21.クラス替え
年が明け、三学期が始まるとすぐに進路希望の紙が配られた。
「緑って理系? 文系?」
雪原はどれだけ席が離れても休憩時間になると俺のところにやってくる。
「理系に行くつもり」
そう答えると、雪原が絶望的な顔をした。
「俺理系は無理だって!」
「なんで俺に合わせるんだよ」
苦笑しながらそう言ったが、雪原の顔は深刻だ。
「理系と文系じゃ同じクラスになれないじゃん……」
そうなのだ。二年生からは理系と文系のクラスが分かれる。雪原が文系なら俺たちが同じクラスになる可能性はない。
「仕方ないだろ」
雪原とクラスが別れるのは俺だって嫌だ。携帯がない俺は学校で雪原と連絡が取れないし、校内で会う機会は激減するだろう。
けれど、だからと言って進路を雪原に合わせるのは違う。
「緑のバカ……」
雪原は俺の机に突っ伏してしまった。
「お前ら、カップルみたいな会話だな」
隣にいたクラスメイトに笑われた。
「カッ……」
否定しなければと思うが言葉が出ない。
「うるせー、俺にとっては死活問題なんだよ!」
雪原が顔を上げ怒鳴ったので、クラスメイトは「怒んなよ……」と笑っていた。
さっきの会話はカップルみたいなのか……。
恥ずかしいが、雪原が離れたくないと思ってくれていることは素直に嬉しい。
しかし同じクラスもあと二ヶ月ちょっとか……。
チャイムと共に席に戻る雪原を、俺は小さなため息と共に見送った。
その日の夜、雪原から電話がかかってきた。
「緑、本当に理系にいくのか?」
「うん、情報処理系の仕事に進みたいと思ってる」
俺はこれを誰かに言うのは初めてだった。
「なんか理由があんの?」
「……俺、携帯持ってないからその反動かも。パソコン詳しい人になりたい。あとプログラミングの授業が一番好きだし」
笑われるかと思ったけど、雪原は黙って聞いてくれていた。どんな表情をしてるのだろう。
「すごいちゃんと考えてるじゃん……。俺はまだ分かんないや。たまに手伝ってるモデルの仕事は楽しいけど……」
「え!? お前モデルとかやってんの!?」
あまりにも雪原のイメージにハマりすぎてつい興奮してしまった。
「いやいや、知り合いの店の服着てネットに上げてるだけだから!」
見たい。携帯があればすぐ見れたのだろう……。俺は歯軋りした。
「それはいいからさ、緑は大学どーすんの?」
「……うちの家計じゃ厳しいから、奨学金借りて専門行こうと思ってる」
ばーちゃんは寝てると思うが、聞こえないよう声を落とした。きっと聞いたら子どもが学費の心配なんてするな、と言い出すだろう。ばーちゃんは学費がどれだけかかるか知らないのだ。
「それって家から通える?」
「うん、ちょっと遠いけど家は出れないし……。通学頑張るよ」
「そっか」
何となく、安堵したような声に聞こえた。
「雪原は?」
「俺は私文かなー。それしか無理そう」
「出た。金持ちの余裕」
俺は笑いながら揶揄った。雪原も笑っている。
「俺、卒業しても緑に構うから」
「俺らまだ一年じゃん……。一体何の宣言だよ」
俺は笑っていたが、雪原の宣言に胸の奥がじんとした。雪原とクラスが分かれたら、携帯がない俺はきっと孤立するだろう。けれど、その言葉で乗り越えられそうだ。
「……あと二年頑張れそう」
俺は小さな声で、そう言った。
「うん、俺も」
電話を切ったあと、俺はしばらく受話器を握りしめていた。
雪原と出会った一年間はあっという間に過ぎて、俺は理系の二年四組、雪原は文系の二年八組に進学した。
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