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イディアハルモニア  作者: 金柑


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第6音「支えるという事」



お茶の水〜お茶の水〜



何故俺はここにいる??


夏の日差しが強くなって来た今日。


講義もないので、たまにはゆっくり釣り堀にでも行こうと思っていたのに。



「せ、先輩、早いですよ〜」



小さな身体に不釣り合いな

チューバを担いだ木下さんと

何故かお茶の水にいる。


俺は確か、

市ヶ谷の釣り堀に向かっていたはず?


せっかくビールとつまみも用意したのに…



ーーーー


今日は早く授業が終わったし、

チューチューバのメンテナンスに行こうかな。


少しバルブの動きが悪く感じるし、一応自分でやってみたけど…


お小遣い足りるかな?



私は電車に乗って、

お茶の水の楽器屋さんへ向かった。



チューバ、大きいから…


邪魔にならないようにしないと…



ふう。



あ、岬先輩!…岬先輩?



な、なんか普段の熱い先輩とは違って、


随分とのほほんとした表情…



ど、どうしよう…


挨拶しないのも失礼だ、よね…



「あ、あの、せ、先輩。お疲れ様です」



急に話しかけたからビックリさせてしまった。



「え、お、木下さん!?」





私は人と話すのが怖いです。



変な子だと思われたり


相手を傷つけてしまったら


気の利いた話をしないととか考えていると


言葉が出てこなくなる。



そうしていると、みんな私から離れていく。


……


私は傷つくのが怖いです。



だったら、話さなければ良いんだ。


そしたら、傷つかない。


……


私は自分が嫌いです。



でも、変わりたい。


私はわがまま。


……


先輩はこの間私のチューバを褒めてくれた。


先生なんて呼ばれた♬


初めて!私の話を真剣に聞いてくれた人!!


両親だって、

何考えてるか分からないって言うのに。


……


「あ、あの、先輩も、お、お茶の水ですか」


先輩のケース、指揮棒だよね?


「あ、いや、俺は…」


……


いきなり私なんかに話しかけられたら、

そりゃ困るよね。笑


先輩も用があるんだろうし


「そ、そうなんだ。教授にもらった指揮棒がなん

 か合わないなって思ってさっ」



先輩あたふたしてる、どうしたんだろう?


でも、それなら!!


私がんばれ



「そ、それでしたら、ご、ご一緒に楽器店へ、

 い行きませんか?」


私は勇気を振り絞って先輩を誘った。


「おっ、おう。一緒に行こうか」



やっぱり先輩は優しい!!


……


私達は取り留めのない話をしながらお茶の水へと向かった。


途中市ヶ谷駅で、先輩が寂しそうな顔をしていたけど、何かあったのかな?



アナウンスが流れる。


お茶の水〜お茶の水〜


……



先輩、歩くの早い!


いや、私がチビだからか。笑


改札前に先輩を発見した。



「せ、せんぱ〜い。早いですよ〜」


「あっ、悪い悪い」


「い、いえ、せ、先輩はお茶の水に、よ、よく来

 られるのですか?」


「下の方にはスポーツ店が多いから

 よく来てたけど…この辺は初めてだな」


「そ、それでしたら、

 わ、私がご案内しますね!」



「お、助かるよ!!」


「先生、よろしくお願いします!!」




また、先生だって。嬉しいな♬


先輩に喜んでもらえるように頑張ろう!!


それから私達は何店舗かお店を周り、

最後にメンテナンスのお店迄辿り着いた。


その間も先輩は私なんかの話に

しっかりと耳を傾けてくれていた。


やっぱり、先輩は優しい。



……


小学校の頃、

吹奏楽部で私はホルンを演奏していた。


色々な音を繋ぐ中継役。


みんなの役に立っているようで、嬉しかった。


ある日、他のホルンの子に。


「みつみちゃんのメロディは

 なんか遠慮してるよね」


「なんか合わせづらいよ」


って、言われた。


確かにメロディラインになると、オドオドしてるのは分かってた。


元々、遠慮がちな私は主旋律になると自分の音を表現するのが苦手だった。




まだ、この頃は大丈夫だったけど。



先生に


「木下さん、チューバをやってみない?」


って言われて楽器を変えた。


私は部活に一人しかいないチューバに選ばれた事が嬉しくて、

みんなを支える音を、誇らしく思っていた。



これが良くなかったんだな。



チューくんと出会えた事は今でも誇り!

大好き!!


だけど、一人しかいないチューバ。


主旋律より支える音。


私はどんどん、内に籠るようになっていった。


いつしか、人と話をする時も、どもってしまい


伝えきる前に煙たがられるようになった。


……


だけど、私の音がないと音楽が成り立たないのは分かっていたから、

どんどんチューバの練習を続けていった。



楽しかった、上手くなる自分が嬉しくて。



それに応えてくれるチューくんがもっと大好きになった。


その結果


どんどん、人と話せなくなり、


そして、一人ぼっちになった。



ううん、1人ぼっちを選んだんだと思う。


楽だったから。



……


チューくんのメンテナンス中、

キョロキョロとしている先輩に聞いてみた。


「先輩、指揮棒は良いんですか?ここ指揮棒も

 見てくれますし、地下には新品も売ってます

 よ!?」


「あぁ、大丈夫」


「一回教授と相談してみてからにしようって

 思ってさ!!」


「そうなんですね、すいません

 お待たせしてしまって」


「いや、大丈夫だよ、俺も楽しいし」



良かったぁ、メンテ待ちで申し訳なくて。



ねぇ、先輩は優しいね。





「せ、先輩、き、今日はお付き合い、

 いただきありがとうございました!!」



メンテナンスの終わった私達はカフェでお茶をする事にした。


お礼に私に奢らせて下さい!って言ったのに、


後輩が生意気だって、奢られちゃった。



ねぇ、本当に先輩は優しいよね。




「ご馳走にまでなってしまって」


「あ、ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げた拍子に先輩の指揮棒ケース?に水をこぼしてしまった。


「あ、あぁ、す、すいません先輩」

「す、直ぐに拭きますので、中身出して下さい。

 湿気でダメになっちゃいます」


私は先輩にご迷惑をかけてしまったと思い、必死に謝った。


「い、いやそのこれはね」


先輩が気まずそうに



「実は、釣り竿なんだよね…笑」



「へっ…」



「今日本当は、市ヶ谷の釣り堀に行こうと

 思ってたんだよ」


「だけど、せっかく誘ってもらったし、

 楽器屋なんて今まで行った事なかったからこれ

 からの為にもって思ってさ」


先輩は「大丈夫」「ごめんごめん」とか言いながら笑ってる。



……



嘘。


断ろうとすれば断れたんだ。


それなのに私に気を遣って…



……



帰り道


電車の中でも平謝りを続ける私に、


「しかし、

 木下さんは本当に音楽が好きなんだね。」


「音楽の事になるとなんて言うか、

 情熱が違うな!うん」


「そ、そうでしょうか?」


「普段とのギャップに驚くけど…」

「それだけ音楽に真剣に向き合っているんだなっ

 て、…尊敬します先生。笑」



先輩は優しい、それは知ってる。


けど…


……


電車のアナウンスが聞こえ、学校の最寄り駅まで到着した。



夜道危ないからって途中迄送ってくれるって。


家の近所の公園迄来た時に


……


私は、


私は、聞いてみた。


「せ、先輩、先輩はなんでそんなに優しく

 私に接してくれるんですか?」


「??」



「わ、私は、人と話をするのが怖いです」


「人からの評価が怖いです」


「人を傷つけるのも傷つけられるのも怖いです」


……


「木下さん…」


「私は、先輩の優しさを利用しました」


「練習の時にこの人は私を傷つけない」


「話を聞いてくれる人だって」


……



やだ、泣きそう…


今日だってそうだよ。


指揮棒にしては長いなって思ってたし。


興味ないだろうなって思いながらいっぱいお店回ってたし。


先輩がお茶奢ってくれるって時もラッキーって思ってたし。


……


「わ、私は…卑怯なんです」


「傷つくのが怖いとか言いながら、

 誰かに甘えたくて、

 それでいて否定はされたくないし、

 肯定されても素直に認められないし…」



なんかめちゃくちゃだ、感情が止まらない。


ひとしきり喚いたのを見計らって

先輩が静かに話し始めた。



「俺さ、ゴールキーパーだったんだよ」


「ゲームの流れを見極めて、

 あっ、今あいつ前に上がりたいのかなとか

 左サイドが薄くなるから戻さないとって

 考えながら指示を出すんだ」


忘れられた子供用のサッカーボールを見つけた先輩はリフティング?だっけ。

それをしながら話を続けた。


「縁の下で支えるって感じかな」




「それでも、従ってくれるとは限らない」


「俺の指示が違うと思ったら言う事なんて

 聞いてくれないんだ」


……


私は鼻水を垂らしながら先輩の話を聞いた。


しばらくリフティングを続けていた先輩はボールを置いた。


「いてて、まだ無理か」


……


「ごめん、木下さん。

 俺もちゃんと話してなかった」


「…」


「俺はすぐ人の顔色を見て、

 相手が望みそうな答えを選んじまう」


「今日も、本当のことを言わずに合わせた。

 だから木下さんだけが悪いわけじゃない」


……


先輩が謝る?


なんで?


優しいから?


……


「でも、わ、私は」


……


「だけどな、俺は優しくなんかないぞ」


「俺が木下さんを尊敬しているのは本当だし、

 音楽の事について話してる時は

 俺も勉強させてもらってるんだ」


先輩はバツの悪そうに笑いながら言った。


「卑怯?ズルい?

 そんな事言ったら俺もだな。笑」


「木下さんを利用して勉強してるんだから」


「だからさ木下さん、多分俺たちに足りない物が

 あるとしたら、『会話』なんじゃないかな?」


「思ってるだけじゃ、相手に伝わらないし、

 相手の言葉を受け取るだけじゃ、

 俺の思いはどこに行くんだってなっちまう」


……


「わ、私」


「木下さんのチューバさ、

 いつも周りの音をちゃんと聞いてるよな」


「…」


「だから皆、安心して前に出られるんだ」


……


「私」


「見た目程派手な『音』じゃないし、

 ソロだってそんなにない」


「点は取れないけど、支えてくれてるから

 皆んな安心して『音』を出しに行けるんだ」


「俺たちには『音』があるんだから。

 音楽で会話しようぜ!!」


「くさいか?笑」


……



先輩は笑っていた。


私も笑ってた。



本音をぶつけてなんだかスッキリした。


先輩にお礼を伝えて帰路についた。


なんか…缶ビールを貰った。


それと、


いつもと街が違う気がする♬


……


「お、お母さん!」


「ち、ちょっと、髪切ってもらえないかな?」


……



「おわ!ど、どうしたんだ木下さん」


「昨日はもっと長かったのに!!」


「お、俺のせいなのか…」


「ち、違いますよ!!き、気分転換…」


違うよ


……


「私なりの、前進です!!」


……


ねぇ、先輩は優しいね


違うよ、優しいけど…まっすぐなんだよ。



「音」で会話か。


なれるかな。


私も先輩みたいに。


まっすぐに。


……

………

ーーーー


次回 第7音

「仲間」


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