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イディアハルモニア  作者: 金柑


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第5音「茜色」

イディアハルモニア 

第5音「茜色」



夏の訪れを感じる、初夏。


ウチは大学の構内をノリノリで歩いていた。


最近ピアノを弾く事が楽しい。



ずっとピアノと向き合って来たけど、

自分の弾きたい音が分からなくなっていた。


パパもママも自分のペースでやりなさいって言ってくれてるけど、


本当は期待しているのは知ってる。



ウチは天才なんだって。


そりゃ嬉しいけど…


知らんよ。笑


ウチはピアノを弾く事が楽しかっただけで、

喜んでくれる皆んなの笑顔を見るのが好きだった。


……



それだけ。



……


だけどコンクールに出てから周りの反応が変わった。


  「天才!」


「100年に一人の逸材だ!」


「世界を目指そう!」


「コンクールに出よう!」


「もっと練習しよう!」


「もっと、もっと。」



…気づいたら


パパもママも笑わなくなってた。


……


自由に弾けないし、

楽しくなくてウチは家出した。


そして、自由の代名詞(勝手に思ってる)

ギャルになった。


そりゃ最初は中々大変だったけど、

今では立派なギャルになれたと思う!!


……


パパとママも今は理解してくれてる。


ピアノだって毎日弾いてるよ!


だって好きだもん!!


ちょっと前迄はそれで良かったんだけど


最近はなんか違う。


……


あの日から。


一人で弾くピアノが少しだけ寂しい


音は同じ


ピアノも同じ


だけど…



トーマっちと弾いた”音”が忘れられない。



他人の音に合わせる事があんなに楽しくて、

気持ちのいい物だと初めて知った。


……


それからのオケはもっと楽しくなった。


ピアノだけじゃなくて、色々な音が一つになるともっともっとワクワクする。



ウチ、こんな音を出せるんだって。



コレが成長!?笑


やるじゃん、ウチ♬


……


コンビニのおすすめ新作プリンを食べながらウチはそんな事を思っていた。



「ウマっ!ヤッバッ!!」


「タナやるねぇ、マジ神♬」




ウチの家は音楽一家ってわけではない。


パパは若い頃バンドやってたって言うけど、

今のパパの容姿からは想像が出来ない。


ママはどこに惚れたんだろ?笑


ピアノと初めて向き合ったのは、

小学校5年生の時だったと思う。


いつも泥だらけで、帰ってくるウチを見て、

女の子らしい習い事をやらさねばって

ママが言ったの覚えてる。




衝撃だった。


鍵盤を押すだけで音が出る。

自分がこの音を生み出しているんだって。


もっと衝撃だったのは、先生の演奏だった。


臨時の講師だったらしいけど、

繊細な指の動きに力強い音色。


先生がピアノを弾くと音に色がついて、

ウチに「音色」として溶け込んできた。


何より先生の顔が楽しそうで、

コロコロ変わる表情と音にウチは魅了された。


ウチのやりたい音楽が、そこにあったから。



それからウチはピアノにハマった、

そりゃもうずっぷりと。笑


我ながらヤバかったな…


風呂も入らず、学校がない日は

家からピアノの音色が止む事はなかった。


だから、近所からめっちゃ怒られた。


パパ、ママ…ごめん。笑


……


先生は1年くらいで辞めてしまったけど、

また会えたら今のウチの『音』を聴いて欲しい。


先生のおかげでピアノが好きになったよって!!


そういえば、先生はドイツ留学したんだって。


名前覚えてないから、

活躍してるのか分からないけど…




〜♪〜


「あかね〜、ご飯よ〜」


そんな事を思いながらピアノを弾いていたら、一階からママの声が聞こえてきた。


「はーい!今行く〜」


ウチはピアノ拭き上げて、下に降りた。



今日はカレーやねぇ♡




最近、ちょっと物足りない。

いや、楽しいのは楽しいんだけど。


オケのみんなとの演奏は楽しいし、


いっちん(一心)とスイーツも行ったし、


せんせーは酒奢ってくれるし、


ワンさんの中華屋ばっかりだけど。


タナのプリンチョイスは神だし、


いつも売り切れのコロッケは買えたし、


あっ、この間みっちゃんとスコア買い

に行ったとき偶然波多野さんに会って、

パンケーキ奢ってもらった♬


……


違う違う!!


トーマっちが来なくてなんかつまらんのよ。


構ってくれないし、


バトってくれないし、


プリン奢ってくれないし、


「すまん、しばらく曲と向き合いたいんだ」


だって。



大事なのは曲じゃなくて、ここにある「音」だと思うけどなぁ。




ウチは珍しく家の机に突っ伏している。


「良い名前が、出てこなーい!!」


新生オケとして、

新たに歩き出すウチらの名前を考えていた。


正確にはずっと前から考えていた。


「せんせー、センスがないよね」


「『アウトサイダーハーモニー』って、

 全然可愛くないんだよね」


バタバタしているとママに呼ばれた。


「あかね〜、ご飯よ〜」


「はーい」



今日は唐揚げかな?茶色は正義だよね♡




「どうしたの、珍しくうんうん言っちゃて」


ママは唐揚げを取り分けながら心配そうな顔で聞いてきた。


「うーん、オケの名前考えてる…今のダサい」


揚げたての唐揚げを頬張る。


ママ神!!


ちなみに、唐揚げの隠し味は塩麹らしい。

前日から漬け込むんだって。

レモンを加えて漬け込んでいるから、

ジューシーでさっぱりとしている!!

困った事にいくらでも食べられるのだ。笑



「なるほどねー、茜あんた、かっこいい名前とか

 可愛い名前とか考えてるんじゃない?」


「そりゃそうっしょ!

 テンション上がるのが良いしね」


ママは優しく微笑んで


「ママは違うと思うな。

 もっとストレートで良いんじゃない?」


「カッコつけて、

 人に良く見られたいって考えてんなら、

 『あそこ』はそんな場所じゃないでしょ?」


だって。



「…うーん」


確かになぁ…



「ホラ、冷めるわよ」


「そういや、パパは?」


「残業だって。笑」



ママの唐揚げは美味しいけど、

名前決めのせいでちゃんと味わえなかった。




頭スッキリさせるために、

お風呂に入ろうと思っていたら、

パパが帰ってきた。


「おかえり〜」


「おぉ、ただいま〜。いやぁ疲れた疲れた」


「最近めっちゃ残業多いくない?」


「そうなんだよ。クライアントからやり直しやり

 直しの嵐でさ」


「あ、茜も飲むか?」


「飲む〜」


「でさ、パパは今日言ってやったよ。

 ご希望は分かりますが、これが我々の製品の

 本質でありスタイルですって」


誇らしげに胸を張ってるパパ。


「それでな、パパは…こう…そした…」



なにかがウチの胸に刺さってる…



「茜、何飲んでんのそんな格好で!!

 早くお風呂入っちゃって!!!」


ママのお叱りで現実に戻されてしまった。


なんか閃きそうだったのになぁ。




それだ!!


ウチはベットから飛び起き、

パソコンに向かった。


「スタイル、本質、自分、ウチら」


あった。


え〜っと、


「イディオス(ἴδιος / idios)

        =「自己の・独自の」

「ギリシャ語の「イディオス」は、「自分自身の」「個人の」「独自の」という意味を持つ単語です。」


ふむふむ


「イデア(ἰδέα / idea)=「姿・理想」

プラトン哲学の「理想の姿」や英語の「ideaアイデア」の語源になった言葉です。 」


……


「イディオス、イデア…

 ねぇコレまんまウチらじゃん!!!」


「自分自身の…姿、理想。完璧じゃん!」


「…」


「イデアハーモニー…違う」


再度パソコンと向き合って


ウチは出会った。


「ハルモニア」

「古代ギリシャ語で「調和」や「一致」を意味する言葉であり、英語の「ハーモニー」の語源です。」


!!


「ギリシャ語の「結びつき」や「つなぐこと」が原点で、バラバラなものが全体として美しくまとまる仕組みを指します。」


「…」


「イデアハルモニア…イディアハルモニア!!」



……



宝物を見つけた気分だった。



その日は、なんか嬉しくて楽しくて、

ワクワクしてベットに入っても

「イディアハルモニア」ってぶつぶつ言ってた。


「イディアハルモニア!

イディモニ、#イディモニ!!可愛っ♡」



「みんな、しゅーごー」


なんだなんだとオケメンが集まってくる。


「はい、コレ」


ウチはテキパキとTシャツを手渡ししていく。


「今日からウチらは『イディアハルモニア』」


先に着込んでいたTシャツをババーンと見せつけてやった。


「…」


「…」


「イディモニって事でヨロ♬」


ポカーンとするオケメンに


「アウトサイダーハーモニーなんて

 ダサいじゃん!!

 ウチめっちゃ考えたんだ♬」


……


「イディアハルモニア、

 イデアとハルモニアか…」


せんせーが後ろからぶつぶつ言いながら来た。


「あっ、せんせーのもあるよ〜」


「おっ、サンキュー」


「良いじゃねぇか、『イディアハルモニア』」


「理想とか自身の姿、それと調和か」


「へぇ〜」「ほぉ〜」とみんな。笑


「なんだ、茜。頭使ったな、らしくないぞ!!」


ウチの頭をグリグリしながら笑って言った。


「だって前のダサいんだもん、可愛くないし」


「お前、ひどいな…」


「ま、お前らにはピッタリじゃねぇか」


「そう、ウチらの音」



ウチはワクワクが止まらなかった。



「それで、どうしたんだこんなに大量のTシャツ」


「ウチが作った」



夜鍋した。


一枚一枚シルクスクリーンで刷った。


インクまみれで頑張った。


……



「はぁ、曲の理解は一人でできるけど、

 楽器は無理だなぁ」



オケに顔出して皆んなに教えてもらうか


ヘロヘロになりながら、音楽堂に向かった。


まぁ、悪くない


久しぶりにちゃんと疲れてるよ、はは。




「あ、トーマっち!!やっと来たぁ〜。」


「あぁ、久しぶり!」


「そのイディモニってのは何なんだ?

 みんなTシャツ着てるけど…」


……


『イディアハルモニア』


「ウチ達の音!!」


「自分達の音!!」


「せんせーのアウトサイダーハーモニーって、

 クソダサいじゃん!笑」


「だから、めっちゃ頑張って考えた♬」



.....



トーマっちは笑ってた。


気に入ったよって♬


ウチは確信したね。


コレからもっと楽しい日々が


ウチらを待ってる。って。


……

………

ーーーー


次回 グレースノート

「戦友」


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