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27.鷹也旅行中

 夏休みは去年と同じように、雪原は俺のバイト先に頻繁に来てくれた。

 俺がバイトを終えると一緒に近所をぶらぶらする。

 その日は夜の公園で二人ブランコに座っていた。コンビニで買ってきたアイスを食べている。なんだか雪原の元気がないなと思っていたら、雪原が難しい顔をして口を開いた。

「緑……、俺、来週から一週間ハワイに連れて行かれる……」

「ハワイ!?」

 ハワイとは喜んで行くものではないのか。

「連れて行かれるって?」

「俺は別に行きたくないけど、家族旅行で置いていけるわけないでしょって……。来年は俺受験生だし。勇也は来年大学だけどアイツ私立だからエスカレーター式で進学なんだ。行くなら今しかないって……」

 家族旅行でハワイ……。前から思っていたが、こいつ、金持ちだ。

「なんで行きたくないんだ?」

「だって一週間緑と連絡取れない。流石に国際電話は怒られる」

 俺はアイスをむせそうになった。

「いや……、行ってこいよ! んなこと気にすんな!」

 俺はそう叫んだが、雪原は不満そうな顔だ。

「緑をトランクに詰めて連れていきたい……」

「普通に死ぬだろソレ」

 雪原は俺のことを小さな子どもかペットと思っているのだろうか。一週間連絡が取れなくても生活できる。

「いいから、行ってこい。俺を理由に行かないことになっても困る」

「えー……」

 不服そうだったが、俺に釘を刺され仕方なく納得したようだった。

 それから一週間後、雪原はハワイに旅立った。


 雪原のいない生活は久しぶりだった。

 バイトが終わると家まですぐ帰る。別に毎日電話したり会ったりしていたわけじゃないのに、それまで自分が家にいる時何をしていたか分からなくなった。

 今まではテレビを見たり借りてきた本を読んで過ごしていたことを思い出して、俺は図書館でたくさん本を借りた。けれどなんだか集中できなくて、気がつくと電話の方を眺めていた。

 電話の横のカレンダーに書き込んだ「雪原帰国」という日付まで毎日数えてしまう。

 今頃何をしているのか、今ハワイは何時なのか、雪原のことばかり考えていた。

 雪原がいなくても生活できると思っていたが、雪原と出会う以前の生活には戻れないみたいだ。


 バイト先で女の先輩に「友達旅行中なんだね」と言われ、俺はびっくりした。

「なんで知ってるんですか?」

「え? インスタで見たよ。この辺の学生であの子を知らない人いないでしょ。ハワイの写真アップされてたよー」

 この先輩はこれまで特に雪原に興味がある素振りは見せなかったが、そんな人でも雪原のアカウントを見ているのか。

 先輩の話を聞いてから、俺はフラフラと洗い場に行きひたすら皿を片付けた。

 みんな雪原が旅行に行ったのを知っている。

 雪原とは話したことがない人でさえ旅行中の写真を見ている。

 仲がいいはずの俺は連絡が取れないばかりか写真も知らない……。

 胸の中のモヤを晴らしたくて、俺は汚れた食器をひたすら食洗機に放り込んだ。


 雪原は帰国してすぐ電話をくれた。

「いま空港! 時差ボケやばいかも……。ごめん、今日無理そうだから明日お土産持ってくね」

 無事に帰ってきてホッとしたが、帰国したのもみーんなインスタで知るのだろうな、といじける自分がいた。

 随分厚かましいことを考えるようになった自分が嫌になった。


 翌日、バイト後に雪原と久々に会った。

「ちょっと焼けた?」

「うん。日焼け止め塗ったんだけどな」

 雪原は大量のお土産をくれた。お菓子やサングラス、マグカップやアロハシャツまであった。

「買いすぎだろ……」

「これでも足りねえよ。俺の気持ち的に」

 たくさん貰ったことよりも、雪原が行く先々で俺のことを思い出してくれたのかな、という気持ちが嬉しい。

 ここ数日の鬱憤が晴れていくのを感じた。

「俺がいなくて寂しかった?」

 雪原がじっと俺を見て聞いてくる。これは冗談なのだろうか。どう答えるのが正解だろう。

「…………まぁ」

 迷った挙句、はっきりしない返事をしてしまった。けれど雪原はにっこりと笑っていた。


「彼、帰国したんだね」

 バイト中、先輩に声をかけられた。

「はい、お土産いっぱい貰いました」

 ついマウントを取るように言ってしまった。

「そう、よかったね!」

 でも先輩はなんだか嬉しそうに笑っている。

「あ、でもまたあの子が通うようになるね……」

「あの子?」

 先輩が窓際の席をこっそり指差した。そちらを見ると、黒いフリフリの服を着たメイクの濃いお人形みたいな女の子が座っている。

「なんかねえ、雪原君のことチラチラ見てるのよ、彼女」

 俺は不気味に思った。

 後から雪原にそのことを言うと、「ああ、なんかいるよね」と軽く言っていた。

 特に実害はないので、その子のことはあまり気にしていないということだった。


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