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18.12月24日①

 この頃ファミレスのメニューはシチューやチキン、ブッシュドノエル風ケーキなど、クリスマス一色になっている。

 そういったイベントに興味のない俺は、教室で淡々とクリスマスメニューのレシピのメモを見て復習していた。

「それでさ、やっぱクリスマスは今までで一番盛り付けが面倒で……」

 教室で雪原にバイトの愚痴を溢していると、雪原が何か言いたそうにしている。

「24日はバイト?」

「え? もう冬休みだよな。それって何曜日?」

 雪原は携帯のカレンダーを見た。

「木曜日」

「じゃたぶんバイト」

 雪原がじっと俺を見てくる。

「何?」

「その日バイトの後会える?」

「別に大丈夫と思うけど、何かあんの? 夜遅くね?」

 雪原は笑い出した。

「な、何だよ……」

「いや、予定ちゃんと覚えとけよ」

「分かった」

 俺がメモ帳の端に「24日、雪原」と書いたのを見て、雪原はなんだか満足げな顔をしていた。


 *


 十二月二十四日、俺はこの日を舐めていた。

 この日はバイトを始めて以来、最も客が多かった。チキン、チキン、ピザ、ピザ、ケーキ、ケーキ……、どれだけ出しても終わらない。

 退勤時刻の十時が迫ってもオーダーが山のように来る。退勤していいものか躊躇していたが、

「高校生でしょ! 十時過ぎたらまずいから帰って!」

 とバイトリーダーに言われて申し訳なく思いつつバイトを終えた。

 急いで着替えて外に出ると、マフラーに顔を埋めた雪原がいた。

「ごめん、寒かっただろ」

「すげえ人だな。入ろうかと思ったけどやめた」

「うん、やばかった」

 今日何をするかは聞いていないが、雪原が持っているものが気になった。

「それケーキ?」

 雪原の持つ箱は明らかにケーキの箱だ。

「うん、買ってきた。ちっさいやつ。緑ん家で食べれる?」

「いいよ。ばーちゃん寝てるし寒いけど……」

 雪原はこれがしたかったのか。嬉しそうな雪原を見ると寒さが吹き飛んだ。俺たちは家に向かって歩き出した。

「彼女作んなくてよかったのか?」

 ふざけて言ったつもりだったのに、雪原はムッとした顔をした。

「緑と過ごしたかったんだよ」

 真っ直ぐに言われて、俺は答えに窮した。

 雪原は俺を気に入っている。

 自信過剰だとは思うが、これは間違いないと思う。

 これまでの雪原の俺への態度を鑑みると、雪原は俺のことがとても好き……、少なくとも気に入っているように思える。

 しかしその気持ちがどういうものかはっきり分からない。

 これが男女ならとっくに付き合ってるのではということが何度もあった。

 でも俺は男で雪原も男だ。お互いにそれは分かっている。

 俺は自分の雪原に対する気持ちが何なのか実はよく分かっていない。

 雪原の顔も性格も好ましく思っている。近づいたり優しくされると心臓がキュッとなる。

 けれどこれが生まれて初めての感情なので、優しくしてもらって懐いているだけなのか、友人同士の親愛なのか、分からないのだ。

 相談相手もいないので、もし雪原に何か言われたらその時考えよう、といつも答えを先延ばしにしてしまう。

 雪原は鼻歌を歌いながら俺の横を歩いている。クリスマスイブに、俺とケーキを食べるのがそんなに嬉しいのか。俺も嬉しいよ。と口には出せず、下を見て微笑んだ。

 家にはあっという間に着いた。

 隣室のばーちゃんを起こさないようにそっと家に入る。

「おじゃましまーす」

 と雪原が小声で呟いていた。

「なんとシャンメリーもあります」

 雪原が顔の横にボトルを掲げてキリッとした表情をした。俺は「うちにはマグカップと湯呑みしかないのに」と笑って言った。雪原も笑っていた。

 俺の家にある渋い食器にケーキを切り分け、マグカップにシャンメリーを注ぐ。ケーキはばーちゃんの分を残しておいた。

 こたつに入って「メリークリスマス」と乾杯をした。シャンメリーをぐいっと飲んでみるととても美味かった。

「これ美味いな……! 酒は入ってないんだよな?」

「入ってねーよ! お子様向けシャンパン」

 雪原はテーブルの上の写真を撮っている。しれっと俺の写真も撮られた気がする。

「あれ、めちゃくちゃいいじゃん」

 雪原が指差したのはコルクボードだ。雪原に見せるつもりはなかった物なので、俺は赤面してしまった。

「あっ、そ、そう、こればーちゃんが喜ぶから!」

「ほんと? よかったー」

 雪原のふわりとした笑顔を見て、俺はシャンメリーを飲み干した。

「俺と緑だけ……へへ……」

 雪原がコルクボードを見て呟いた。ノンアルコールのはずなのに、体が火照っている。

「映画でも見る?」

 雪原の提案に、俺は首を傾げた。

「今? 映画館空いてる?」

 すると雪原が笑い出した。

「ごめん、違う違う、俺の携帯で見れるから。好きなの選んでよ」

 雪原が見せてくれた携帯の画面には、ずらりと映画のパッケージが並んでいた。

 俺は絶対真っ赤になっていると思う。

「どれがいい?」

 こたつの向かい側に座っていた雪原が、俺の隣に無理やり入ってきた。かなり狭く密着する。俺は心臓が跳ねて、もうこたつを切っていいんじゃないかと言うくらい体が熱くなった。


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