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15.文化祭準備

秋になると今度は文化祭一色になった。

 クラスの出し物が「コスプレ写真館」に決まった時、女子からは歓声、男子からはブーイングが湧き起こった。

 携帯を持たない俺には全く縁のない出し物と言っていい。しかしもともと学校のイベントに期待をしてないので、俺は議論を横目で見ていた。

 コスプレと言っても耳がついた被り物やカツラ、羽織るだけの衣装が用意された簡単な物だ。”映える”背景を三パターンほど用意して、撮影係が撮影するという内容に決まった。

 俺と雪原は小道具係になった。準備は放課後に行われるため、この期間俺はバイトの入り時間を遅らせてもらうことにしていた。

 準備と言ってもほとんどが買い物なので、まずは量販店に買い出しに行くことになった。小道具係の他のメンバーは男子一名と女子三名で、俺たちを合わせると六人いる。

 みんなでぞろぞろと近所の量販店まで歩いて行った。耳付きカチューシャや着ぐるみのような帽子、カツラやマントなど、予算を確認しながらカゴに放り込んでいく。

 俺はこの店舗に来るのは初めてで、キョロキョロと店内を見渡していた。

「ウェットティッシュとかガムテープとマーカーもいるって! 男子で探してきてくれない?」

 女子にそう言われて、俺含む男子三人はその場を離れた。

 俺と雪原以外のもう一人の男子メンバーである坂本君は黒縁メガネでいつも携帯ゲームをしている。俺たちと特に仲がいいわけではないが、好きなゲームキャラのカツラを採用したいという理由で小道具係に立候補したらしい。

「ガムテープ、マーカー、どこだ……?」

 坂本君は俺たちを置いてずんずん進んでいく。

「おーい、坂本、待てって。速いよ」

 雪原が大股でついていく。コイツ、足が長い……と思いながら俺はさらにその後ろをついて行った。

 視界の端にマーカーが見えた気がして俺は立ち止まった。近寄ってみるとそれは化粧品だった。がっかりして振り返ると、誰もいなかった。

 俺は焦って近くを歩き回った。

 俺がはぐれてしまうと大変な迷惑がかかる。携帯がない俺は連絡が取れないので、子どもが迷子になったのと同じことだ。

 歩けば歩くほど今どこにいるのか分からなくなる。途方に暮れて店外に出ようとするが出口も分からない。

 歩いているうちに随分時間が経ってしまった気がする。

 俺はみんなが先に戻っていてくれることを祈った。俺を探すのに時間を使って欲しくない。ここから学校まで戻る道はよく分からないが、最悪その辺の人に聞けば何とかなるだろう。

 頭を抱えていると、店内放送が鳴った。

「やひろみどりさん、やひろみどりさん、レジ横でお友達がお待ちです」

 俺はずっこけそうになった。

「やひろみどりさん、やひろみどりさん……」

 繰り返す放送を耳に、俺は必死にレジを探した。途中店員を見つけたので捕まえて場所を聞き、駆け足でレジを目指した。

 レジが視界に入ると、その横に笑顔でヒラヒラと手を振る雪原がいた。

「緑! よかったー」

「俺が悪かったけどさあ……! お前、店内放送って……」

 息を切らしながら抗議するが雪原は笑っている。

「大丈夫! 他の奴らは先に帰したから聞いてないよ!」

「そこじゃねぇ……」

 でも確かに他の人に聞かれてネタにされるのは嫌なのでまだマシなのかもしれない。

「俺が見捨てて帰るわけないだろ?」

 雪原は俺を見てウインクした。悔しいがウインクが似合っているし、雪原が待っててくれるかもしれないと思っていたのは事実だ。

「……帰ってて良かったのに」

 また素直ではない一言を返して、俺は礼を言いそびれてしまった。

「さ、戻ろ」

「おう……」

 それから俺たちは二人並んで学校へ帰って行った。


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