23.新たなクラスメイト
「ともゆきぃ!!」
「ぐえっ」
突き飛ばされた町田はソファ席に倒れ込んだ。
「緑!」
「雪原!?」
飛び込んでそう声をかけてきたのは雪原だった。
「緑、コイツに変なこと吹き込まれてないか?」
「失礼な……。変なことって具体的にどんなことか教えてよ」
町田が起き上がりながら愚痴をこぼす。
「雪原……、コイツとは本当に知り合い?」
俺は町田の方に視線を投げて雪原に尋ねた。
「コイツって……、緑君と俺はもう友達じゃんか」
町田はグラタンを頬張りながら言う。
「緑ごめん……、俺がコイツに緑が困ってたら助けるように頼んだんだ。そしたら今日早速ファミレスに連れ込んだってメッセージが来て……」
雪原は息切れしている。走ってきたのだろう。雪原は俺の隣に座った。
水を持ってきて渡すと、雪原は一気に飲み干した。
「他でもない鷹也君のお願いをちゃーんと聞いてあげたのに」
笑みを浮かべる町田を雪原は睨んでいる。
「余計なことはするな。緑に何か吹き込んでないだろうな」
「別にぃ? インスタの写真をちょーっと見せたくらい」
町田の言葉に雪原の表情が固まった。俺に見られるとまずいのか? 雪原に恋人がいるかもと思ってからずっと俺は胸の辺りがムカムカする。
「緑、何見た……?」
雪原が探るような視線を向けてきた。見られたくなかったのだろうか。
「モデルみたいなかっこいいやつしか見てない」
「えっ、そう……? かっこよかった?」
俺の葛藤をよそに雪原が照れた表情を見せた。町田はニヤニヤしながら俺たちを眺めている。
「雪原、彼女いるのか?」
俺だけ蚊帳の外の状況に腹が立ち、思わず口をついて出てきてしまった。
その瞬間、町田は大爆笑、雪原はポカンと口を開いて固まった。
「おい智幸! やっぱり余計なこと言ったんだろう!」
雪原は町田に向かって怒鳴る。俺の質問に答えずに町田に怒る姿に腹が立つ。雪原は俺の方に体を向けた。
「緑、俺に彼女はいない」
真剣な顔で言ってくる。雪原が俺に嘘をつくとは思えない。
「不倫男の修羅場見てるみたい」
町田が笑いながら口を挟んできた。
「だ、ま、れ!!」
雪原がキレている。
「雪原、なんでこんなやつに俺のこと頼むんだよ」
町田は俺たちを引っ掻き回して楽しんでいるようにしか思えない。俺の言葉を聞いてもなお、町田は腹を抱えて笑っている。
「緑ごめん……、コイツまともな所もあるんだよ。今のところ分かんないだろうけど……」
雪原が俺のことを心配してくれたのは有難いが、町田のことはまだ信用できない。
「俺、緑君のことだいぶ気に入ったわ」
「俺はお前が気に入らないけどな」
俺がそう吐き捨てても町田は爆笑していた。
バイトの準備のため一旦帰ると言うと、町田が家に来たいと言ってきた。しかし雪原が「絶対ダメ」と言って阻止した。
その日の夜、バイトを終え帰宅すると雪原から電話があった。
「今日はマジでごめん……。智幸にはよーく言っておいたから」
「匂わせって何?」
「えっ?」
バイト中もずっと気になっていたことを聞いてしまった。
「……雪原が恋人アピールしてるって……」
「智幸アイツ何言ったんだ……」
雪原のため息が聞こえてきた。
「恋人アピールなんてしてねーよ。ときどき緑といるときに、二人分のドリンクの写真とか撮ってるじゃん。あれをアップしたらみんな勘違いしてるだけ!」
俺は記憶を呼び起こした。確かに雪原はよくアイスやらフラペチーノやらを俺の分と並べて写真を撮っている。
「なんだ、そういうことか」
安堵が体中に広がっていく。
「そう!」
けれどそれは“勘違い”なのか……。
俺は安心した瞬間に再び胸がもやっとするのを感じた。
「智幸め……。もっかい釘刺しとくわ。でも何かあったら遠慮なく智幸を使えよ」
「……うん」
今までクラスの連絡ごとがあるたび、必ず雪原がフォローしてくれていた。今後は雪原に頼らず町田に頼めということか……。
雪原との距離が開いていくのを感じる。
「俺、三年生の三月にやっと十八歳になる」
俺が唐突に始めた話題に、雪原は一拍置いてから相槌を打ってくれた。
「そしたら、保護者の同意無しに携帯を契約できる」
「……うん」
「それまで待ってくれるか?」
「もちろん」
雪原は間髪入れずに力強く返事をしてくれた。
再来年の三月。それまで雪原が俺に構ってくれていたらそのときは……。
俺は決意を胸に電話を切った。
*
それからの学校生活は、昼休みだけが楽しみだった。俺と雪原はいつも空き教室で一緒にお昼を食べた。俺はバイトで持ち帰った白米とばーちゃんの作ったおかずを詰めてくる。雪原は弁当の日やコンビニで買ったものの日があった。
ある日、いつものように空き教室で待っていたが雪原が来ない。昼休みが半分過ぎようとしている。もしかして雪原は休みなのかもしれない。
俺とは学校で連絡が取れないから、こういうこともあるよな……。
分かってはいるが、一人教室で待つしかできない自分が虚しかった。
待つのは諦めて弁当箱の蓋を開ける。
すると教室のドアが開く音がした。俺は急いで振り返った。
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