20.大晦日
クリスマスから数日後の大晦日の日。今日はバイト先が十八時閉店で、俺は「良いお年を」と言って今年のバイトを終え帰宅した。
家に着くとばーちゃんが台所で正月料理を下ごしらえしていた。
俺はこたつに入りテレビをつける。特番ばかりで、流し見ながらテーブルに伏せた。
「そうだ。たかやくん、もうすぐ来るってよ」
俺はガバッと顔を上げた。ばーちゃんが料理をしながら言った言葉を、俺は最初聞き間違えたと思った。
「え?」
「たかやくん来るんでしょ?」
そんな約束をした記憶はない。
「もしかして……、電話来た?」
「そうよ。たかやくん、緑ちゃんのバイトが終わったら来るって言ってたよ」
俺が慌てふためいているとインターホンがキンコンと鳴った。
覗き穴の確認もせずドアを開けるとそこには雪原がいた。
「おじゃましまーす」
何も許可していないのに、外の冷たい空気と共に勝手に上がり込んでくる。
「たかやくんいらっしゃい」
ばーちゃんは嬉しそうだ。
「俺聞いてないんだけど……」
「おばあさまに伝えた」
雪原はにっこり笑ってこたつに入り込んだ。
「初詣行こうな」
笑顔でそう言われて、俺は驚いた。
「年越すまでいるのか? 家族といなくていいのか?」
「うん、うちは自由だから」
「そういうもんなのか……」
俺は家族以外と年を越すのは生まれて初めてだ。雪原がまるで家族の一員になったみたいで、俺は気持ちがふわふわして落ち着かなかった。
俺はみかんやお菓子を出したり、寒くないか聞いたり、ずっと落ち着かない。雪原はずっと楽しそうだった。俺もばーちゃんも俺たち以外の人がいる正月は久々で、もてなそうと張り切りすぎたかもしれない。ばーちゃんは十回くらい餅を勧めていた。
結局ばーちゃんは年越し前に就寝してしまった。
二人でテレビを見ていると、カウントダウンが始まった。かすかに除夜の鐘が聞こえる。毎年、年越しの瞬間はばーちゃんは寝てることが多くて、いつも俺一人でテレビを見ながら静かに迎えていた。
今年は隣に雪原がいる。
お菓子を食べながらだらだらテレビを見ているだけなのに、楽しくて仕方ない。
テレビのカウントダウンは佳境に入っていた。
『3、2、1……、ハッピーニューイヤー!』
あけましておめでとうという大きなテロップが流れる。
「おめでと」
雪原の言葉に俺も「おめでと」と返した。照れ臭くて目を逸らしてしまう。
雪原がテーブルに置いている携帯には、「新着メッセージ」と「不在着信」の表示がいくつも浮かんでは流れていた。
「なんかすげー通知来てるみたいだけど……、返事しないのか?」
「どうせみんなあけおめって言いたいだけだからいいんだよ」
「へぇ……、年明けってみんな連絡取り合うんだな」
いいなぁ、と口から出そうになったが飲み込んだ。いつでも好きなときにメッセージが送れるのは正直羨ましい。携帯があれば、年越しもきっと寂しくないだろうな、と思ってしまった。
「でも百回メッセージしたり電話するより、一回会う方が破壊力あるよ」
雪原がこたつに伏したまま、上目遣いで俺を見て言った。
「破壊力?」
雪原の手が伸びてくる。
「うん」
雪原が俺の前髪をひと束掬った。目と目が合って、見つめ合う。俺の顔がじわじわと赤くなってきたような気がした。
「な、何だよ……、何か付いてる?」
「……かわ……、いや、何でもない」
「皮?」
雪原は手を引っ込めるとこたつに突っ伏して顔を隠してしまった。
「何なんだよ」
「……初詣行こうぜ……」
伏したままの雪原からくぐもった声が聞こえる。
「え、今から?」
「年明けたじゃん」
雪原は立ち上がるとさっさとジャンバーを羽織り出した。
「ほら、緑も上着着て」
俺も慌ててジャンバーを着て、年が明けたばかりの夜道に繰り出した。年明けの空気が肌を刺す。
喋ると息が白くて、そんな雪原をずっと見ていたくて、俺はいつもよりゆっくり歩いた。雪原も歩調を合わせてくれているようだった。
近くの神社に着くと、境内には数十人並んでいた。俺たちも列に並ぶ。
スムーズに列は流れて、すぐに賽銭箱の前までやって来た。
ポケットに入れていた五円玉を放り込み、パンパンと手を打ったあと手を合わせる。
――今年も雪原が仲良くしてくれますように。
お礼をして横を見ると、雪原はまだ手を合わせていた。目を開いた雪原は俺を見て笑った。
おみくじは俺が中吉、雪原が小吉という微妙な結果で、俺が結びつけた枝に雪原も並べて結びつけていた。
「お、甘酒売ってる。緑飲む?」
「え? 酒って飲んでいいの?」
雪原が口を押さえて震えている。
「何かバカにしてるだろ!」
俺が雪原の手を顔から引き剥がすと、雪原は爆笑していた。
「俺が買うからちょっと飲んでみてよ」
そう言うからには未成年が飲んでもいいものなんだろう。
雪原が買ってきた甘酒の紙コップを差し出す。少し口に付けてみる。
「……甘い。団子を溶かしたみたい」
雪原はニコニコ俺を見ている。
「全部飲む?」
「んー、全部はいらんかも……」
紙コップを返すと、雪原は残った甘酒を飲んでいた。俺が飲んでいた所に口が付いたんじゃないかと、つい口元ばかり見てしまう。体が熱くなってきた。
「それ、ほんとにアルコール入ってないよな?」
「ないって」
雪原はクスクス笑っている。
甘酒は甘くて熱かった。
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