第49音 「俺達の音楽」
クリスマス、本戦当日
…
…良く寝た。
自分でもびっくりだ。
昔の俺なら、いつもより早く起きて
モチベーションを上げる為に走ってると思う。
人間、変わるもんだな…
…
カーテンを開ける!
水を飲む!
バナナを食う!
着替える!
部屋を出る!
普通の事が普通に出来てる。
それだけ自然体でいられてる証拠だな。
……
プップー
「お、サンキュー西田!!」
「まずは、おはようからであるべきでは?」
「悪ぃ、おはようさん!笑」
「全く…ついでに茜も拾っていくぞ。
メールが来てた『朝ヨロ!!』これだけだ…」
……
「ニッシー、おはよう!!あんがとねぇ♬」
「ほら、みろ!茜ですら挨拶出来るんだぞ
君も改めるべきだな。笑」
「ヘイヘイ」
「ちょっと、ウチですらって何よ!!」
「トーマも何笑ってんの!!」
「ウチ朝から気分悪いんだけど」
「「はっはっは」」
「ちょ、笑ってごまかさないでよ!」
「気にしない、気にしない」
学校に向かう途中のカフェで佳代と遭遇!
一緒に向かう事にした。
…
「佳代、良く寝れたか?」
「それが、すっごく眠れたのよ。
自分でもびっくり!!」
「分かる〜。なんかいつもより寝れた!!笑」
「普段から規則正しい生活をしていないから
そう感じるんだ。君らも淑女としてだな」
「はいはい、あいよコーヒー」
「むっ、すまんな。砂糖を入れてくれないか?
今日はそんな気分なんだ」
そんな取り留めのない話をしながら学校へ向かった。
不思議と誰もコンクールの話をしなかった。
今日が特別な日ではなく。
自分が歩いてる日常の一日なんだと。
そんな気持ちでいれたんだと思った。
◇
「みんな、おはよう!!」
「おはようございます、渚さん」
「渚どしたの朝から?」
「今日は…私も一緒に行きまーす!
ジャン!マイクロバス!!」
「おぉ〜!!って、運転できるんすか?」
「もち!キャンプでも行っちゃう?」
…
「アホな事言ってないで、行くぞ!」
「あ、教授も来てくれるんですか!?」
「おぉ、今日くらいはな。
良いから行くぞ、渚、車出せ!」
「ハァ〜イ」
…
……
無事…会場に着いた。
そう、無事に。
もう、渚さんの運転に乗るのはやめよう。
カシャ
「さすが、渚だな。速攻で着いたな」
「さて、俺達は客席で見てるよ。
だから、安心して失敗してこい!!」
「未完成なお前らの『音楽』で
俺を楽しませてくれ!!」
◇
「…」
「どうしたの、斗真くん?」
「ん、まどか」
「この大会に感謝だなぁ、って」
「だって俺達、12人だぜ?室内くらいの人数しかいないのに参加できるんだぞ!?」
「あぁ、確かにね、5人とか7人の人達もいるしね、ありがたいね!笑」
「俺達みたいにフルオケじゃない連中だって
『音楽』を持ってる。
だったら、みんなに聞いてもらいたいよな!」
「だね、私達の『音』響かせちゃお!!笑」
「…」
「まどか…クサイよ。笑」
「ちょ!笑」
……
出番が近づいてくる…
この大会は2巡制。
全組、1曲ずつ2曲を演奏する。
俺達の1曲目
ラヴェルの歌劇『子供と魔法』より 舞曲・抜粋
本来オペラとして演奏されるこの曲。
歌無しの抜粋版だ。
悪さをして怒られた男の子の部屋の、時計や家具、本。「モノ」が命を持って動き出し、男の子に抗議するファンタジーだ。
ジャズやラグタイム、フォックストロットの要素も取り入れた遊び心いっぱいの曲だ。
はっきり言って、まんま俺達だ。笑
茜には
オケに足りない音をピアノで補ってもらう。
「ウチも『オケメン』でしょ?」
「バッチリ任せちゃってよ!!笑」
だってさ。
……
「次、イディモニさん、準備お願いします」
「…時間…だな」
パコ!
「何カッコつけてんのよ、あんたは!笑」
「ひ、酷いぞ。由希子!!」
「はいはい、何?円陣でも組みたいわけ?笑」
「良いじゃん、良いじゃ〜ん!
ウチ円陣やりたい!!」
「…」
「あ、茜。ホンキで言ってんの?」
「ゆっきー、嫌なの?なんか下がるわぁ」
「やるわよ!!誰も嫌とは言ってないし…
ホラっ、やるならやる!笑」
「イェイ!!そんじゃトーマ掛け声お願い♬」
「お、俺か!?」
…
「ん?トーマ?…ちょっと、ちょっと、ヒロミ」
「えぇ、なんかあったわね、昨日の夜…」
「え、え、えぇ!!」
「あら、元気ね」
「私、前から怪しいと思ってまーした♬」
「こらこら、野暮だよ。笑」
「なんもねぇよ!!」
…
「ま、ともかくよ。ビシッと頼むぜ兄弟!」
「うむ、遺憾ではあるし、本人にその認識があるかは甚だ疑問ではあるが…」
「残念ながら僕らは、岬。君がきっかけでまとまったんだ。責任をとってしっかりやってくれよ!笑」
「…先輩…頼んます」
「YA-MAN!!バッチリ頼むぜ〜♬」
「そ、そうか?な、なら」
…
……
「…イディモニィ〜、ファイ」
「「オー」」
「…」
「ウチ、なんかそんな気してた。笑」
「ベタねぇ…♡」
「う、うるさいなぁ。しょーがないだろ。笑」
「せ、せんぱい!わ、私は気合い入りました!!」
「ベタイズNo.1でーす♬」
「ほ、ホラ、行くぞ。まったく恥ずかしい」
しまらないなぁ…笑
◇
パチパチパチパチ
「…」
静かだ…
心臓の音だけ聞こえてくる。
ワクワクの音だ。
俺はタクトをゆっくりと振り上げ
緩やかに降り始めた。
佳代のクラリネットと
まどかのフルートから始まる。
ストレートで芯のある高音。
2つの音色の違いが美しい緊張感を作っていく。
ルーカスのウッドブロックが時計の針を刻み
子供が、おもちゃのピアノを弾いているかのように茜がどこか滑稽に奏でる。
正解だった音がわざとバラバラになり
弘のコントラバスと
木下さんのチューバ
一心のバソンが
ドスン、ズシンと大時計にダンスをさせる。
ヒロミのトロンボーンのスライドがおもちゃ箱をひっくり返しジャズのリズムを刻んでいく。
破り捨てられた絵の羊飼い達の悲しみのように
由希子のヴィオラが一気に弓を引き、くすんだビロードの旋律が広がる。
月明かりの庭で踊るように
西田のバイオリンが艶やかに鳴り響く。
まるで音が生き物のように。
マリアのチェロの弓が深く、静かに引かれ
少年の心と傷ついた世界を優しく包み込む。
…
全ての音がなくなり
チェロとフルートだけが残り
少年の過ちを許すように静かに溶けていく
…
静寂が訪れ
行くぞ!!
ポーン…
和音が清らかに鳴り響いた…
…
……
………
「ワァーーー!!」
パチパチパチパチ
「ハァ、ハァ、ハァ」
タクトを握り直して、挨拶。
大丈夫、落ちつけ!!
順に退出…
…よしっ!!
…
…
「だぁ、疲れたぜぇ。神輿の比じゃねぇ」
「いやぁ、楽しかったな!Mano」
「あぁ、しんど。笑」
「確実にあたしのファンが増えたわね♡」
「は、はい、楽しく出来ました!!」
「まどかちゃん!!」
「佳代ちゃん!!」
「指揮しながら、みんなが音で遊んでいる
情景が浮かんできたよ!!笑」
「僕も危うく入り込みすぎてしまう所だったよ」
「分かるタクト落とすかと思ったぜ!!」
「…うん!…うん!!」
「最後のマリアとまどか。
泣きそうになっちゃったじゃん!!笑」
「それは私の愛でーす、あなたを許しまーす!笑」
「そんで、茜。お前の和音サイコー!!笑」
「ウチ、最後だけじゃん!!笑」
「ぶっ」
「「あっははは」」
「あぁ、やばい。本当楽しかった。笑」
「と、とりあえず行こうぜ。
周りの目が痛いし。笑」
…
はぁ、サイコー!!
……
ーーーー
次回 第50音
「俺たちのオケ」




