れると緑の様子が全然分からない。困ってないかな、俺以外のやつと仲良くなってないかな。そんなことばかり頭をよぎる。仕方なく子供の頃からの腐れ縁の智幸を頼った。

 クラス替え発表直後、俺は緑のクラスに町田の名を見つけすぐに電話をかけた。

「え、その八尋緑君って鷹也君の何? 付き合ってんの?」

「……友達」

「過保護すぎね?」

「お前、携帯ない生活考えてみろよ。困るだろ? だから緑が困ってそうだったらサポートしろよ」

「好きなら好きって言ったら? ハッキリ言えば協力するけど……」

「そうだよ!!」

 俺はそう叫ぶと電話を切った。クソ野郎。だけど俺がここまで言えば智幸は絶対に協力してくれるはずだ。仕方がない。

 智幸は余計なこともしてくれたが、緑にクラスの連絡事項が漏れなく伝わるようサポートしたり、俺が休みのときに連絡係になってくれたりと実際役立ってくれた。

 緑にベタベタするのは許せないが。

 

 俺なりに、クラスが離れても上手くやってると思ってた。

 けれど修学旅行の後、緑と初めて喧嘩した。

 携帯をあげたら喜ぶだろうな、俺も連絡取れて嬉しいし、と単純に考えていた。前使ってた携帯を引っ張り出して、SIMカードを買ってまた使えるよう契約した。勇也の振り込む金とモデル代がそこそこあるから、月々の支払いは自分の口座からという約束で父さんに二台目を許可してもらった。バイト用、と言うと父さんはあっさりサインしてくれた。うるさいので母さんには伝えていない。

 旅行が終わるまでの間、携帯で緑とやり取りできるのが最高だった。こんなに夢中でラインを返したのは初めてだ。画面の向こうで緑が俺のことを考えてくれてると思うと頬が緩んだ。

 

 だけどサメのぬいぐるみを受け取ったあの日、緑を怒らせてしまった。

 思い返すと、緑は俺が奢ろうとしたり写真をあげようとしても必ず支払いやお礼をして、タダで受け取ろうとはしなかった。

「これを受け取ったら俺はお前に借りがある人生になる」

 携帯をあげようとしたとき、緑はそう言っていた。

 逆だったらどうだろう……。俺の携帯代を緑が払うなら……。それは申し訳なさすぎるな。じゃあ町田だったら? なんでお前がそんなことするんだよ、って思うな。

 確かに、対等な友達ならそんなことはしないだろう。

「あー……」

 浅はかな自分を殴りたい。緑は一線を守ってくれたんだ。


 翌日謝ろうと昼休みにいつもの空き教室で待っていたが、緑は来なかった。こんなことは初めてだ。緑は俺が思ってるより遥かに怒っているらしい。俺は頭を抱えた。

 空き教室で待つ間、以前休んでしまった日を思い出した。緑は町田が伝えにくるまでの間、じっとここで一人で待っていたんだ……。体育祭が終わった後も、文化祭の日も、連絡が取れない俺のことを待ってたんだ。

 心臓が縄で締められたみたいに苦しい。頭も痛くなってきた。

 町田に緑への連絡を頼んだが、どうも体調が優れない気がして、俺はその日早退してしまった。

 明日謝ろう。

 そう思っていたのに、翌日の体温は38.8度。最悪なことにインフルエンザと診断された。結局熱が下がったのは終業式の日だった。


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