34.再開
翌日、あまりにも暇すぎて俺はまた院内を散歩していた。ロビーにはクリスマスソングのオルゴールバージョンが流れている。
今日はクリスマスか。
去年コタツで雪原と映画を見たことを思い出した。密着して携帯の画面を覗き込んで、そのまま二人とも寝落ちたんだっけ……。朝起きたら背中に雪原がぴったりくっついていたんだった。
思い出しただけであの時触れ合っていた部分が熱くなるようだった。
結局雪原とは気まずいまま何日も経ってしまった。もしかしたら家に電話をかけてくれたかもしれない。
クリスマスに、何をしてるだろうか。女子に誘われて遊びに行ってたりしないだろうか。
ロビーの窓から外を見ると、どんよりとした空から小さな雪の粒がひらひらと舞い始めていた。
「雪……」
家にサンタが来てくれたことはないが、もしクリスマスに願いが一つ叶うのなら、雪原に会いたかった。
また、前みたいに話したり出かけたりできるだろうか。
深い溜息を吐いて、歩き出そうとしたときだった。
ロビーの端に見慣れた茶髪がいる。その人物はハッとした顔でこちらを見ている。
「雪原……?」
人違いかもしれない。俺は近づいて確かめようとした。早く確認したくてだんだん早足になる。
向こうもこちらに近づいて来ている。
さっき会いたいって思ったから夢を見ているのかもしれない。
「緑……っ!」
その人物が俺の名を呼んだ。
あと一歩の距離で俺たちは立ち止まった。
「本物……?」
俺が雪原を確かめるようにその体に手のひらを当てると、雪原は俺の手を握ってくれた。じんわりと温もりが伝わってくる。
「なんで……どうやって……」
言葉が続かない。目から涙がこぼれ落ちそうになって、俺は下を向いた。
雪原は、涙を堪えて小さく肩を振るわせる俺の両肩に手を置いてくれていた。
その後俺が少し落ち着いたので、院内のカフェスペースに移動した。
俺はポツポツとばーちゃんが倒れてからの出来事を雪原に話した。雪原はずっと相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
「緑すげえよ。よくがんばったよ」
一通り話し終えると、雪原は鼻を啜ってそう言った。俺はそれだけで報われるような気がした。
「これ、クリスマスプレゼント」
雪原がラッピングされた包みを取り出した。
「えっ?」
不意打ちに驚く。視線で催促されて、俺は包みを開いた。
それは小説の単行本だった。最近実写映画化されて話題になっている本だ。
「……読んだことあったりする?」
「いや、ない。嬉しい……」
雪原は「よかったー」とほっとしているようだ。
「病院で暇じゃないかなと思って。俺本よく分かんねーからとりあえず有名なの買った……。今度映画一緒に行こうよ」
「ありがとう……」
胸の奥が温かい。
照れながら話す雪原を見ていると俺は笑みが溢れた。
窓の外の雪は、さっきより少し大きな粒になっていた。今その景色は雪原を彩る背景みたいに見えてくる。
俺は久しぶりに笑ったような気がした。
34/47




