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イディアハルモニア  作者: 金柑


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第42音 「祭りが終わって」


後夜祭

音楽堂


「いや、おつかれさん!!」


「教授、酒臭いですよ!いつから飲んでんですか?」

「ん〜、分からん!笑」

「ちょ、片付けしてるんすからそんな所に座らないでくださいよ!!」


「坂下さんを送ったら、良い日本酒があるって言うからよ、渚と飲んだ!!」


「それより、見てたんですよね俺達の演奏」

「あぁ見てたよ。見たよ〜」



「ありゃダメだな、吹奏楽部の方がよっぽど良かったよ!!笑」


「そんな!

確かにあいつらの方が上手いと思いましたけど。俺達だって負けてないっすよ!!」



「ん〜、まあ良いんじゃねぇかぁ?

お祭りなんだから。笑」


「コンクールまで、まだあんだから。ヒック。

しっかり、『音』と向き合えや…zzz」


「ちょ、寝ないで下さいよ!!」



ピロン


『お兄、今日は茜ちゃんと佳代さん家に泊まります。だから打ち上げとかあったら、呼べ!!』

『追伸』

『まあまあ、カッコ良かったよ♬』


…うるせえよ!!


あっ、これで木下さんに夕夏紹介出来るな。



「どうする〜、学内で打ち上げ行くかぁ?」


「い〜や、私は生が飲みたい」


「そして、肉が食いたい!!」


「ルーカス!『晴れ晴れ』へ電話!!」


「イ、イエスマム!!」


「で、でも、もんじゃ屋だから肉って感じじゃねえぜ由希子?」


「良いから!あるのよ肉」



「あ、ルー1人増えるわ!!」

「YA-MAN」


ピッピ


『駅裏のもんじゃ『晴れ晴れ』で』

ピロン

『りょ!』


早っ。



「「かんぱ〜い!!」」


「ゴク、ゴク、ゴク…ぷあーー!」

「あぁ、効くわぁ…」


「アンタのその姿見て、

何処に殿堂入りの要素があるのかしらね」


「ありゃ、あたし。こっちは私」

「あっ、なるほど。笑」


ガラガラガラ


「いらっしゃいませー」


「あ、あの、待ち合わせを…」


「おぉ、斗真のとこの!!」

「なんやえらい可愛いなぁ♡飴ちゃんいるか?」


「おい、穂乃果ぁ〜、絡まないでやってくれ。笑」

「あいあい。ウチは穂乃果や、よろしくな」

「は、はい。夕夏です」



「コッチコッチ!すぐ分かったか?」


「もうさ、お兄の周りの美女率の高さに慣れちゃったよ…関西弁の優しいショートカットギャル」


「設定だけでお腹いっぱいだよ!!

そんでまた、デケェの!!

なんなの…もう、なんなのよぉ」



メソメソ泣く夕夏を連れて席へ戻った。



「おぉ、妹じゃねぇか!!」

「ふむ、待っていたのか。

すまないな片付けが遅くなって」


「あ、全然。さっきまでお母さんいたし。

それより、演奏凄かったです!!」


「母ちゃんもいたの?」


「時間まで付き合ってくれてた。

あ、それとこれ渡せって。ハイ」


「なんだこりゃ、まあ後でいいか」


「YA-MAN!それより何飲む夕夏!ビールか?」


「あ、あたし未成年ですけど。笑」


「ジュースでいい?笑

穂乃果ぁ、オレンジジュース」


「…もう頼んでおいた」


「あ、まどかさん弘さんありがと」


「いえいえ。それよりどうだった演奏?笑」


「は、はい、カッコ良かったです!!

茜さんのピアノも、皆さんのオケも!!」


「あたしも、ホルンやってるんでレベルの違いに驚きました!!」



「そういえば、ホルンの方は?」


「あ、そうそう!何故か1日目に会えなかったからな」


「あれ、木下さんは?」


「みっちゃん?お花摘みに行ってるわ」

「ありゃ」



「それより由希子、肉って?」

「そうね、そろそろ良いわね」


「店長!!」


「ドン!!」


目の前の鉄板には生のステーキ肉。


ぶ、分厚い…


「これは、店長から相談を受けて完成した

塊ステーキ…」


「その名も、『肉のエアーズロック』よ!!」


「イェーーイ!!よっ由希子アンタが大将や」



「こ、これ焼けんのか?」


「もちろん完全には無理ね」


「店長から、見栄えも良くて、それでいてちゃんと美味しくて、この店だから意味がある物」


「そんな相談を受けたのよ」


「お、おい待て。全く君1人で考えたような言い方は好ましくないな」


「その由希子から相談を受け、鉄板とは何か」


「肉の本質とは何かを考えた末に生まれたのが

このステーキだ!!」


「何よ、名前つけたのはあたしじゃない!!」


「見てよ、本場エアーズロックを彷彿させるこの

厚み♬」


「聞こえるでしょ、目の前でじっくりと焼かれていく、この音♡」


「そして、シンプルな塩胡椒。

付け合わせのニンニク!!」


「最早、暴力としか思えない肉の魅力!!!!」



「お、おお、熱弁ありがとよ。

んでどうやって食うんだよ、コレ」


カシャ、カシャ


マリアが夢中で写真撮ってる。

確かに絵力が半端ないな。


「まだよ、このステーキには我慢が必要なの」



「時が来れば分かるわ」



ピッピ


「お兄、お母さんから電話。ちょっと外出るね。

ちなみに、残しておいて下さいね!」


「安心なさい、あと15分はかかるわ」



ガラガラ



「ふぅ〜、スッキリしました」


「わ、な、なんですか、こ、このお肉!!」


「『肉のエアーズロック』だって。新メニュー」


「ほ、ほぇ〜、ぶ、分厚いですね。ど、どうやって食べるんです?」


「待つんだって…あと15分…」


……



「時が来たわ…」



「穂乃果、皆んなに生を!あたしは大で!!」


「この肉には…生よ!!」



「店長、お願いします」


厨房から包丁を持って、店長が出てきた。



ガラガラ



「あ、間に合った!!」


「夕夏、早く早く、やっと食えるぞ!!」


「もう限界よ、肉とニンニクの焼ける匂い♡

生殺しだわ!!」



「あ、あの」


無言で、塊の肉を切り出す店長。

切る度に閉じ込められた肉汁が鉄板の上で踊りだす。


あぁ、なんて美しい手捌き。


「せ、せんぱい」



「この厚みには苦労をしたよ」


「一見、肉を焼いてただ切っているだけだが、元々の肉の厚み、そしてカットした肉の厚み…」


「個体差のある肉で、その時々でカットする厚みを変えなければならない」


「しかもデカければ良いという事でもない!!

鉄板との相性があるのだ」


「ガスの火力、鉄板の厚み…

それらを考慮した適正な肉のサイズ!!」


「…ふふ、まさに奇跡だな」


「誰でも真似できる!だからこその本物との違い!!これ以外はただの肉焼きだ」


「素晴らしいわ、西田!!」


「ふふ、僕とした事が少々熱くなってしまったな」


2人が握手してるよ…



「せ、せんぱ〜い」


「そ、そろそろ、良いかな?」


「あ、そうね召し上がれ」


「焼き加減はレアだから

後はお好みで鉄板で焼くのよ」


「あ、ニンニクを乗せて巻き込んで食べるのがおすすめよ!!」


ゴクッ


「い、頂きます!!」



はぁ、なんだこれ?

ただのステーキじゃない。


時間がかかった答えが確かにある!!


じっくりと焼かれた両面。塩胡椒が口の中でカリッとしたアクセントを与えてくれる。


閉じ込められた肉汁が噛む度に

俺の口の中で弾けて幸福を与えてくれる。


シンプルな塩胡椒だからこそ分かる肉の甘み。


ニンニクを乗せろ?


肉を巻き込め?



はっはっは、コレが正解だ。


巻き込んで食べることにより

肉と肉汁とニンニクが一体となる。


俺は、ステーキというものの、

一つの答えに出会ったのかもしれない…



(ハァ〜、な、なにこれ?

肉をただ焼いただけじゃ…ない!!


焼いている時は確かに『肉のエアーズロック』だったわ!


オーストラリアを象徴する大地そのもののようにそびえる肉塊。


電話で離席した自分が憎いわ。


そして、カットされた今。


あぁ、なんて語彙力がないのかしら。


口に入れ、噛んだ途端に口中に広がる肉汁。


そう、コレはナイアガラの滝。


肉汁のナイアガラだわ!!)


……


「あ、あの、せ、せんぱい!!」


はっ、トリップしていた…


美味いし、上手いな『肉のエアーズロック』

鉄板を囲んでみんなで食べる。


もんじゃ屋の理念そのものが表現されているな。


うんうん



「木下さん、ごめんごめん。呼んだ?」


「い、一応、何度か…」


「んで、どうした?」


「い、いやその、い、妹さんを」


「…」


「あ、ああ、そうだった!!」


「おい、夕夏、夕夏、帰ってこい!!」


「お兄?」


(ト、トリップしてしまったわ。

や、やるわね『肉のエアーズロック』!!)


(コレは鍋と同じね。

もんじゃもそうだけど一つの物をみんなで食べる事で一体感が生まれるわ)


「お兄、ごめん、ごめん。呼んだ?」


「紹介出来なかった、もう1人の仲間。

木下光海さんだ」


「は、はじ、初めまして、

き、木下、み、光海、です」


(頑張った、頑張ったわ私!!

初対面とはいえみんなも居るし、

先輩の妹さん。やったわみつみ成長よ!!)


「あ、初めまして、夕夏です!よろし…?」


「木下さん?」


「は、はい!」


「ヒシッ!!な、仲良くして下さいね!!!」


「は、はひ!!」


「ホルン素敵でした!私も、ホルンなんです!!」


「ふ、普段は、チ、チューバなんです」


「せ、せんぱ〜い」



「ご、めーん、遅くなっちった!笑

yukiと飲みの話してたら、めっちゃ遅くなった!!ウケんね♬」


「ほわ、何その肉!店長新メニュー??」


「茜、写真見まーすか?

美しさと暴力を兼ね備えた肉壁でーす」


「ヤバ!!ちょ、ウチの分は!!」


……


夕夏、お前はまだ成長期だよ…


……


木下さん…


…ごめん



ガラガラガラ


「ほな、またなぁ!!」


「気ぃつけや〜」



「フィ〜食った食った」


「悪いな佳代、こいつ泊めてくれんだろ?」


「いえいえ、何か相談したい事があるみたいで、

茜ちゃんにも」


「すまん、なんかあったら連絡してくれ」


「大丈夫よ。私もお友達とお泊まりなんて

初めてだから楽しみ♬」


……


「ラッシャセー」


「よっ、タナ!!笑」


「ナンダ、アカネか」


「オォ、カヨもイタカ!!カヨ何か飲むカ?

タナ、オゴルヨ」


「なんか、むかつくんですけど…」


「トーマ、ソレナンダ?」


「あぁ、俺の妹だよ。夕夏だ」


「妹カ、チッサイネ!プリンヤルヨ!!」


「は、はぁ」


「俺、外にいるから。ビール頼むわ!!」




「俺、外にいるから。ビール頼むわ!!」



うん、今聞いてみよう。


「かよかよ、ちょいトーマっちに話あるから」


「はぁい…ねぇ、夕夏ちゃんどれ飲む?」


「えっ?お、お酒…入れちゃえ♬」



ピロリピロリ



あれ、何処行ったかな?


いたいた。


…よっし。



「ん?茜どうした、買い物はいいのか?」


「うん、ちょっとね…」


「ホイ、ビール!」


「サンキュー♬」


カシュ


プハァ


「しかし、やっぱりお前のピアノはすげぇな」


「俺、指揮者に転向して良かったよ。

ピアノじゃお前にぜってぇ勝てない!!笑」


「ふふん!ウチ天才らしいし♬」



違う違う!




「それと、葵さん。笑

普段と違った魅力で素敵でしたよ?笑」


「ちょ、やだやめてよ!!笑」


「でも、どーすんだミスの事」


「ホントの事話して来た。

んで、結局由希子がミス!ウケるっしょ?笑」


「そっか、勿体ねえな。お前の実力だろ?」


「最初っから、普段の茜で出てりゃ良かったんだよ。由希子…には勝てないかもだけど」


「ありゃ、バケモンだよな。笑」


「な、何、口説いてんの!!」



だぁーー、違うって!

なんで良い雰囲気になってんの!!




「何はともあれ、コンクールに向けて良い練習になったよな」


「俺達まだまだ、上目指せるよ」



あっ、今




「…ねぇ、トーマっち」


「どした?」


「楽しかった?」


「あぁ、久しぶりにバカやった気分だな!

やっぱ、息抜きは大事だな!!」


「コレで練習にも身が入るってもんだ♬」


「…」


「違う…オケ、楽しかった?」


「あ、あぁ。まだまだなのはわかってるけど?」


「…楽しんだ?」


「もちろん!!」


「…『音』を『音楽』を…楽しんだ?」



「だから、楽しかったってば!!

一体、なんなんだよ?」


「あれか、茜とルーとマリア」


「お前らなんかあったのか?」


「それとも俺の指揮に不満か?」


「はっきり言ってくれよ!!わかんねぇよ」



「…ねぇ、市の大会覚えてる?

あれ、めっちゃ楽しかったよね?」


「ウチ勝手に曲変えちゃって。笑」


「あぁ、もちろん覚えてるよ」


「観客の手拍子に子供達の歌があって。

俺達も歌ってたな!笑」


「会場全体が一つになって『音楽』してたよな」


「…うん、ホントそうだったと思う」


「でも、ひどいもんだったな。

今だから良く分かるよ」


「技術が追いついてないってやつ。

一心なんかバソンに変えたばっかりだもんな!

そりゃそうだろって!!笑」


……


「でもさ、楽しかった…でしょ?」



「でもさ、楽しかった…でしょ?」




「あぁ、楽しかったよ…?」





あっ、分かった。


分かってしまった気がする…


茜が何を言いたいのか



俺は技術を求めた。


それは悪くない


上達していく事に夢中になってしまったんだ。


今まで、逃げていた自分に


はっきりと成長が見えたから


見えてしまったから


あまりにも心地良かったから。



見えなくなっていたんだ


観客の『心』が


何より音楽を楽しむという『心』が。


茜、マリア、ルーカス


感覚派の3人にはわかっていたんだ。



俺は、またやってしまったのか?


これじゃ最後の試合の時と、同じじゃないか。


仲間の声も「心」も聞かず


目標だけを押し付けたあの時と


それに茜は自由のない楽しさのない


音楽を押し付けられた。


ルーカスとマリアは


さぞ、楽しくなかっただろうな


あぁあ


俺…またやっちまったのかなぁ?


……


「ねぇ、トーマっち」 


「ウチ、今楽しいよ!!」


「みんなとオケ出来て」


「だってウチ、ピアノだよ?」


「なのに、

絶対ピアノ協奏曲入れてくれるじゃん?」


「みんなと一緒にオケの舞台…

楽しくないわけないじゃん!!」


「みんなで、一つの『音楽』を作り上げるの!」


「それでさ、上手く出来ると嬉しいんだよ」


「ウチだってそうだよ」


「今、皆んなその嬉しさにハマってるの」


「ソレって、厳しいけど優しいから」



「オケってさ、

1人じゃできない、皆んなの『音楽』だよ!」


「だから楽しいんだよ!!」


「あぁ、なんか頭ぐちゃぐちゃになってきてる」


「ともかく、だいじょ〜ぶ。

間違ってるけど、間違ってない!!笑」


「だから、焦らないで!」


「自分に期待を押し付けないで!」


「みんな一緒に歩いているから!!」



「い、以上!!」


「…」


「な、なんか言えって!恥ずいじゃん!!笑」


「…」


「ちょ、ちょっと!!」


ガシッ


「わぁ、急に肩掴まないでよ…」


「そっか、だからだ」


「だから俺達の曲、覚えてなかったんだ」


「そりゃそうだよな?笑」


「俺は今の音じゃなくて、

楽譜と理想を見てただけなんだ!!」


「そっか、そっか!!笑」


ぎゅー


「ひゃー!!

ちょ、ちょっと、ダメ。ダメだよ」


「はっは、サンキュー茜!!」


「そうだな、変われっかな?

いきなり無理だろうなぁ!はっは。笑」


「ちょ、ダメだってば!!」


「トーマっち!!」


……


「ほほぅ♬

佳代さん佳代さん、あれ!」


「あら、大胆!!」


「やっぱり、2人は…?」


「さぁ?笑」


「むむ、意味深ですね!?笑」


「他人が首突っ込む事じゃないの♬」



「上手く説明できないんだけど…」


「私達って、そういうのじゃないんだ。笑」


「いつか変わるかも知れないけど…

多分…まだ無理かな!笑」


「ん?なんか難しいですね。

佳代さん、哲学ですね〜!!笑」


「そうよ、難しいの私達は!!笑」


……


無理だろうな…優勝なんて!笑


変われないだろうな…いきなり!笑


皆んなに伝わるかな?


その前に、謝んねぇと!笑


はっはっは。



まっ、いいや!!



一歩ずつやり直そう。


みんなで、一歩ずつ!!



……


ーーーー

次回 第43音

「木下光海の場合 2」


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