第41音 「残響」
学祭2日目
「いよいよ、夕方に演奏会だ!」
「昨日は、散々遊んだからな。
皆んな気力マックスだろ?」
「出た、ノーキン!笑」
「アンタと違ってあたしなんか、殿堂入りよ!」
「レジェンド大会とかの打ち合わせでもう大変だったんだから!!笑」
「はいはい、そんな事言って昨日遅くまで練習してた由希子さんを俺は知ってます。笑」
「なっ!!」
「それより、あたしの妹はどうしたのよ?」
「ヒロミ、お前のじゃない!!
今日はうちのオカンも来るから、一緒に見て回るってよ」
「あら、それなら良かったわ♡」
「あたしのトロンボーンもしっかり見てもらわないと!!」
「なんたって、このあたしの為にされた編曲!!」
「そう、まさにあたしの曲♡」
……
ピッピッピッ
「あら、由希子電話?」
「あっ、すいません。救急車を一台」
「はい、なんか脳にウジが沸いてしまって」
「キーーーーッ!!」
また、始まった。笑
……
「あ、あの。せ、先輩の妹さん?
い、いらしてたんですか?」
「うむ、中々聡明そうな妹さんだったな」
「そりゃ、そうだろ!」
「兄弟の妹だぞ?俺達の妹って事だ!」
「半端なヤツのはずがねぇ!!」
「ウチと佳代に、
相談したい事あるって言ってたよね??」
「…いいヤツ」
みんな、ウチの愚妹を…泣
…
あっ、木下さんだけ…
「わ、わたし、お会いしてないです〜泣」
「あ、ごめんごめん!なんかタイミングが合わなかったよな!!笑」
「あとでちゃんと紹介するからさ」
「わ、私だけ!!…泣」
一同、爆笑!!
……
Camille Saint-Saënsの
(カミーユ サン=サーンス)
ピアノ協奏曲第2番、第3楽章。
トロンボーンを加えて。
まるで、映画音楽のようにドラマティックなこの曲の、第3楽章。
トランペットのいない俺達は
ヒロミの雄々しく
繊細なトロンボーンが生きるように
俺達なりの編曲を行った。
そして、
ゲームのラスボス戦や映画のクライマックスを彷彿させるこの3楽章は、ピアノの超絶技巧をオケが全力で追いかける。
アグレッシブで攻撃的なこの曲は、
今の俺達にピッタリだと思う。
俺達は小編成の為、イディモニ用にアレンジしたバージョンだ。
◇
茜の超絶技巧にレベルアップしたオケの力。
元々、チューバが編成されていないので
悩んでいたが、
「わ、私元々ホルンです!!
こ、今回ホルンで行かせてください!!」
「ホ、ホルンもたまに練習続けてたんです。
アンブシュアも息の使い方も全然違うので……」
「で、でも、違うからこそチューバに戻った時に、分かることも多くて!!」
「わ、私もっとレベルアップしたいです!!」
木下さんから、やらせて欲しいって言われちまったよ…笑
「でもいいのか、あまり時間はないけど…」
「わ、私は、今回の演奏会はコンクールの為の、大事な、準備、だ、だと思ってます!
だ、だから、ここで上へいくんです!!」
「し、失敗するかも、で、ですが…笑」
「…いや、ありがとう!
流石木下先生だ!!」
「…この方が俺達らしいよな?」
「この演奏会をしっかり踏み台にさせてもらおうぜ…ニヤッ」
「せ、せんぱい、わ、悪い顔です。笑」
◇
「さて、出番まではまだまだ時間あるし。
もう一丁合わせるか!!」
俺はタクトで、指揮台を叩いた。
激しいピアノの指使い…
食らいつき、追いかけるオケ…
良いじゃん…
木下さん…やるなぁ…
茜…
…凄い!!
……
ジャン!!
俺は、静かにタクトをおろした。
ヤバっ!!!!
「お、おい、兄弟!一番の出来じゃねぇか?」
「うむ、皆素晴らしい出来だと思う。
一心、お前以外はな!笑」
「うるせぇよ、西田!このメガネが!!笑」
「…」
「「ブッ、はっはっはっは!!」」
…
「せ、せんぱい、ど、どうです?
ちょっと、チューバの、く、クセが出ちゃった、か、かもです…笑」
「いやいや、すげえ良かったよ!!
さぁすが、木下先生だ!!笑」
「なあ、弘!!」
「…ウン…木下、天才」
「ち、ちょっと、お、お二人とも!!笑」
…
「由希子…」
「ヒロミ…」
拳を突き合わせる二人。
「え〜、私を入れてくれないんだぁ〜、
メソメソ。笑」
「ばっか、違うよまっどか!!笑」
…
「茜…やっぱり」
「ルールー、私必要だと思ってる」
…
「YA-MAN。俺は音楽の事は分からない」
「だけど茜の事は信じてる。
だから、俺は何も言わん!!笑」
「頼んだぜ、Mano!!笑」
「うん、これはウチの仕事だと思うから…」
…
「…ルールー」
…
「…どうしよ〜、なんて言えば良い??」
「ヘ、ヘイ、Mano…笑」
◇
そろそろ本番の時間だ。
前半は芸人さんのお笑いライブ、
有志の学生漫才ライブ。
あっ、あの芸人さんは「この街大好き」の!!
漫才終わりで、司会してくれるんだ!!
…
しかし、プロは違うな。
「ねぇ、
あのアイドルってテレビで来てた子よね?」
「あぁ!だから何処かで見た気が!!」
「アンタ…有名よあの子。笑」
「由希子も見たんだな『この街大好き』」
「茜からメールで、『ヤバイ、ウチ全国デビュー!!』とか来たからついね。笑」
「よくそんな売れっ子アイドルとベテラン芸人さん呼べたなぁ、ウチの学校」
「ウチが呼んだ!!笑」
「この間パンケーキ一緒した時に、
yukiにお願いした♬」
「中西っちも、メールしたら『えぇで♬』って」
…
俺は、お前のコミュ力が怖いよ…
…
「さて、久しぶりやなぁyukiちゃん!
元気しとった?」
「昨日も、収録一緒でしたけど…」
「あらら、って、そこは合わせてーな!!笑」
「この子、めっちゃ上手くなってますわ!!笑」
「皆さん、『この街大好き』見たよ〜って方、
いてますか〜??」
「結構いますねぇ!!ありがとうございます♪」
「そうなんですわ、あの番組がご縁で、
今回僕ら二人に是非司会をして欲しいなんて言われまして」
「そうなんですよ!
友達もいるし、私すぐOKしちゃいました♬」
「yukiちゃん、事務所通してる?
あかんよ、闇営業は!!」
「通してます!!
でなきゃ、メンバー全員で来れませんよ!笑」
「あはは、そらそうやな」
「まったく!!
あっそうだ、中西さん、大変なんです!!」
「な、なんやyukiちゃん!?」
「それがですね…みんな!!」
「「私達、sound playの4thシングル
『ZAMSYO』が、明日リリースされまーす!!」」
「この曲は、夏はまだまだ終わらない、この恋終わらせてやるものか〜っていう、女の子の燃える恋をテーマにした曲です!!」
「…」
「宣伝やないかぁ!!」
「ホンマ、腕あげたなぁ。笑」
「本日、ここで初披露したいと思いまーす!!」
「「うぉーー!!」」
「…」
「聴いて下さい。『ZAMSYO』」
ポップで、情熱的なアイドルソングが流れ始めた。
流石2人ともプロだなぁ…
……
「「うぉーーー!!」」
パチパチパチパチ
…なんか、客層が違くないか?
「yukiちゃ〜ん、あかんよ。
こないに盛り上げたら」
「このあと、学生さん達やで?
可哀想やないか!!」
「すいませ〜ん!ハァハァ」
「でも私、知ってますよ。
この後の皆さんも情熱たっぷりに音楽を披露してくれる事♬」
「皆さ〜ん、この後も盛り上がってくれますよね〜??」
「「うぉーーー!!」」
「おっちゃんは、yukiちゃんの成長が
嬉しくてしゃーないわ!!泣」
…
「さあ、早速行ってみましょう!
まずは、『ラムネ』のお二人です」
「わ、凄い!!SNSの総再生回数約100万回。
これは、ここからスターが生まれますね♬」
「それでは、
『ラムネ』のお二人で『ラムネ日和』
です、どうぞ!!」
「yukiちゃん、僕の仕事がなくなってますわ…笑」
……
「さぁ、次はクラシックですね」
「そやね、実は僕好きなんですわ」
「なんや、自分自身との対話っちゅーか」
「それでは「イディモニ」の皆さんでーす!!」
「ちょ、僕の意見は!!笑」
「「由希子様ー!!」」
「「ヒロミ様ー!!」」
二人とも凄いな。笑
「「木下ちゃーん!!」」
えっ?
「凄い、歓声ですねー!!」
「僕らの時より、大きいんと違う?笑」
……
「準備出来たようです、
それではイディモニさんで
Camille Saint-Saënsの
ピアノ協奏曲第2番、第3楽章です」
◇
行くぞ、皆んな!!
無言で皆んなと合図しあう。
頼むぜ…茜…
俺はタクトをゆっくりと持ち上げ、
一気に振り下ろした!
ドカン
強烈な重低音から始まるこの曲。
そして…
来た…
来た…来た!
重低音の残響の中に切り込んで
茜の超絶技巧が始まる。
不穏なトリルから始まり
濁流のように流れる指先。
急降下と急上昇を繰り返すタランテラ。
まるで、何かに取り憑かれたように
弾き狂う茜。
…あっ、いや笑ってるわ。
低音で蠢き高揚感を煽るオケ。
…良いぞ、リハの何倍もいい!!
激しく燃え上がる、オケの伴奏…
その中心には茜のピアノ。
…
……
…笑っていない!!
むしろ寂しそうな表情だ…
何故、この曲で…
俺はタクトを振りながら皆んなを見回した。
…
…ルーカス
…マリア
茜だけじゃない、2人も少し悲しそうな表情。
どうしたんだお前ら!?
…
だけど、音は良い。
表情だけが?
何かあるのか?
わからない…
だって、最高の演奏だぞ!!
俺達合宿前とは段違いに上手くなってる。
…
茜のピアノがブレーキが壊れたように
猛スピードで終わりに向かう。
それに食らいつくように、フォルテッシモで
ぶつかるオケ。
…疾走!!
行くぞ
フィニッシュだ!!
ジャ・ジャ・ジャン!
…
……
「…パチパチ…」
「パチパチパチパチパチパチ!!」
「「わぁーー!!」」
ハァハァハァ。
ふぅ、
やっと歓声と拍手が聞こえてきた。
ミスもあったし、少し変な感じもしたが、
見ろこの反応を!!
やはり、
素晴らしい演奏には
お客さんも応えてくれる。
俺達はあの時より、上達している!!
◇
「「わあーー!!」」
「…マネージャーさん…大丈夫?OK!!」
「茜ぇ〜」
「yuki〜」
「凄かった、凄かったよ〜!!」
「ブイ!!笑」
「あっ、皆さん。お友達の茜ちゃんで〜す!!」
「ブイ!!!!」
「『この街大好き』を見てくれた人は気付いているかも知れませんが、ここの学食でプリンをくれたのが彼女で〜す!!」
「ブイ!!ブイ!!」
「ちょ、ちょ、おっちゃんは仲間外れかい!!」
「そやねん、あの時の縁で僕らに声かけてくれたんが、この子ですねん♬」
「イッエーーーイ!!笑」
「いや〜、ホンマ凄かったわぁ。なんか始まって一気にゴールまで連れて行かれた気分やね」
「ほんと、茜がピアノ弾き始めて…
なんて言うのかな、川に飲み込まれて、時折掴める物があって、掴もうとするんだけど、気がついたらゴールにいた。そんな感じ」
「いや、僕のと同じやん!!笑」
「ちょっと違いますよ!!笑」
……
「さて、以上イディモニさんでした〜!!」
「茜、あとでね〜」
「さあ、フィナーレを
調国の吹奏楽部の皆さんにお願いします」
「もう、最後かいな?」
「なんや、寂しいなぁ」
「みんなも、そう思うやろ?」
「「わぁーー」」
「ほなら、ここで。
…ショートコント『コンビニ』」
「何やってんですかー!!笑」
「機材入れ替えで、10分後になりまーす」
「ならええやないか、コントやったって!!」
「邪魔ですよ、中西さん」
…
……
「さぁ、お待たせしました!!」
「お待たせしたけど、これで終わりなんですわ」
「フィナーレを飾って頂きましょう」
「調国吹奏楽部の皆さんで
チャイコフスキー:交響曲第5番 第4楽章」
◇
やっぱり、上手い!!
バランスが段違いだ。
だけど、俺達も負けていない。
キャリアの差は仕方ない。
だけど、俺達には伸び代がある。
ほら、今ラレンタンド。
リタルダント!楽譜と合ってないじゃないか。
あっ、でも…
アラルガンド……広がってる。
終わりが近い…
アテンポ!!ここで?
…
…
「「わぁーーーーーーーーーー!!!」」
「やっぱ、上手いな」
「だが、負けてねぇ。だろ兄弟!」
「あぁ…」
「何をしみったれている、ミスター調国!笑」
「僕らは今できる最高の演奏をした。
本番は今ではない。それで良いだろう」
「そうよ、それよりもあの指揮の子…
可愛いわぁ♡」
「ちょっとチビちゃんだけど身体全体で会場全体を見回してるみたい…ナンパしようかしら♡」
「うげ、アンタあんなのがタイプ?
うちの指揮の方が何倍もマシじゃない!!」
「岬、アンタを男としては見てないので」
「だな、コンクール前の良い練習になったな!」
「よし、片付けっか!!」
…
…
なんだろう、吹奏楽部の演奏。
圧倒的に聴きやすかった…
それに、『sound play』『ラムネ』、漫才。
記憶に残っている。
まだ、音も聞こえる。
なのに、俺達の演奏が残っていない…
そんな感じがする。
◇
「yuki〜♡」
「茜〜♡」
「ワシは!!笑」
「2人とも、マジありがとう!!
ウチめっちゃ感謝♬笑」
「えぇてえぇて、あれからいつもライブに
プリン差し入れてくれてこっちこそ感謝やで」
「中西さんも?
ねぇ、茜。あのイチジクプリンめっちゃ美味しかった!!」
「あれどこに売ってるの?」
「あぁ、あれはやばいわ、あんなん初めてや」
「ふっふふ…やまちゃ〜ん!!」
コンコン
「失礼します。調国市、広報課の山田と申します」
「よろしければ、少しお話を…」
…
「あっ、ちょっと待って!!」
「ね、ねぇ、2人とも…どうだったかな?」
「…うん、めっちゃ上手やったよ」
「…そうだね、私もそう思う。ほんとに」
…
「やけど、あれはあかん」
「客を置いてけぼりや。あれじゃ自己満や」
「茜、わざとでしょ。
一瞬ピアノを弱めたの。今なら分かるよ」
…
「僕らプロはな、お客さんあってのもんや。
せやから、お客さんの反応見なあかん」
「やけど、それだけでも違う」
「漫才のネタ、ツッコミの間、盛り上がり、
オチの回収」
「こんなん考えて組み立て、
その上で、お客さんの事考えなあかん」
…
「…うん、そうだよね」
「…やっぱりかぁ」
「だけど、本当にみんな上手だったよ!!」
「せやな、それはホンマや。
これからなんやな、君らは」
「…そろそろ、こちらで打ち合わせを…」
「おぉ、すんません。
ほなな。またライブ見に来てや!!」
「茜、またね!連絡する、飲みいこね♬」
「えぇ、なんで呼んでくれんの?」
「はいはい、一緒にいきましょうね!笑」
「…」
「中西っち…ライブで
お客さんウケてなかったよ!!笑」
「ほっとけ!気持ちや!!笑」
…
…
はぁ、
だよなぁ…
……
ーーーー
次回 第42音
「祭りが終わって」




