11.打ち上げ
打ち上げは焼肉だった。
雪原は俺が断るのも聞かず家まで迎えに来てくれた。このとき祖母は初めて雪原と直接対面した。
「まー! どこの俳優さんかと思ったら、あなたがたかやくん!?」
と、いたく感激していた。祖母が何度も同じことばかり言うので俺はヒヤヒヤしたが、雪原はちっとも嫌そうな素振りを見せなかった。
雪原が迎えに来てくれたおかげで迷うことも悩むこともなく俺は打ち上げ会場まで行くことができた。
雪原が店に入ると女子達が騒ぎ、男子達は「出た、イケメン!」「そこ、撮影禁止でーす!!」と囃し立てた。雪原は笑っている。
俺たちは男子が集まるテーブルを選び、並んで座った。
俺は焼肉屋に来るのは人生で二、三回目だ。注文用のタブレットを見ても何も分からず全て雪原に任せた。到着した肉は全て雪原が焼いてくれる。
「雪原、マジで八尋の保護者じゃん」
と周囲に笑われたが、雪原は「そうでーす」と返していた。俺は保護者と言われたことが恥ずかしく俯いたが、「いつもすげー助かってる」と呟いた。
「いやー、張り切っちゃうな」
と雪原は大量の肉をせっせと網に乗せた。
周りの男子達は俺が携帯を持っていないことを改めて突っ込んできたりはしなかったが、彼等の話す流行のネタや携帯のゲーム、動画の話になると俺は付いていけなかった。そんなとき雪原は俺のお皿に食べ物をどっさり載せた。
「これ、美味いから」とか、「これ食ってみて」と俺が大人しくなると決まって構ってくれた。
食べ放題の時間が終わり店から出ると、近くの海で花火をしようという話になった。時刻は八時で辺りはもう真っ暗だ。
量販店で花火を買い込み、みんなで海辺へ走った。
俺と雪原は防波堤に並んで座り、二人とも棒アイスを食べている。
さっきは食事をしていたので携帯を触る人は少なかったが、海での花火は皆こぞって写真に収めている。雪原も俺と自分のアイスを並べて写真を撮っていた。
夜の海辺に、花火と携帯の画面がいくつも浮かんでいる。
「みーどり」
「ん?」
パシャリ。
雪原に写真を撮られた。
「な……、俺撮って楽しいのかよ」
「めちゃ楽しい」
そう言って今度はインカメラでツーショットを撮った。
溶けたアイスが手を伝ってくる。俺は少し間を置いて口を開いた。
「なんで……」
雪原の方は向けない。こちらをじっと見ている気がする。
なんで俺にそんなに親切にしてくれるのか、俺とずっと一緒にいるのか、俺はそう聞きたかった。
「鷹也くーん!!」
そのとき、女子の集団がこちらにやって来た。
「写真撮ろうよ!」
「お願い!」
雪原は立ち上がった。
「ごめん! ヤダ!」
雪原がそう叫ぶと、「やっぱだめかー!」と女子達は爆笑していた。女子達が怒り出さず俺はほっとした。
「花火しようぜー」
女子が去ると雪原が花火を取りに行ったので、俺は慌てて残りのアイスを頬張った。
花火を振り回して笑う雪原は、あいつ自身が発光しているように見えた。
この一瞬を写真に収めたかったな――。
俺はこれほど切実に携帯が欲しいと思ったのは初めてだった。
*
体育祭が明けた登校日、俺が登校すると雪原がニコニコと封筒を手渡してきた。
「何?」
「開けてみて」
封筒の中は紙のようなものが数枚入っている。取り出してみるとそれは写真だった。
「体育祭の写真。俺が撮った分と、母親が撮ったのに緑が何枚か写ってたからそれも現像した」
俺は一枚一枚じっくり目を通していた。写真は全部で十枚ほどある。アイスを食べているツーショットの写真ももちろんあり、最後は花火を持って笑う俺の写真だ。
俺は食い入るように写真を眺めた。
「わざわざ現像してくれたのか……! ありがとう……。現像代払うよ」
「いいって! そんなん、一枚何十円だよ!」
「いや、でもいつも……」
――貰ってばかりで、お前に返せるものがない。
俺は言葉に詰まる。ぐっと下唇を噛むと、俺をじっと見ていた雪原が口を開いた。
「じゃあさ、今度フラペチーノ奢ってよ」
俺は顔を上げた。
「雪原……、ありがとう」
雪原の顔に満面の笑みが広がった。俺は写真を見ながら一枚ずつ丁寧に丁寧に封筒に戻し、鞄の前ポケットに厳重に仕舞った。
*
俺はその日、百均に寄って帰った。一番大きなコルクボードを購入し、自宅の電話台の隣に設置した。
そこに雪原がくれた写真を一枚ずつ見返しながら全部ピンで留めていく。留めた後、腰に手を当てて出来栄えを確認した。俺の顔と雪原の顔がたくさん並んでいる。
俺も雪原もすげえ楽しそう……。
全ての写真で二人は笑っていた。写真を見ると各場面がありありと蘇る。
祖母はその写真を見て大いに喜んでいた。
「たかやくんは本当にいい子ね」
と、しきりに口にするようになった。
俺は電話台の前を通るたびに笑顔の雪原を眺め、自分も自然と笑顔になっていた。
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