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31.ケンカ

旅行の翌日、学校は休みだが携帯を返してお土産を渡すために雪原に連絡した。わざわざ電話をしなくてもメッセージを送っておける携帯は本当に便利だ。

 雪原はバイト終わりに待っていてくれた。家まで歩いて行き、アパート前で待っていてもらった。俺は家から急いでお土産の袋を取って来て階段を降りた。

「なに買ってくれたん?」

 俺は旅行中に雪原に何度聞かれてもお土産が何か答えなかった。荷物になるので帰ってから渡すことにしていて、それまでは恥ずかしいので隠しておきたかった。

 俺は無言でお土産が入った袋を渡した。

 雪原は受け取ると嬉しそうに中を確認した。袋の中身を見た瞬間、雪原は笑い出した。

「え、これ緑が選んだの? すげー可愛い……」

 笑いながらサメをつねったり潰したりしている。

「ありがとう。気に入ったわ。何でこれにしたんだ?」

 雪原はサメを抱きしめたまま尋ねてきて、俺はギクリとした。

「だって何がいいかほんとに分かんなくて……。お前おしゃれだから身につけるものは気が引けるし、文房具とかだと安すぎるし……。いろいろ考えてたら訳わかんなくなって時間も無くなってとりたえず目の前のそれを掴んだんだよ! ごめんって」

 俺の言い訳を雪原はニコニコ聞いていた。

「なんで謝んの? そんなに俺のこと考えてくれたんだろ。すげー嬉しい」

 サメは雪原に頬擦りされていた。こんなのでそんなに喜んでもらって、俺の中で申し訳なさと恥ずかしさと嬉しさがせめぎ合っていた。

「ほんと、可愛い」

 雪原が俺の方を見て言ったが、サメに向かっての発言だと言い聞かせた。

「あと携帯ありがとう。ほんとに助かった」

 話題を変えようと、借りていた携帯を差し出した。

「緑、その携帯もらってよ」

 雪原は受け取ろうとせず、軽い口調でそう言った。

「……は?」

「それ実は緑のために用意したんだ。使ってよ」

 雪原は笑顔だが俺は戸惑った。携帯って端末台が馬鹿にならないだろうし、月々の支払いが発生しない訳がない。

「えっと……、買い取るってこと?」

「違う違う、お金はこっちで払うから。そんな大した金額じゃ……」

「いらない」

 どうして俺の携帯代を雪原が払うのか。常識的に考えておかしいだろう。それに金の出所はどこなんだよ。俺は微かに震えていた。

「え……」

「受け取れない」

 俺はお前の何なんだよ。

 雪原も俺のこと“携帯がない可哀想な奴”って思ってたんだろうか。こんな施しを受けるみたいなこと、友人同士でやることではないだろう。

 俺はショックを受けていた。雪原の顔を見れない。

 俯くと父親のことが頭をよぎった。

 

「ランドセル買ってやったんだから、言うことを聞け」

「お前のかーちゃんは産みたくないって言ったけど、俺が産ませてやったんだから感謝しろ」

 機嫌が悪いと口癖のように「俺のおかげで」や「してやった」と言っていた。そして言うことをきかせようとしてくる。

 “してもらう“ことは立場の上下を作る。早く自立したい。

 いつもそう思ってきた。


「とにかくこれは貰えない。これを受け取ったら俺はお前に借りがある人生になる」

「そんな……、大袈裟な……」

「…………そう思うなら、もうお前とは関われない」

 言い過ぎたかと思ったけど、頭の中がぐちゃぐちゃで言葉が上手く紡げない。

 ずっと可哀想と思われながら隣にいるのは辛い。携帯を貰ってしまったら、もう俺は雪原の隣で前みたいには笑えないんだ。

「……いやいや、待ってよ緑」

「返す」

 これ以上話すと泣いてしまいそうで、俺は携帯を押し付けて家に駆け込んだ。

 携帯を持っていれば……。

 次に親父が帰ってきた時、契約書にサインをもらって携帯を買えるだろうか。あの親父相手にそれができるか……?

 俺は頭を抱え込んだ。

 黒電話を睨みつけたけど、何の意味もない。

 悔しくて、惨めだった


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