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30.修学旅行②

 一日目は全体行動だけで、大阪城や歴史博物館などを巡った。

 ときどき町田が俺の写真を撮っては雪原に送り「百円ゲット」と言う。周囲は不思議な目で俺たちを見ていた。

 ずっとクラス単位で動き、雪原を見つけることはできなかった。

 その日の夜、六人部屋の雑魚寝で眠りにつこうとすると、枕元に隠しておいた携帯が震えた。

 布団を被り確認すると雪原からメッセージが来ている。

『なにしてる?』

 俺は嬉しさに下唇をギュッと噛んで返事を打った。

『寝たふりしようとしてた』

 その後ずっと俺たちは先生の噂話や大阪の情報など、他愛ないことを送り合った。日を跨ぐまでずっとやり取りをして、『おやすみ』と締め括ったその画面を見つめながら眠りに落ちていった。


 翌日はテーマパークで、起きた時からみんな浮かれていた。

 俺は町田達のグループの邪魔にならないよう、大人しく付いていく。写真を撮るときは進んで撮影係を買って出た。

「緑君、悲しくなってくるからあんまり撮影ばっかしないでよ……」

 と町田が言ってきたが、

「自分の携帯ないし写ってもしょうがないから」

 と答えると渋々納得していた。

 

 俺は前日からずっと雪原へのお土産を考えていた。

 行く先々のお土産コーナーを物色する。キーホルダー、文房具、タオル、お菓子……。どれもピンと来ない。そもそもセンスに自信がない。雪原はおしゃれだし、満足させられる気がしない。この前もらったハワイのお土産の総額は怖くて聞けなかったが、相当な金額だと思う。

 考えれば考えるほど何がいいか分からなくなった。

 結局パークを出る直前まで決めきれず、最後に時間がなくて焦るあまり目の前にあった丸っこいサメのぬいぐるみを掴んで購入した。

 ホテルに向かうバスでぬいぐるみを見て俺は不安に襲われていた。いくら何でもぬいぐるみはいらないんじゃないか。確か雪原の部屋にぬいぐるみは無かった。

「緑君、なんでぬいぐるみとにらめっこしてんの」

 隣の町田が覗き込んでくる。

「お前、これ貰って嬉しい?」

「え、くれるの?」

「やらん」

 町田は不服そうな顔をした。

「そういうのは気持ちだよ、気持ち。あげる相手と自分を入れ替えて考えてみたら?」

 誰にあげるかは言ってないのに、町田は勝手にアドバイスをしてきた。けれどその言葉は俺の脳内に響いた。

 雪原なら喜んでくれるかもしれない。

 俺はぬいぐるみをそっと袋に戻してポンポンと軽く叩いた。

 その晩も俺は雪原とメッセージのやり取りをした。

『明日の自由時間、一緒に回れる?』

 雪原からそう聞かれた。

『班から抜けて大丈夫かな?』

 しおりには「班行動すること」と書いてある。

『大丈夫大丈夫。去年先輩達かなり自由に行動してたらしいよ』

 雪原からはそうコメントが返ってきた。

「そうなのか……」

 布団の中で呟く。雪原と一緒に回れるなら最高だ。これも携帯があるおかげだ。

 二人で回る約束をしてその日はぐっすり眠った。

 

 次の日、起きてすぐ町田に相談すると「全然いいよ、むしろダメって言って鷹也君の恨み買いたくないし」と返ってきた。

「てかさ、鷹也君相当告白されてるらしいけど聞いてる?」

「えっ!?」

 告白、告白……? メッセージではそんな素振りは一切無かった。

「だ、だれ……、てか、どうな……」

「落ち着きな」

 町田が俺の両肩を押さえる。

「みーんな振られたって噂になってるよ。校内屈指の美女達を三人も振ったんだって」

 町田は可笑しそうに話した。

「な……びじょ……」

 また俺だけ何も知らないのか。

「美女三人振って今日は緑君とデートかあ。鷹也君面白いな」

 本当に、どういうつもりなんだろう。

 聞きたいけど、怖くて聞けない。

 考え込んでいるうちに自由行動の時間になっていた。


「みどりー!」

 合流するなり雪原は抱きついてきた。俺は驚いて離れようとする。

「お前、旅行で変なテンションになってないか?」

「そうかも。今度は絶対二人で遊園地行こうな!」

「今度っていつだよ……」

 雪原はやけにテンションが高い。

 二人で道頓堀や通天閣を巡り、たこ焼きや串カツを食べた。

 全く期待していなかったのが嘘のように旅行が楽しい。

 知らない街を二人で並んで歩いているだけで心が弾んだ。

 昼食のお好み焼きを食べているとき、俺は気になっていた告白のことを思い切って聞いてみた。

「いっぱい告白されたんだって?」

 雪原は飲んでいた水にむせておしぼりで口を押さえた。

「……智幸か誰かに聞いた?」

 俺は黙って頷いた。

「あんま喋ったことない子ばっかりだったし、付き合うとか無理だよ。それに俺……」

 俺は雪原にじっと見つめられた。鉄板が熱いせいか、俺の顔が火照っている。俺は続きの言葉を待った。

「なんでもない!」

 そう言って雪原はお好み焼きを真っ二つに切った。この話題はそれきりで、何を言おうとしたのか分からずじまいだった。

 昼食を食べ終わった頃にはもう集合時間が近く、俺たちは新大阪駅まで一緒に行くとクラスの列へと戻っていった。


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