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22.新しいクラス

 二年四組は男女比九対一のクラスである。男子が増えるとこうも騒がしいのか。俺はクラスを見渡し、ため息をついた。

 二年にもなるとクラス替えの時点でグループが出来上がっている。雪原しか親しい人がいない俺はもちろん一人だ。

 俺が携帯を持っていないという噂は結構広まっているらしく、最近は連絡先を尋ねられることがほとんどない。

 俺はクラスの置物のように初日を過ごしていた。

「ねえ君、携帯持ってないってほんと?」

 休憩時間に突如俺の眼前に顔を近づけて、話しかけてくる奴が現れた。

 吊り目で癖毛、背の高いそいつはポケットに手を突っ込んだまま俺をじっと見てくる。

「持ってない」

「ほんとにぃ? 困んないの?」

 失礼ではあるが、馬鹿にしている雰囲気はなさそうだ。俺は「困るけど、家庭の事情だし」と若干迷惑そうな雰囲気を出しながらボソボソ答えた。

「そっか。悪いこと聞いてごめんね」

 そいつは頭を掻きながら謝った。悪い奴ではないのかもしれない。

「俺は町田智幸。ともゆきかともって呼んで。よろしくー」

 そう言って手を差し出されたが、握手をする習慣のない俺は町田の手と顔を見比べ固まった。

「なになに、警戒すんなよ!」

 町田は豪快に笑った。俺は手を無理やり掴まれ肩をバシバシと叩かれた。


 始業式を終えた帰り際、俺はまた町田に絡まれた。

「みどりくーん」

 失礼な上に馴れ馴れしい。名前で呼ぶことを許可した覚えはない。俺は嫌そうな顔で振り返った。

「おーおー、嫌そう。おしゃべりしようよー」

 肩を組んでくるのでさっとその手を振り落とした。その際に町田の背丈は雪原と同じくらいだな、と思った。

「冷たいなあ。ところで、緑君は鷹也君とどういう関係?」

 突然雪原の名前が出てきたので、俺はぎょっとして町田の顔を見た。町田はニヤリと笑っている。

「みんな不思議に思ってるよ。あの愛想悪い鷹也君がニコニコ付き纏う緑君。携帯持ってないって言うからどんな人かさっぱり分かんないし、興味あるなぁ……」

 目を細めジロジロ見られて、俺は眉を顰めた。やはりいい奴ではないかもしれない。

「別に。普通に友達」

 俺はそう言って帰ろうとした。

「鷹也君のインスタ、見たくない?」

 俺はぴたりと足を止めた。雪原のインスタは見てみたい。雪原以外に親しい人がいない俺は、今まで雪原のSNS関連のものを見たことがない。本人に言えば見せてくれるだろうが、気恥ずかしくて言うことができなかった。

「今から遊びに行こうよ」

 迷っていると再び町田が肩を組んできた。今日のバイトは六時から。まだ十分時間はある。

「じゃ、行こっか」

 俺は町田に誘導されるがまま、フラフラと着いていってしまった。


「え、ココ?」

 連れて行かれたのは俺のバイト先のファミレスだった。

「何? 近所?」

 町田はニコニコしながら聞いてきた。

「……まぁ」

 俺のバイト先と知っているのかいないのか、食えない奴だ。中に入るなりバイトの先輩が俺を見て「あれ、八尋君?」と言った。

「今日六時からです! 知り合いに連れてこられて……」

 と弁明する羽目になった。

「ここ、緑君のバイト先か」

 町田が席につきながら言った。

「……本当に知らなかったのか?」

「さぁねー」

 喋れば喋るほど胡散臭い。町田は座席のタブレットでメニューを開いた。

「俺はいらない」

「あ、そう?」

 町田はタブレットで何かを注文すると、自分の携帯を取り出し操作を始めた。

「お前は雪原の知り合いなのか?」

「んー、まぁそう。小学校から知ってる。勇也君もね」

 町田は俺の質問に携帯から顔を上げずに答えた。

「あった、コレコレ」

 町田が差し出した携帯の画面いっぱいに雪原が写っている。

 雪原はジャケットを緩く羽織り、髪を一つにまとめている。遠くを見つめるその顔が切り取られていた。

 どこかのスタジオで撮影したのだろうか。モデルの手伝い、と言っていたのがこれかもしれない。雑誌の一ページのようだ。テレビで見るような、俳優が出ている広告と遜色ない。

「キラッキラのお目目で見てるじゃん……」

 町田の言葉に慌てて画面から目を離した。

「これ、一万いいね付いてるんよ」

「一万?」

「鷹也君のこの写真見て、かっこいいなー好きだなーって思った人が、一万人」

 俺は唾を飲んだ。SNSをやっていない俺でも、一万いいねがすごいことは分かる。雪原が急に知らない世界の人に思えた。

「鷹也君、高校入ってからめっきり顔写真の投稿が減ってさー」

 そこで町田が頼んだ海老グラタンが到着した。

 町田は食べ始めると話を続けた。

「最近は匂わせ投稿ばーっかり」

「匂わせ?」

 町田は海老をむしゃむしゃと食べ、勿体ぶって話す。

「恋人アピールみたいなさぁ」

「恋人……?」

 俺が知らないだけで、もしかして雪原には恋人がいるのだろうか。体が冷えていくのを感じた。俺とばかり一緒にいると思っていたが、俺といない時間だってたくさんある。そのとき雪原が何をしているか、俺には知る術がない。

 そのとき、ものすごい勢いで誰かが町田目掛けて走ってきた。


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