24.初メッセージ
「あ、いた」
現れたのは雪原ではなく町田だった。
「失礼だなー。あからさまにがっかりした顔してるじゃん……」
残念なのが隠しきれていなかったらしい。俺は慌てて表情を取り繕った。
「鷹也君は風邪でお休みだってさ。俺さっきメッセージ見たから伝えんの遅くなっちゃった」
「風邪って……、大丈夫なのか?」
「緑君、まずは伝えてくれてありがとう、では?」
俺はハッとして町田にお礼を伝えた。町田は「よろしい」と頷いた。
「俺の携帯から鷹也君にメッセージ送る?」
「え!? いいのか!?」
「あはは、食い気味」
急に町田がすごくいい奴に見えてきた。
「ほれ」
そう言って携帯を渡された。画面には「風邪ひいた。熱下がるか粘ったけど行けそうにない。緑に今日休むって伝えて」というメッセージが表示されている。その下に「了解」というキツネのスタンプが押されていた。これはどうやら町田の返事のようだ。
「これどうやんの?」
「緑君……まじか……」
町田が文字入力を教えてくれるが、一文字入力するのに五秒くらいかかる。
「おじいちゃんに教えてる気分……」
町田の言葉に突っ込む余裕はない。
『雪原、風邪大丈夫か?』
まずなんとかこれを送った。
「緑ですー、って書かないの?」
「あ」
俺は慌てて「八尋です」と送ろうとした。
『やひ』
「あ、途中で送ってしまった……」
町田は隣で笑っている。
「既読ついてないし、取り消す?」
「え、消せるのか……」
と言った側からパッと既読マークが付いた。
すると町田の携帯が鳴り出した。着信画面に「たかやん」と表示されている。
「すげー、俺の電話には全く出てくんないのに……」
町田がぼやいている。
「ほら、出なよ」
「えっ、お前の電話だろ?」
「あのさ……、鷹也君は君にかけてんのよ」
戸惑う俺に、町田は通話ボタンを押してから電話を押し付けた。
「緑!?」
雪原はかなり鼻声になっていた。
「体調は?」
「……結構やばい。お昼行けなくてごめんな」
「いいって、そんな」
「でも一人だろ……?」
「大丈夫。慣れてる」
「……」
すると町田が大きく咳払いをした。
「俺もいるよー! てか俺の携帯! もう終わり!」
横で叫んでいる。雪原が「うるさ……、頭いて……」と言っていた。
「明日は行きたいけどまだ何とも言えねぇ……」
「うん、無理するな。元気になったら来い」
「緑ぃ……」
「じゃあな!」
俺は町田に携帯を返した。町田は携帯を受け取ると切らずに耳に当てた。
「もしもーし、早く来ないと緑君を襲っちゃうかもね」
そう言って切ろうとすると、「ともゆきぃ!!」と叫ぶ声が聞こえてきた。町田は構わず切っていた。
「襲うって何だ? 俺とお前が戦うのか?」
俺がそう尋ねると、町田は大笑いした。俺は何が面白いのか分からない。
「いいねぇ緑君、明日も鷹也が来なかったら俺とランチしよう」
「え、やだ」
あはははは、と笑いながら町田は去って行った。
翌日雪原は復活して登校してきた。まだ鼻声は治っていないようだ。
「智幸に何もされてない!?」
となぜかしきりに聞かれた。
「携帯でメッセージを入力したのも、携帯で電話をしたのも、昨日が初めて……? 智幸の携帯で智幸に教えてもらった……?」
昨日の出来事を説明すると、雪原の顔はどんどん不服そうになっていった。
「俺と携帯の練習しよう!」
と言い出し、俺も町田にバカにされたくないので、その日から雪原にフリック入力を教えてもらうことにしたのだった。雪原は異様に嬉しそうに教えてくれた。
同じ二年でも、理系と文系は教室の場所がかなり離れている。昼休み以外に雪原を見かけることはあまりない。
しかしある日の移動教室のとき、渡り廊下の向こうから雪原を含む集団が歩いて来るのに遭遇した。
雪原を取り囲むように五、六人の男女が歩いている。雪原は俺に気づいていないようだ。
周囲の人々は雪原にしきりに話しかけているが、それには興味を示さず携帯を眺めている。ときどき声をかけてくる方をちらりと見て、無愛想に相槌を打つのが見えた。
「どしたの、緑君」
後ろから声をかけられ、俺はビクッと肩を震わせた。振り向くと町田が俺の肩に手を乗せている。
「お、鷹也君じゃん」
「なんか雪原機嫌悪そう」
町田の返事がないので横を向くと、町田は俺の顔をじっと見ていた。
「なんだよ」
「緑君がいないときの鷹也君はあんなもんだよ」
「いやいや、ほんとか……?」
俺はじっと雪原を見ていたが、携帯ばかり見てこちらを向かない。俺たちは雪原達の目の前まで近づいていた。
「鷹也くーん」
町田が俺の両肩に手を乗せて雪原に話しかけた。雪原が顔を上げる。
「あ……?」
雪原はかなり不機嫌な顔で町田を見たが、その下の俺の顔を見ると目を見開いた。
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